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第22話よ~い、ピーン!

あたしは今日まで生きてきて良かった。この空間全てが、尊い。目に入るもの全てが、愛おしい。ありがとう、運命(ディスティニー)


この前、一課の3人と一緒に行くって約束した、「リストラさむらい」のコラボカフェ。現在進行形で、参戦中。

天律院?黒川?一旦置いておこう。


「染みる……この甘さが染みるわ……〈サム〉が、このホットミルク飲んで〈らい〉に想い馳せるの分かっちゃう……だってあったかいもん。」


このホットミルクは600円。

牛乳をレンチンしたらそんなの家でも飲める〜とかじゃないから。違うから。


「〈サム〉も寂しかったんだよなぁ。あったかさで心が前に向くっていう、その感覚、この前知っちゃった俺。」


「茨って結構涙脆いよね〜、ストーリーで毎回えんえんわんわん泣いてるじゃん。そういう所もかわいいけど、その後ショーユに頭撫でられてるの見るのが、私の最近の楽しみなんだよね。癒されるっ!」


隣に座る茨を見て、ニヤニヤする照。先日、茨はついに自分がヒロインであることを認めた。ありがとう。


「……茨くん、今度一緒に素材集め行こう!男同士、気軽に話しかけてくれ!何かと大変だろう?」


「めそめそすんなって。俺らがいるだろ?女子たち見返してやろうぜ?」


「おめぇの気持ちはよくわかる。あそこは名シーンだからな。だがそこでグズグズしてると、後々もっと心えぐられるぞ?」


誠刃隊の兄さんたちによる、茨の励まし大会が始まる。あたしたちが茨に何したって言うんだ。


「え?急に優しい……ありがとうございます?」


当の本人は別にヒロイン扱いを何とも思ってないらしいので、急な気遣いの意味を理解してないっぽい。


「それにしても、コラボカフェ終盤で満席なんてね。……さっきから他の席からの視線が痛いんだけど。」


「こいつのせいだろ。」


竜兄さんが刀の柄をたたく。


「いや、多分その持ち主の方が目立ってるわよ。」


耳をすませると聞こえてくる。ヲタクたちの黄色い声が。


「あれ誠刃隊の……っ!?」


「えやだイケメンっ!?」


「一緒にいる人達誰だろっ……」


さすが、この街の"ヒーロー"と呼ばれてるだけある。歩いてるだけでキャーキャー言われたり、謎のファンクラブがあったり……とね。

特に竜兄さんは誠刃隊ナンバー1のイケメンだから。


「顔が良いのは認めるけど、もうちょっとそのやかましいツラどうにか出来ないの?」


「そーだそーだ!竜さんはツラがやかましくて目立つ!俺なら手っ取り早く整形してやれるぜ?拳で。」


竜兄さん(イケメン)に文句を言うあたしと政晴兄さん。見られてて食べずらいのよ。


「誰がそんな物騒な整形手術受けるもんか。それに、残念だが俺はボコボコになっても絵になるんでな。」


え、やかまし……。


「そういえば、誠刃隊の御三方はどうして隊員になりたいと思ったんですか?みんなにヒーローって呼ばれてるから……一応聞いてみたくて。」


それは、照が以前あたしたちにした質問。そのおかげで、政晴兄さんの拳を下ろすことができた。


「俺たちはヒーローなんて綺麗なもんじゃねぇさ。そうだな……こうやって仲間たちとバカやっていたいからか?あと侍って、なんかかっこいいから!」


一兄は侍ヲタクなのよね。ずっと憧れだったんだって。


「俺は強いやつと勝負すんのが楽しいからかなぁ。最近は空ちゃん、めっきり稽古に付き合ってくれなくて寂しいぜ。あ、今度の一刃頭指導の時、俺が八課に当たれば……」


「冗談きついって。」


政晴兄さんは……ほんとに戦闘を楽しんでるっていうか。あたしも、この人との稽古は付き合いたくない。手加減とか理解できない人だから。まじで。


「ヒーローなんて勝手に民衆が呼んでるだけだ。別に答えてやる義理はねぇ。俺はただ、性に合ってる生き方が侍だっただけだな。」


竜兄さん、公に言ったら炎上しそう。一応、あたし達のお給料の元は民衆の皆様の血税でございますわよ。


「……誠刃隊の人たちが週刊誌の取材受けないことを願っときますね。」


「あーあ、照この前まで誠刃隊の人達とすれ違うとキャッキャ言ってたのにな?もう二度と無さそうだ。」


誠刃隊に盛られたキラキラが吹き飛んだ瞬間だった。


そうこうしている間に、妙に湿度が高めのカップルが後ろの席に座る。

こちらを見て、舌打ちした?


「こんな平日の昼間からコラボカフェとか…制圧部って仕事してんのかよ。しかもヲタクって……暇そう。モテなさそう。」


後ろの席からアンチが聞こえてきた。

ど失礼。

どの界隈にもアンチは湧くもの。そんなアンチが偶然後ろの席に座るなんて、よくあるよね~!?


「特に青髪の女とか、絶対負けヒロインだろ。当たって砕けてそう。」


よく言うよね~それ。青髪は負けヒロイン。


・・・・。


「おい、鼻くそ飛ばすぞ。」


(わぁ~美味しい!コラボカフェ最高!)


「空、心の声と台詞、逆になってるって。」


「こら、そんな女の子がお下品なこと言っちゃいけません!」


茨と一兄に宥められる。

おっと、ついつい……。

でも、アンチの声は止まらない。


「てか誠刃隊って彼女とかいるのかな~さすがに居るか!てか20歳超えて恋人できなかった人って存在するの?」


時々そういう呟き、ツミッダーで見かけるわ。


「……空、鼻ホジる準備しろ。覚悟はもうできている。掛け声は、よ〜い、ピーン、でいくぞ!」


「待ていっちゃん、空はやめろ。代わりに政晴。行け。」


「よし来た。がってん承知之助。」


この3人は、恋人履歴が無かった。

理由は……この通り。


「せっかくのイケメンが台無しだ……。御三方はモテてそうなのに。」


茨が残念なものを見る目で、鼻クソ砲を打とうとしている彼らを見守る。


「モテる。だがしかし、好みの相手がいない。2次元しか好きになれなくなった男の末路だ。」


「いや竜義さん……そんな悲しい事を堂々と言わなくても……」


「誰かー誰かー!この悲しい化け物たちを止める人はいないのー!」


照が真顔で助けを求める。


「もうここに止めるものなどいないっ!青髪ヒロインが何したって言うのよっ!あたしが不憫なんて言わせぬっ!やっちゃえ兄さん達!」


ちなみにここまでのやり取りは全部小声ね。


その時、入店してきた男性がこちらに来て、あたしの頭を軽くコツンと、げんこつした。


「青髪ヒロイン、僕は好きですよ。でも空ちゃんは、そもそもヒロインだったのかい?」


次に鼻くそバズーカ×2に思いっきりげんこつ落とす。痛そう……。


「だから君たちはモテ止まりなんだ。」


そして最後に竜兄さんに向き直る。


「非番だからって羽目外しすぎないように。竜義君も、いい歳なんだから。バズーカ2人を止めなさい。」


第一課誠刃隊の幹部衆に遠慮なく、ゲンコツ食らわす事が出来て、尚かつニコニコと真っ直ぐにド正論で説教出来るこの人物は……


信助(しんすけ)兄さん……」







「怪我でしばらく療養に出てたけど、その間に空ちゃんに仲間が出来たって言うから驚いたよ。初めまして、私は誠刃隊監督、南葉(なんば) 信助(しんすけ)です。それと、この悲しい化け物達とは、同じ道場からの腐れ縁でね。どうぞよろしく。」


コラボカフェからあたし達をつまみ出した信助兄さん。茨と照にご丁寧に挨拶している。


「信助さん、帰ってくるなら言ってくれりゃ良かったものを。……あぁ、だがこれで、ようやく事務作業を手放せる。」


「言ってしまったらサプライズ感が無くなるでしょう?竜義君には迷惑かけましたね。一勝先生、ただいま戻りました。」


「おう、おかえり!見苦しいところ見せちまったな!」


「ええ、本当に。」


あれをげんこつひとつで許してくれるなんて、仏か何か?言い出しっぺはあたしだけど。


「はいこれ、政晴君と空ちゃん達にはお菓子のお土産。仲良く食べるように。」


「わーいやったー!温泉まんじゅうだ!集まれー仲良く分けっこね~!」


その様子を穏やかに見守る信助兄さん。


「日常はこうでなくっちゃね。色々と物騒なこと聞いてたけど、相変わらずで安心しました。一勝先生、さっきのげんこつ痛かったですか?」


「いやなんともない!至って元気だ!」


「じゃあもう1発、竜義君の分が残ってるんですけど、どうです?」


「い、いやなんでそれが俺に来るんだ。タツにあげてくれ。久しぶりの再会だし?な。泣いて喜んでくれると思うぞ?」


「お、俺も断る。いっちゃんのたんこぶ痛そうだし。今後の仕事に支障がだな……」


珍しくゴニョニョしている竜兄さんに、げんこつではなくチョップを食らわせる。


「痛てぇ……」


「竜義君、事が起こってからじゃ遅いんだ。面倒事は起こる前に摘み取る。君にまで共犯になられたら、私の胃袋がまた裂ける。」


「ああ、わかってる……すまねぇ。」


誠刃隊の龍でも、信助兄さんには頭が上がらない。仏には龍も敵わないってね。


「信助兄さん、療養の旅楽しかった?温泉たくさん行ったんでしょ?」


「もちろん、楽しかったですよ。普段、侍やってたら見られないような景色を見ることができた。世界は広いものですね。今度は皆で行きたいです。」


「……そっか!良かったわ。今度は絶対皆で行きましょ!」」


その言葉で、遠い『昔』に聞いた、秘密を思い出す。


もう誰も知らない、『あの人』の想い。


『私は、このちっぽけな侍の世界を抜け出して、侍としてではない景色を見たくなったんだよ。』


いつも通り、穏やかで優しい声が、格子越しに届く。



今度はーー。

この世界の広さを、美しさを、皆で見に行こう。



『美しかった。でも、静かだった。隣に騒がしい仲間達がいなくて、物足りなくてね。どうせ見に行くなら、皆で行きたい。だから、戻ってきたんだ。ははっ、どうしようもないだろう?私も、彼らとおんなじ馬鹿だ。また戻ったとしても、もう全て手遅れで、絶対叶わないと、わかっているのにね。』



本当に、馬鹿よ。何やってるの。戻って来なかったら、生き延びたかもしれないのに。

でもーー。

その言葉が聞けて嬉しかったなんて、もう誰にも言えない。


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