96話
テレビの中では、いつの間にか誰かが楽しそうに笑っていた。
味気ないソファーに深く腰を沈めて眺めていると、見覚えのある顔があった。舞台の袖から何度も照明を当てた俳優だった。言葉を交わした記憶さえ、まだ思い出せる。
ただ、懐かしいというよりは、もっとざらついた感情が湧いていた。妬みか、後悔か、それとも憤りなのか。上手く言葉にできない。
かつての自分も、この華やかな画面の中にいたはずだった。日本の中心で経済を回しているとさえ錯覚していたあの日々が、今では遠く浅ましくさえ思えた。
眩しすぎる芸能人の笑顔など直視していたくないのに、リモコンを握る手が動かなかった。最後に流れる星座占いだけは見届けてから、と自分に言い訳をして、ぼんやり画面を見つめ続けた。そこまでしてテレビを消さない自分が滑稽で、思わず口角が緩む。
この期に及んで、まだ過ぎ去った時間にしがみついているのか。
結局、そういうところなのだろう。
この数年、必死に足掻いたつもりでも、残ったものなど何もない。仕事を転々とし、続けられると思える仕事も、やりたいことも見つからないまま、今は墓場みたいだと言われた深夜の配送業に甘んじている。いつまで続けるのか、そんなことですら自分で答えを出せない。
もしかしたら、しょうもないプライドだけが大きくなっただけで、中身はあの頃のままなのかもしれない。
――専門学校を、続けていれば。
――劇場を、辞めなければ。
どこか一つでも違う道を選んでいたら、今とは違う生活になっていただろうか。
考えれば考えるほど、今いる現実に取り残されたままの未来に押しつぶされる。
居たたまれなくなって立ち上がり、冷蔵庫を開けて、昨日買い込んだ炭酸飲料の中から一本取り出した。
閉めた拍子に、扉のマグネットに挟まれた小さなヘアゴムが揺れた。数ヶ月前に出ていった彼女の忘れ物だ。お気に入りなのだと、無邪気に笑っていたのを覚えている。
定職に就かないという理由で、一方的に別れを切り出してきた彼女の私物など捨てればいいのに。今さら戻ってくるはずなんてない。
それなのに、一丸は淡い期待をどこかで捨てきれずにいた。また彼女という存在に逃げ込んで、彼女を理由に頑張ろうとしている。
ペットボトルの蓋を開け、口に運ぶと、情けない自分を戒めるかのように炭酸の刺激が喉をひりつかせる。
――思い出せ。
何のために、独り暮らしを始めたのか。
実家を出れば、何かが変わると思っていた。それなのに、気づけばここは、空虚の巣窟になっていた。
仕事へ行って、帰ってきて、眠る。また起きて、仕事へ行く。
その繰り返しの中で、いつの間にか自分の方が、この部屋に置き忘れられたもののようになっていた。
テレビから、軽快なメロディが流れてくる。画面には奇しくも『一位、蠍座』の文字が踊り、アナウンサーが朗らかな声で読み上げていた。
何が一位だ。思わず笑いそうになる。ちゃんちゃら可笑しかった。
もしかして、明日の自分に、首の皮一枚くらいは繋がったのか?




