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第21話母の日

少し時間を遡ってーー。

市野町の虚楽の発生災害のあの日。

照は泣いて走ってどこかに行ってしまった。LENIも既読がつかない。

部長にも連絡したけど、被害対応でなかなか手が離せないらしい。親父ィィ。


市野町を探しまくったけど見つからず……結局、八課支部に帰ってきたら、屋根にぽつんと座っている照を見つけた。


「……てーる、ふふん探したわよ。」


「ここにいたのかぁ。照は流石、高いところが好きだなー」


あたしと茨は照を挟んで、隣に腰を下ろす。

夕暮れが街中を真っ赤に染め上げる。

穏やかな風は、今日起きた出来事の熱を、冷ましてくれる。


「ねぇ……どうしてヒーローって…自分が助けて欲しい時にいなくて、いざ自分が悪者になる時には、ヒーローに倒されるのかな。」


それは人間、零徒……制圧部。その関係性を表す言葉。

照はその関係性に、ずっと傷ついてきた。だが、この先もずっと、その関係性を変える事は……出来ない。


「そのヒーロー達って割と、誰かを救う為に働いてないのかも。」


「そうだな……俺も制圧部に入隊したのって、師匠を探すためだったし。師匠より強くなって、見返してやろうって思ってさ。だから烈日隊が壊滅したときは、己の弱さが悔しかった。これじゃあ師匠と、同じじゃねぇかってな。……フッ、結構自分勝手だろ?」


ちょっと悪い顔でニヤリと笑う。

所々、茨はそういうヤンチャな一面を見せてくる。


「……じゃあ、空が入隊した理由は?」


「あたしは……そうね。守られてばかりなのが嫌で、強くなって、負けたままを終わらせたかったから。」


一度負けた『賊軍』は、もう一生、勝つことは許されない。

それでも、"負けたまま"を終わらせることはできる。


「めちゃくちゃ自分勝手だ……。ヒーローなんて呼ぶのもったいないや。でも、そうだね。私たちはヒーローなんじゃない、侍なんだった。こんな自分勝手なヒーロー居てたまるもんか。」


「だから、ごめんね。その質問はヒーローに聞いといてちょうだい。あたし達侍だから。照だってそうでしょ?」


思い出すなぁ……照が詐欺に片足突っ込んでた時のこと。


「えへへ、そうだった。私が早く隊員になりたいのは…おかーさんに守って貰って、おとーさんにおかーさんを斬らせた……何も出来ない自分で居たくないから。うーん、空と似てるね?」


「ふふっ、そーね。茨と照は、昔のあたしにそっくり。だからあの時、見捨てる事ができなかった。……これはいつかの時の、質問の答えね。」


ふたりは忘れてるかもしれないけれど。……むしろ、あたしの方が、ふたりに救われているのよ。


「しっかし、親父さんも親父さんだなぁ。取り返しのつかない事しちまって……しかも未だに気づいて無さそう。」


「あぁ、それなら、今晩、部長に礼状を叩きつけに行ってくるから。明日に乞うご期待!楽しみにしておいて?」


声を聞きつけたのか、下の階からショーユが飛び上がって来た。


「いつの間に帰ってたッつ〜〜!?!?心配してたッつ!!!おかえりッつ!!!!!」


あたしたちの背中を押すのは、真っ赤に照らす夕日。

あたし達はその"赤"を背負う者だから。今日に別れを告げよう。


「「「ただいま!」」」


明日が来るのが、どうか、楽しみになりますように。






翌朝ーー。

「こちらにありますは、八課支部で使われていない部屋の鍵。今は倉庫になってる部屋ね。倉庫に何が入っているか!はい、もちろん、天変突破隊や天壊事件の遺品、資料!」


ここ八課支部には、使われて居ない部屋がいくつもある。その部屋は、当時使っていたまま、あるいは詰め込まれたままの状態。


「はい!質問があります!」


茨が元気に手を上げる。昨日、茨は照に自分の師匠の事を洗いざらい話した。照は、それ知ってたらもっと早くおとーさんに聞いてあげてたのに、とお互いに情報共有していなかった反省をした。あたしも。


「なんで俺が空に師匠のこと話した時に、部屋見せてくれなかったんですか!」


「すっかり忘れていたからです!ごめん茨。」


倉庫のこと、本当に思いつかなかった。頭に思い浮かばなかった。


「はい!私からも。おかーさんの名前は(ともり)、そして私が生まれる前は、天変突破隊だった。見た目は私そっくりの美爆女!」


部長は職場結婚だったのか。


「よーし!じゃあ部屋漁っていこう!」


何年も誰も触っていない部屋なだけあって、ホコリだらけ。ダンボール、ファイル、一つ一つ見ていると日が暮れそう。

本当はギルティお父さんも誘う予定だったけれど、彼は今頃酷い二日酔いで寝込んでいるので。堕龍と共に。


「え!?ちょっと見て見て!?」


照の嬉しそうな声が聞こえた。きっとお母さんの形見に違いない。急いで照の元へ駆けつける。


「何か見つかった!?」


「見てこれ〜!流しそうめん機!まだ使えるかな〜?夏になったらみんなでやりたいね!」


「…………そうね〜やりたいやりたいー」



そして、こういう場所が大好きなアイツも……


「茨!見るッつ!ヤンチャな茨が好きそうなかっこいいカブトムシッつ!」


「え?カブトムシ?……!?!?」


ショーユが見せてきたムシ(・・)は……


「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


茨の情けない叫び声。やはり遭遇は避けられなかった。


「ショーユ!俺はヤンチャな男の子なんかじゃないっ!かわいいヒロインだから!近づけるなっ!でも離すな!お外に逃がせっ!あとそれ、カブトムシじゃない!兜ないだろっ無防備なスキンヘッドだろっ!」


「でもせっかく捕まえたッつ!空と照にも見せるッつー!」


茨の叫び声を聞きつけた照は、G殺スプレーを持って駆けつける。

だがそこに待ち構えていたのは、Gを鷲掴むショーユ。


「無理無理無理無理無理無理っっ!!!!!!空っ空っ空!!!!!!!」


「うわぁショーユ、それ油虫じゃない。手で持つもんじゃないわよ。ばっちいから。はい、この袋に入れて。照、スプレー。ショーユはお手手洗ってきなさい?」


淡々と処理する様子を見て、怯える茨と照。


「なんでそんな冷静なんだよ……。得意なのかG」


「得意でも、好きでも無いわよ。気持ち悪いし。でも『昔』はしょっちゅう見かけたから騒ぐほどでもないっていうか。」


ドン引きしたのか、言葉を失うふたり。天に召されたムシを見てショボンなショーユ。


『昔』は夜とか食器片付けずに放って置くと……ね。それでも嫌なもんは嫌だから虫除けの御札貼ったりとか……あれ意味無かったなんて……。それにしても、油虫一匹に、ゴキジェット一缶。随分とコスト高くなったものだわ。




そんな感じで、探しても探しても目当てのものは見つからず、代わりにチョット良い掘り出し物が増えていく。生活に無くても生きていけるけど、彩りを与えてくれるようなヤツ。ありがたくてっぺん組で使わせてもらおう。


なのだが……実は、照に見せて良い物か悩む物が出てきた。


それは……「こうくん♡ともちゃん」と表紙に書かれた交換日記らしきもの。

明らかに棚の裏側に隠してあった。

ちょっと見させて貰ったけど、恥ずかしすぎて内容は公開出来ない。けれど、照が生まれる前……灯さんが退職する直前まで続けていたっぽくって、照にも見て欲しい部分もある。ただそれを見せると、必然的に他の部分まで見せることになる。正直、娘に見せるのは結構アウトな内容。

茨にもコソコソっと内容見せて相談する。


「……!?〜〜〜っ!!…………。」


読んでる茨の顔が面白い。内容は別に下ネタが多い訳じゃない。甘々すぎるのよね……。


「こ、これは〜……ギルティ(おとうさん)に渡そう。俺たちが抱えるには漆黒すぎる歴史だ。……あーでも頭がピンク……」


「二人とも何か見つけたの?」


どきーん。

急いで漆黒とピンクを隠す。


「いいや!?何も!?」


「あそう。じゃあこっちは大発見だよ!アルバム見つけた!天変突破隊の!」


「よくやった照!」


早速中身を拝見。

驚くべきことに、写真ひとつひとつに丁寧に付箋が貼ってあって、そこに一言添えてある。


お揃いの隊服での集合写真〔全員集合!〕

飲み会でふざけあってる写真〔揃いも揃って二日酔い〕

ギルティ(おとうさん)と灯さんの結婚式の写真〔我が親友達、おめでとう〕

・・・・

最後は、赤ちゃんの写真〔母 美爆女ともりん 父 イケメソこーうん ←勝手に書かれた〕



「最後の写真、赤ちゃんの私だ!」


「この字、師匠のだ。」


黒川は結構マメな性格だったのね。それに、仲間を大事にしてるのが伝わってくる。


「あれ、ちっちゃい可愛い照の写真と一緒に、紙挟んである。」


そこには……

〔この子は照!可愛い私たちの娘!

元気いっぱいに大きくなりますよーに!

母と父 (・)(・)より。〕


ギルティ(おとうさん)が最後の最後に仕込んだ爆弾には突っ込んだ方がいいのか。


「あはは、おとーさん上手いこと言っちゃって〜ぶははは!!!」


娘は爆弾を気に入ったらしい。ゲラゲラ笑ってる。良かったわね、ギルティ(おとうさん)。娘があんたの下ネタ笑ってくれて。


「そんなに面白いのかこれ。さすが……笑いのつぼが親子というか。」


その時、


ピーンポーン……

誰か来た。照がドアを開ける。尋ねてきた人物は言うまでもなく、


「照!ごめん!ごめんなさい!お父さんが悪かった!許してくれないのはわかってる!でも本当にごめんっ!!!!」


照のお父さん。謝り倒してる。


「許す。」


あっさりと。後ろで様子を覗いていたあたしたちも拍子抜け。


「だけどひとつ聞く。私とお母さんが好きなものは何。」


「ミニステップのソフトクリームとハレハレ……。よく3人で食べたよな。その……お父さんが捨てたのはソフトクリームの持ち手の紙です……。」


たしかに知らなかったらゴミ。でもよりにもよって好きな物だったのかぁ……。


「……よろしい。ただし好きなもの、ちょっと違う!でも正しい答えは教えなーい!自分で考えること!」


「ちょっと違うのか!?わかった……自分で考えるから……許してくれてありがとう。……うぅ、良かった……もう口聞いて貰えないかと思った……」


涙ぐむ父。


「メソメソしないでおとーさん(ギルティ)。」


その日から誰も部長のことを部長と呼ばなくなった。





後日。

てっぺん組はミニステップに来ている。なんと照が奢ってくれるらしい。


「あたしはカップのソフトクリームで。」


「俺はハレハレで。」


「私はコーンのソフトクリームで!」


今日の午前中、照はギルティとお墓参りに行ってきたらしい。


「あたし達に御馳走しちゃっていいの?お母さんの好きな物なのよね?あたしたちもお墓に行って、一緒にお供えしようか?」


「そんな事したら溶けちゃうよ〜!それに、母の日のプレゼント忘れてたの思い出したから、今まさにおかーさんにプレゼントしてるところだし!」


茨と顔を見合わせる。プレゼント?


「小さい頃、こうやってアイス買って貰えるのが嬉しかった。こうやって、食べるのが好きだった。だから今度は、私が大切な仲間にそれをしてあげる。それが、私が今唯一できる母の日のプレゼント!」


満面の笑みで返す照。


「照ぅ……。ダメだあたし、こういうの弱いのよぅ……うぅ……」


「ちょっと茨、あたしの一人称と語尾真似して泣くの誤魔化さないで。」


「なんで茨が泣くのぉ。貰い泣きしちゃうじゃん……うぅ…ぐすん」


アイス片手にふたりして泣き始める。

背中をよしよしとさする。


「最近の我が隊員達は泣き虫だなぁ、よしよし、いい子いい子。」


照はそう、悲しい思い出を乗り越えて、そのうえで悲しいままで終わらせない。悲しい思い出に追記することができる子。


「私はかわいくて誇り高い娘だからね!」


その一言を。


ギルティが最後の最後に仕込んだ爆弾が分からない方へ

父の日=乳の日=みるきーずでい (・)(・)


安心してください。作者は女の子です。

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