第18話背離
紳士、淑女の皆様へ。
お食事中にスマホで小説読むとか、お行儀の良ろしい皆様に限って、そんな事は無いと思いますが、一応言っておきますね。
作者は悪くなくってよ?
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茨《あいつ、どうしたんだよ》
空《わかんない。でも絶対何かしらあったのは確定》
茨《じゃあ、空が聞いてみてくれ。女子同士の方が話しやすいだろうし。》
空《了解》
茨《取りあえず、俺はショーユ連れて部屋出てくから。頼んだ》
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同じ部屋にいるのにLENIで会話するあたしたち。それはこの、お年頃の娘のご機嫌を伺うため。
いつもは元気に出勤してきて、ずっと喋り散らかしてる照ちゃんが、今日はずっと何も喋らない。大きなリュックを背負って入って来たかと思えば、「今日は泊まる」それだけ言ってそのままだんまり。何かあったに決まってる。
茨と目を合わせて計画開始。
茨がスっと立ち上がる。
「お、俺ちょっと便所で大してくるから、ショーユも一緒に行こう」
何言ってくれてるんだ茨。動揺しすぎておかしくなったのか。
わざわざご丁寧に出す物まで宣言しなくたっていいのに。もしかしてアレか、しばらく戻って来ないって言いたいのか!?
「え〜ショーユ別に茨の糞なんて見なくて良いッつ。一人で行くッつ。」
ド正論。
「いや、あの、立派なのが生まれそうなんだよ!女子には見せられないだろ!」
それを女子二人の真ん前で言うのは別に良いのか。てかどんなに立派でも誰にも見せるなよ。
「はぁ……仕方ないッつ。茨もヤンチャな男の子ッつね……」
糞組は退出。ヤンチャな男の子でも糞は公開しないで欲しい。
……じゃないっ!照は!?
無。
これは……相当厄介なやつだわ……。
隣にそっと座る。そしてできる限り、やさーしく尋ねる。
「照、もしかして何かあった?」
「………………………………グスン。うえぇぇぇぇぇえええええええぇぇぇぇんんんん!!!!!そぉぉらぁぁぁぁあああ!!!!!!」
今まで黙ってた分を一気に出したかのように泣きじゃくる照。
「どうしたのよ照!?」
糞組もびっくりしたようで戻ってくる。
「照ぅぅぅぅぅぅ!!今のは酷かったッつよね!?茨っ!下品ッつ!謝るッつ!!!」
「うぅ、ごめん照ぅ!いつもと様子が違ったから動揺しちまったんだよぉぉぉ!!!」
「茨ぁ……。グス。……どんだけ立派なのが生まれても報告する位だけに留めておきなよ…。」
さっきまで泣きじゃくってたのに急に真顔で説教する照。
やっぱりそこは気になってたのね。
「見せたくなるのも、報告したくなるのも気持ちはわかるから!みんな糞から離れなさいって。」
茨のおかげ(?)で、一旦冷静になってくれた。いや茨のおかげなんて言いたくない。下品よ。
「それで一体何があったのよ?」
「あのね、帰ったらおとーさんが勝手に私の部屋を掃除してたらしくて……」
やっちゃってるわね。と、茨と顔と見合わせる。
「うんうん、部長、だいぶそれギルティ……。」
あたしたちで部長を裁けるなら、もう既に執行猶予ギリ有りの実刑判決くらいは出している。
「そしたら、死んだおかーさんが最期に買ってくれたおか…」
ウーーゥ、ウーーゥ、ウーーゥ……
突然街中にサイレンの音が響き渡る。
《こちらは虚楽制圧部、市野町に虚楽の発生が確認されました。近くにいる方は、速やかに避難してください》
なんつータイミングなのよ!!こんな時に新しい虚楽?空気読みなさいよね!?
プルルルル、プルルルル、
今度は無線が鳴る。
「はい、こちら第八課。」
「こちら本部。市野町に虚楽発生。一番近い八課に緊急出動願いたい。一課は向宿町で任務中の為、到着が遅れる模様。その他部隊も早急に援護に向かわせる。」
「御意。すぐ向かいます。」
一課のいる向宿町は、市野町からだいぶ距離が離れている。一方八課支部がある志都呂町と市野町は隣町。
「茨、照、緊急出動よ。市野町で新規虚楽発生。一課は到着が遅れる。応援が来るまで、あたしたちだけで現場を引き受ける。」
「了解。急ごう。」
「ごめんね、照。帰ったらちゃんと話聞くから。」
「う、うんっ!大丈夫。早く向かおうっ。」
市野町の虚楽は、想像以上のスピードで範囲を広げていた。
「照は住民の避難誘導をお願い。茨は東の守りを固めて。あたしは虚楽の根元を探す。」
虚楽が新しくできたばかりの場合は、根元…その虚楽のエネルギーを発生させている元を叩けば、虚楽を消滅させることができる。だが根元の周辺にはその分零徒も多い。
「一人で、いけるのか?」
茨が心配そうに聞いてくる。この場を引っ張るのは隊長のあたししかいない。
「もちろん、任せなさい!二人こそ、生きて帰ってくんのよ。」
迷いの無い声で、まっすぐ伝える。二人の背中をポンと叩く。
「それじゃあてっぺん組、いざ参る。」
照は逃げそびれた住民を探しに、一軒一軒見て回る。空は照を一人にしても大丈夫だと信じて、この役目を与えた。
「制圧部第八課!迎えにあがりました。さあ、虚楽の外まで案内します!」
「助かったぁ……ありがとう……」
東から西へと、次へ次へ走り回っていく。どんなにその家が壊れていても、声をかけて回る。
「どなたかいらっしゃいますか!!制圧部です!」
半壊している家を見つけた。もしかしたら生きている人が取り残されてるかもしれない。
「……っ!!」
瓦礫の下に、小さな女の子が挟まれているのを見つけた。出血が酷い。必死に瓦礫をどけようとするが、重くて持ち上がらない。
「今助けるからっ!お願いっ……息してっ!」
その時、女の子の体が眩しく光る。
「待ってっ!……っだめっ!!!」
強烈なエネルギーに、建物の外まで吹き飛ばされる。
かろうじて受身を取り、顔をあげる。
「……!!…間に合わなかったっ……」
大きな零徒。
それは先程の小さな女の子。
その歪な手には、うさぎのぬいぐるみが握られている。
「照っ!!」
幸いにも、空がすぐ駆けつけてくれた。ということは、いつの間にか危険な虚楽の中央付近に来てしまっていたようだ。
「空……小さい女の子がっ…助けられなかった……。」
もう、照が駆けつけた時には、手遅れだった。亡くなっていたのだ。
「わかったわ。落ち着いて、深呼吸。切り替えて。あの子の介錯はあたしが引き受ける。ここ近辺は根元に近いから、照は遠回りして引き続き救助をお願い。」
こんな状況でも、照は大丈夫だと、現場を離脱しろとは言わない。
「っ!……わかった。」
(その指示に答えなきゃ。)
照は再び立ち上がり、救助に向かう。
照はちゃんと顔あげれる子。
「さて、」
あたしは目の前の零徒を見据える。
「……寂しかったね。もう怖くない。大丈夫。お母さんとお父さんの所へ、お手手繋いで一緒に帰ろうか。」
一気に駆け出し、その零徒の核を突く。
光の泡になって、消えていく。
遺されたのは、最後まで握られていたうさぎのぬいぐるみ。そのうさぎを拾い上げる。
「安心して。どんな状況でも、繋いだ手は離さないから。」
東の方から、一課と部長、茨が向かってくるのが見えた。ようやく援軍が到着したみたい。
その一行と合流を果たす。
「状況は?」
「根元を探していますが見つかりません。エネルギーを強く感じる場所に突入してもさらに遠くなる……まるで、根元が移動しているような……」
先程から感じていた違和感。虚楽の中心部にいるはずなのに、どこにも根元がない。むしろ逃げられているような感覚。
「一体どういう事だ……?」
『それはね、こういうことだよ』
刹那。部長の背後にローブ姿の者が現れ、刀を振りかざす。
「部長っ!」
隣にいた一勝隊長が間一髪でその一撃を受け止める。
先程聞こえたこの声は……
『こんにちは。天律院だよ。最近出番がなくて寂しかった。だからここらでドカーンと大きいのを決めておこうと思って。ね、川渕?』
川渕という名にハッとする。この前照が襲われた時に、街で人間を零徒に変えたというローブの者。
あとそれと……いや。これは関係ないはず。全く…嫌な名前を思い出させてくれる。
『さっき根元が移動してるって言ったでしょ?その通り。なぜなら……』
川渕が禍々しい力を放出する。
これはっ……!?
「私が根元だからだ。」
その言葉を合図に、空間が裂けて、そこから零徒が湧いて出てくる。
「天律院というのは、本当になんでもアリなのだな。……ここは久しぶりに、私も刀を抜くとしよう。一本取られたままではいられない。」
部長が自ら抜刀しているのを初めて見た。
「一勝君、私はこの者の相手をする。零徒たちは君達で頼む。」
「御意。総員、零徒の討伐に専念しろっ!」
えぇ!?照のお父さんに任せちゃっていいの!?
「一勝隊長、任せちゃって大丈夫なんですか?刀握るのあたし初めて見ますよ、あの方。」
「あぁ、任せておけばいい。あの人は今じゃ前線の立つのは控えているが、昔は元第八課、天変突破隊一刃頭と呼ばれていたお人だから。」
衝撃的事実。茨も驚いた顔してこちらを振り返る。なぜならてっぺん組は天変突破隊の後続団体だから。
(照は知ってる上で、てっぺん組にいるのかしら?いや知ってるに決まってるでしょ。なら、なんであたしたちに話さなかったのよ。だって茨は……。)
茨がてっぺん組に配属になった初日、告白してきたこと……茨は己の師匠であり、その天変突破隊隊長でもあった黒川玄斎を探してる。それは照にも話して……
いや無いわ。話してない。
だって、お互いの年齢も誕生日も気にしてなかったんだもん。あたしたち。
そんな事を悶々と考えているうちに、零徒は一網打尽。残すは川渕だけ……
部長は川渕と距離をとる。
「やるな。川渕と言ったか。貴様の剣筋に……よく似た知り合いを思い出した。……さぁ、残すは貴様一人だ。消える前に、天律院の目的について吐け。よくもこのような愚行をっ。」
「……ッフ、お前は腕が鈍ったんじゃないか?背中を取られるなんぞ、武士の恥。違うか、琴吹?」
川渕はその顔を隠していたローブをゆっくりと脱ぐ。
その殺気を帯びた瞳が、鋭くあたしたちを睨みつけた。
「なっ!黒川!?」
「師匠……っ!?」
『あーそういえば、川渕ってこっちの世界じゃ確か……』
『「黒川玄斎」って名乗ってたんだっけ?』




