第16話役員支部巡回(笑)
誠刃隊が事務所の天井まで届く人間ピラミッドをしている写真。
頂上に政晴兄さん。
いっちばん下の土台に一兄、竜兄さん。
「だははははは!!!!何してんのこれっ!!!」
照、大爆笑。ヒーヒー言ってる。あたしは昼ごはんのそうめん作り。
「照、今度てっぺん組もやるから。その茶番劇を。ってアッツ!手のひら火傷したぁ。」
「え」
この写真は先日行われた役員支部巡回の時のもの。年に一度、各課に役職者が視察しに来るという面倒くさいイベント。しかも何故か、こういう狂ったアイスブレイクをするのがお決まり。隊員達の素顔が見たいという、はた迷惑な我儘にお答えしなければならない。
「支部巡回、俺も烈日隊のときやったなぁ。あの時は……ソーラン節踊ったっけ。」
「みんな運動会でもしたいわけ?そしてそんな運動会のバトンが今度は私たちに……何やるの?」
「巡回は支部視察と実践視察に分かれてて、支部視察は、八課支部に訪問、アイスブレイクして内部チェックする。実践視察は本部の戦闘シュミレーション機で技術を見てもらう。どうする?アイスブレイク」
八課が本気にならないといけないのは実践の方なんだけど。まぁそれは、あたしの方が何とかするので。
すると照は真剣な顔して提案してくる。
「役員達をバックスキップで脅すのは?ついでにリコーダー吹きながら!」
「いくらなんでもカオスすぎるだろっ!やらねぇから!絶対に!やるなら照だけやりな」
「じゃあ、バックスキップレース。制圧部部長を巻き込んで良いから。娘の私が強制参加させる。」
ヌルッと告白してきたが、制圧部部長の名は、琴吹 光雲。照のお父さん。重要情報がこんなヌルッと出ていいものなのか。
「照はバックスキップに何かこだわりでもあるの……?でも娘が強制参加させてくれるなら強いかも。」
権力。てっぺん組が手に入れることが出来ない代物。そんなものが味方してくれたらウケるに決まってる。たぶんね。
「よし!それで行こう!バックスキップレースで。権力の娘よ、このアイスブレイクの成功はあんたにかかっている!任せたわよ!」
「任された!我らの部長をこき使ってやるぅ!!」
「ソーラン節はまだ冷静な方だったのか……。」
その後、川辺でバックスキップの練習をしたり、支部を綺麗に大掃除したり……あと3人で本部に行って、戦闘シュミレーション機の練習もした。
中でもバックスキップの練習は過酷だった。照が厳しくて。茨は楽しくなっちゃって一人ではしゃいでるし。おかげで、あたしは足を捻挫しました。
なんやかんや、ついに本番の日がやってきた。
制圧部部長はもちろん、各課の隊長達、救急部部長の狐葉手先生や、治安部、総務部……まあとにかく八課支部に似合わない人数の偉い方々が押し寄せている。
「この中でバックスキップやるのか……。でも俺たちには、照の父と、人間ピラミッドの土台やった一課隊長がいるっ。」
「うんっ絶対成功させよーう!」
3人で円陣を組む。こんなに気合い入れる巡回という名の接待、なかなか無いでしょ。
「「「えいえい、おー!!!」」」
「Goodmorning!everyone.my name is Tendo Sora.」
びっくりしたと思うけど、何故か巡回では最初に英語で挨拶する。みんな思ってると思うけど、面白くない。ウケない。スベる。なぜやるのよ。
「八課支部へ御足労いただき、ありがとうございます!アイスブレイクに先立ちまして、隊員の紹介をいたします!」
「元烈日隊でした、八木茨でーす。」
「青年部アルバイト&制圧部部長の娘、琴吹照です!アイスブレイクとして、八課はバックスキップレースをやらせて頂きます!おとーさん、Heyカモン。」
でしゃばる娘、動揺する父。
でも周囲の反応は悪くない。ウケている。さすがこれが権力。
「さぁ、我らが部長はてっぺん組に勝利できるでしょうか!?スタートの合図は一勝隊長にお願いしたいと思います!」
一勝隊長に旗を渡す時に耳打ちされる。
「よくやったな空。今頃タツが泣いてるぞ。」
副隊長がなぜ泣くのかは分からんけど、ドヤ顔しとく。
「よーい、どん!」
バックスキップしながら思う。何してんのあたし。いや、冷静になってはいけない。狂わなきゃ乗り越えられない!
一位 茨(結局一番楽しんでた人)
二位 部長
三位 照(本気で一位狙ってた人・バックスキップ愛好家)
四位 空(タイミング悪く冷静さを取り戻した女)
隊長、だれよりも負ける。結果は良いのよ。ウケたから。……後で練習しておこう……。
その後は支部の内部を見る。総務部が帳簿チェックしたり、弧葉手先生が救急セットちゃんとしてるかチェックしたり。あと怪しいもの置いてないか、とか。ちなみに、巡回の間、ショーユは政晴兄さんに任せて本部でお留守番 。
これで支部視察は無事終了。
多分成功?したので3人でハイタッチした。
午後は本部に移動して実践視察。
シュミレーション機に向かう途中、竜義副隊長とすれ違う。
「あ、副隊長!見ましたよ〜巡回のしゃs……」
「やめろ。巡回は……もうやめろ。」
それだけ言って去っていく。一勝隊長が耳打ちしてくる。
「しばらくあいつに巡回のことは話さないでやってくれ。色々と……大変だったんだ。」
一課は大所帯だし、一番最初に回るところだから……さぞ苦労されたことでしょう。胃に穴が空いてるのがここからでも見える。
さて、本部の戦闘シュミレーション機。これは零徒をホログラムで再現して、実際の戦闘を安全に、リアルに体験出来る最新のメカ。これを使って、制限時間15分の間にどれだけ討伐出来るかのテスト。
このハイテクなメカに対応するための練習もばっちりしてきたから。
15分間、難なく敵を倒していく。あたしが出しゃばらずに、照も茨もちゃんと活躍できてる。
順調に進めて、討伐数は57体!誠刃隊が92だったらしいから、結構優秀じゃない?
「八課隊長、あなたが去年の巡回で出した記録を覚えていますか?」
シュミレーション終了後、本日の巡回の評価を受ける。
結構成功したと思ってた割には、みんないい顔していない。
「虚楽の第壱防衛線での記録ですか。あの時は……確か70?」
去年はあたし一人だったからか、虚楽の中でも零徒の溢れ口、第壱防衛線でテストをした。あのころは、上に実力を認めてもらうために必死だったっけ。
「いいえ、77です。」
「ああ、そうでした。ラッキーセブンだな〜って思ったんだった」
「冗談を言っている場合ではありません。あなたが一人で戦ったときのほうが結果が出ている、と言っているのです。」
確かに、今までは一人だった分、どんなに怪我しても良かったし、どんな戦い方しても良かった。それを踏まえた上でのラッキーセブン。
「そもそも、第八課はあなた一人で戦えるからこそ、認めたのですよ。あなたはどんなに怪我をしても、即回復出来る。一人で何人もの隊員の力を補えることができる。」
「それにも関わらず、仲間を持つことで、その能力が活かしきれていないとはどういうことですか。それなら、その二人の隊員を他の課に分散させた方が効率がいい。」
「でも、そのふたりが入隊してから、空隊長が医務室に来るのがグーンと減ったのは事実やな。ワイの仕事が減ってありがたいとこや。」
救急部の弧葉手先生がフォローしてくれた。そうそう、守る背中が増えたけど、守ってくれる背中も出来た。
「あと、去年のテストのことは正直気に入らん。テストの為に第壱防衛線乗り込んで、こいつが澄ました顔して血だらけで帰ってくるのは救急部として許せまへんわ。」
「あぁ、それには同意だ。どんなに回復が早くても、怪我することには変わらない。戦う立場ではあるが、我らは命を捨てに行っているわけではないのだよ。」
一勝隊長も去年のことに関して不満があった一人。
去年テストを終えて、血だらけで戻ってきたあたしを見て、すぐ駆け寄って来てくれたのはこの二人だった。
でもほかのお偉い方はまだご不満なご様子。
「しかし!その回復力ありきの化け物を隊長にして、野放しにする理由が他にあると?」
その言葉で一勝隊長の堪忍袋の緒が切れたようだ。今にも飛びかかりそう。
一勝隊長が手出す前に止めなくては。パワハラで訴えられたら困るし。
ここまでフォローしてくれたんだから、今度はこちらの反撃といきましょう。だって腹立つもん。
「みなさんは、あたしがすぐ回復するから強い、茨と照が役立ってないと言いたいのでしょう?」
なにそれ、すごく腹立つ。
「わかりました。証明してみせますよ。茨、照、」
見てなさいよ、あたしたち…
「あたしを倒してみせてよ。」
ちゃんと強いから。




