第10話ヒーローほど、バカをやる。
「おっはよ〜う!」
現在の時刻は午前11時。照が元気よく八課支部のドアを開ける。
「ああ、おはよう。もう少し遅かったら置いていくところだったぜ?」
茨は義手をつけて刀のお手入れ中。
「ん?置いてく?ていうか空は?」
「空は今、本部に行ってる。…今月の給料を受け取りに。あと報告書のお直しだとも言ってたな。」
刀を置いて真剣な顔をする。
「空は11時すぎくらいに帰ってくるらしい。帰ってきたら……りすサムのコラボカフェに出陣だ!!!」
「わーーーー!!!!!!!ずっと行きたかったやつ!!!やっと行ける!!!!今日はすごくいい日だな〜♪朝から誠刃隊の天道隊長と一刃頭の仁田さんを見かけたんだよ!気まずくて隠れたけど。」
「俺らの隊長も天道隊長だけどな?ほんとあれは驚いたぜ。でもあれ以降、その話は全然してこないな……。」
ピーンポーン
そんな話をしてるうちに呼び鈴がなる。空が帰ってきたのだろうか。いや、普通呼び鈴なんてする?
「空が帰ってきたかも!鍵忘れたのかな?」
「おいおい、不用心だなぁ。はーいちょっとお待ちー」
茨が鍵を開けてドアを開ける。
「おー茨くんか!この前は世話になった!」
「こんちわー、空ちゃんいる?」
「ええっぇぇぇ!?!?!?」
思いもしなかった訪問客に後ずさり。
「お茶、どうぞ。あとこれも、つまらないものですが……」
照がビクビクしながら、お茶とお菓子を差し出す。
「かたじけない!改めて、俺は誠刃隊隊長、天道一勝だ。で、こっちは……」
「俺は誠刃隊 ー刃頭の、仁田政晴。よろしくな。ハハッ、そうビクビクすんなって。」
このふたりがビビるのも当然。目の前に第1課、虚楽制圧部最強組織の大将と、ー刃頭……その隊の中で一番の実力者がいるのだから。
茨が勇気を出して聞いてみる。
「えっと、今日は何用でこちらに……?」
「あぁ、空から今日、リスサムのコラボカフェに行くって聞いてな!それ俺らも行きたいと思っていたんだ。ちょうど政晴も非番だったし、2人でサプライズで来ちゃった。」
「お2人も、りすサムお好きなんですね!(何教えてんだそらぁぁぁぁ!!!!!!)」
茨は心の底から、空の余計な言葉を恨む。
「そのサプライズなんだが、さすがにアポなしで行ったら空ちゃん怒りそうだから、一言入れといた。」
政晴はスマホの画面を見せてきた。
そこには……
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政晴《明日りすサムのコラボカフェに行くんだって?一勝さんから聞いた》
空《ようやく給料日だからね》
政晴《それ俺達も着いてくから》
空《絶対来ないで》
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「なあ政晴、サプライズって意味わかってる?しかも断られてるし。」
「だったら行かねぇ、とは言ってないだろ?これがホントのサプライズだ」
「そ、そうだったんですね!(ただの嫌がらせじゃねーか!!)」
茨は心の中で空に謝っておく。同情の気持ちを添えて。
「そ、空と仲がいいんですね!ただ、空は今本部に行ってて。それこそ給料を受け取りに……もうちょっとで帰ってくると思うんですけど。」
照、精一杯の作り笑い。ほっぺたが筋肉痛になる未来が見える。何せ、こんな大物とおしゃべりするなんて初めてだから。
「多分風雲会に捕まってるんじゃねぇか?書類提出するとあのジジイ共、めんどくせえ赤ペケ先生になりやがる。ここ本部まで遠いし、しばらく帰って来ねえだろ。」
茨と照は、もう少しで言葉が出そうになるのを必死で堪えて、愛想笑いする。
((空ぁぁぁぁ!!!!!早く帰っってこいっ!!!))
一方その頃……
虚楽制圧部本部。
「ここ、これ<リセット清掃>って分かりにくいから。<清掃>に書き直して。」
「はい。(それあんたがリセット清掃って書いたからそう書いたのに。自分で書いたこと忘れたのかワレぃ!!)
「あとここ、読みにくいから改行して。あと全部、ですます調に直して。」
「……はい。(この世に法律という壁と理性というものがあって良かったわね。じゃなきゃその赤ペン、今頃へし折っってっから。)」
風雲会長老の、何ともありがたいご指摘を頂いたあと、給料を受け取りに行く。廊下を歩いてる途中、何やら人だかりが出来ているのを見つけた。
覗いてみると、どうやら今月の業務実績ランキングらしい。
(1位は……まあ1課ね、零徒討伐数は700。八課は……最下位か。って零徒討伐数60!?!?全く、嘘こきやがって……)
「あれ、あの人……。討伐60はやばいって笑。なんでそれで隊長名乗れるんだか。」
「てかそれで部署成り立ってるの?そもそもたった1人だけでしょ?あ、最近入隊したんだっけ?烈日隊の子が……」
クスクス、コソコソ。
(チッ、見に来るタイミングが悪かったわ。)
掲示板を後にし、すぐそこの角を曲がろうとする。
ドカっ
曲がり際、誰かとぶつかってしまった。
「ごめんなさい、大丈夫……って、うわ、竜兄さんか。じゃなくて、お疲れ様です副隊長。」
「なんだ空か。珍しいな、本部にいるとは。それより人にぶつかっといて「うわ」とはなんだ?」
この眉間にしわ寄せてるイケメンは、誠刃隊副隊長、豊蔵竜義。別名誠刃の龍。
竜兄さんは、ちらりと掲示板の方に目をやる。副隊長に存在に気がついたその場の隊員たちは、一斉に背筋を伸ばし、静かになる。さすが龍。
「ああ、空。用があるからウチの支部に来い。」
「え、誠刃隊の?嫌ですよ、副隊長。」
竜兄さんは黙って着いてこいと、あたしの後ろ襟を掴んで引っ張る。
「わかりましたよ!行くから!引っ張らないでって!」
予想とは裏腹に、誠刃隊の支部は数人しかおらず、シーンとしていた。
「あれっ今日はみんな居ないんですね。」
「一勝隊長と政晴が非番だからな。アイツらがいないと静かなもんだ。それよりこれを見ろ。」
副隊長は紙切れを1枚渡してくる。
そこには「業務実績ランキング」の文字が。
「う"、また説教ですか。勘弁してくださいよ、今日はもう風雲会にやられて、HPはゼロですって。」
「阿呆、ちゃんと見ろ。」
渡された紙切れにもう一度目を落とす。あれ順位が違う。
「八課は第2位、討伐数600だ。俺が正しいデータをくすねてきた。後で貼り直しておく。」
「くすねてきたって……手癖が悪いですよ副隊長。上にバレたらまずいんじゃないですか?こんなの今月に限った話じゃないし、副隊長がブーブー言われるくらいなら、そんな事しなくたっていいのに。見せてくれたのは感謝してますけど。」
副隊長はあたしの額を、人差し指で思いっきりつつく。
「うげっ」
「おめぇの為なんかじゃねえよ。仲間ができたんだろ?こんな紙切れのせいで、もうおめぇだけじゃなくて、その仲間もそういう扱いを受ける。いいのか?」
その言葉にハッとする。そうだった。もう1人じゃないんだった。
「うん確かに。考えてみればそうだわ。……ありがとうございます、竜義副隊長!」
「まったく、世話かけるんじゃねぇよ。」
何も考えてなさそうに笑う空に、竜義は眉間に皺を寄せる。
(その新しい仲間が入ったのは月末。つまり600という数字は、空一人でたたき出した戦果だ。それを3人の戦果にするって言ってるようなもんなんだが。こいつは本当にそれでいいのかよ。)
何やら考え事をしている副隊長。深まっていく眉間のシワ。
こちらもやられてばかりではいられない。竜兄さんの額を、優しく人差し指でつつく。本当はさっきのと同じ勢いで突っつきたかったが。龍にそんな事できない。
「またシワができてますよ、副隊長?この紙切れ1枚で十分。十分ですよ。」
「……ふん、そうかよ。……あぁ、そういや、いっちゃんと政晴が、空とリスサムのコラボカフェに行くから、八課支部に行くって言ってたが……今日じゃねぇのか?」
「それね、政晴兄さんが着いてくとか言ってきたけど、本部に行かなきゃだったし、時間合わせるの面倒くさかったから、断ったわ。支部で待ってて貰うのも、茨と照がいるし。気まずい思いさせるでしょ?」
その言葉を聞いた竜兄さんは固まる。
「アイツら二人、空にサプライズしてくるとか言って、元気よく出掛けてったぞ……?」
「……竜兄さん、責任取って車出して。」
八課支部に着くと、外なのに賑やかな声が聞こえてくる。
「ただいま〜遅くなってごめん!」
全力で謝罪しながらドアを開ける。
「ろくでもない兄たちはどこじゃあああ!!!!!」
「っは!待って政晴さん、そっち行ったら!!」
「あはは、一勝さん、また花にやられてるじゃないですか!」
「茨くん助けて!政晴助けたせいで、照ちゃんがもう赤バーナーだ!っておっ!空っ!待ってたぞ!それにタツも来たのか!ん?イテテテテ、空、悪かったって!」
兄の耳を思いっきり引っ張る。兄よ、それ以上この龍を怒らせるでない。この龍の怒りの炎が見えぬのか。
「ちょっと一兄、道中に聞いたわよ。竜兄さんに明日の会議のこと丸投げしたって。竜兄さんもコラボカフェ行きたかったんだから、そんな事……」
「空ちゃん、それなんだが、この4人で話し合って、コラボカフェは後日行くことになった。竜さんも入れて、6人で。」
龍の怒りの炎、無事鎮火。
だがなんか余裕そうな政晴兄さんが腹立たしかったので、その手に持ってたポテチを奪い取る。
「おい、そろそろ俺達は帰るぞ、いっちゃん、政晴。今日は非番っつっても、半休だ。これから会議の準備を手伝ってもらう。」
「えぇ?そりゃないぜ、竜さん?俺らはちゃんと、今日は全休を…」
「今決めた。明日の会議は重大なんだ。隊長の判断が必要になってくる。」
うげっとした顔をして立ち上がる2人。大変だなー1課はー。
「他人面してるが、おめぇもそうだろう、空。明日は隊長会議だぞ。」
「毎度の事ながら聞いてませんね。何も備えてないわ。」
「チッ、上は何考えてんだ。なら、お前は強制参加だ。明日の議題は、この前の、あの件についてだからな。何か言われれば、俺が来いと言ったと伝えればいい。」
「はあ、わかりましたよ。じゃあまた明日。」
竜兄さんは一兄と政晴兄さんを引っ張って帰っていった。
最近は色んなことが重なって、今日は疲れたわ……。
「いやー今日は楽しかったなぁっ!コラボカフェが楽しみだ。空の仲間と仲良くなれたことだし。」
誠刃隊幹部を乗せた車内。運転は一勝。竜義を怒らせたから。
政晴は今日のスクショを見返しながらニヤリと笑う。
「まぁ最初はびっくりしたぜ。こういうイベント、誘ったらいつも乗って来んのに拒否られたから、一人で行こうとしてんのかと思っちまった。」
「空は誠刃隊を抜けてから、妙に俺らと距離置こうとするからなぁ。今回は新しい仲間達と行こうとしてただけだったが。」
一勝は少し寂しそうにする。
「常に近くに居る仲間ができたのは良いことじゃねぇか。あいつは一人で無茶な戦い方をする。そのブレーキ役になってくれるだろうよ。」
「まだそうでも無いかもしれねぇぜ、副隊長。あの二人と話してる限り、空ちゃんは自分の事あんまり話してねえみてーだ。俺たちがおんなじ道場だったことも、初耳だった。」
「政晴、それ以上言ってねぇだろうな?空が話してねぇってんなら、俺達もお口チャックしといた方がいい。」
竜義が政晴をキリっとにらむ。一般隊員であれば、ビビるくらいだが、昔馴染みの政晴にとってはいつもの事。
「まさか。んな余計な事言いませんよ。信用ねぇなぁ。」
「ハッハッハ!いいじゃねぇか。己の事を話そうが話さないが、きっとあの二人なら受け入れてくれるだろうよ。今日はだからこそ、安心できた。」
その夜。
八課支部ーーー。
「あれ、空が寝てる!」
ソファに丸くなって、うたた寝する空。
「空が寝てるの初めて見たな。ここ数日、報告書やなんやらで、本部行ったり来たりしてて疲れたんだろう。そっとしとこうぜ。」
茨が毛布をかけて、照が電気を消して、静かに部屋を出ていく。
『仲間思いな2人だね、空。前寝たのは1ヶ月くらい前だったから、さすがに疲れちゃったのかな?それか今日は、兄さん達と会ったから気が抜けちゃったのかもね。』
窓からの月明かりが空の顔を撫でる。
『今夜は月が綺麗だなぁ。まるで、てっぺんにいるあの人達が、手を伸ばしてるみたい。ふふっ、じゃあおやすみ、空。』
『良い悪夢を。』




