↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
92/120

92話

 目覚めると、訳もなく頬を伝うものがあった。

 一人、冷たいベッドから見る窓の景色は、今日も夕方だ。

 枕元の携帯電話を手に取ると、ソリーからのメールが届いていた。送信された時刻は、まだ早い朝方。あの後ちゃんと家まで帰って、仕事にも行ったらしい。


 mixi?


 ソーシャル・ネットワーキングサービス(SNS)への招待状?


 ますますきな臭かった。出会い系か何かか?


 それともう一通は、先月面接を受けた会社からの不採用を知らせる通知だった。確かめるまでもない結果に、そのままベッドへ携帯を放り投げて、二度寝した。

 夜、ふらりと体を起こし、薄暗がりの広がる台所へ向かい、いつもの癖で冷蔵庫を開けたものの、ほとんど空っぽの中身に絶望する。このまま引きこもって、飢え死にでもするか。


 --馬鹿か。


 死んだ後の処理をする人たちのことを考えて、即座に浅はかな考えを改めた。そもそもそんな大それた覚悟があるなら、今頃こんな暮らしはしていないだろう。

 そうこうしていると携帯のアラームがうるさく鳴る。出勤の時間だ。慌てて身支度を整え、部屋を飛び出した。自分は一体、何をしているのだろうか。すっかり日の沈んだ街を、帰宅する人々と何度もすれ違う。やっぱりここにも自分はいない。夜に出勤というものは、帰宅する朝とはまた違った、格別な残酷さがある。

 そういえば、ドタバタとした出がけに蹴飛ばした求人雑誌の小山が、玄関の小さな灯りに照らされ、長い影を伸ばしていたことを思い出す。


 作業倉庫に集まり点呼の声を聞く。今日の担当エリアと、短い注意事項が交わされる数分のうちに、いつか本調子になるはずの、まるで当てにならない体に鞭(むち)を打つ。

 積み込みはカゴ車を押しながら倉庫の中を何往復もする。品目ごとに仕分けられた棚から、指定された数だけを引き抜いていく。冷凍区画に入るたび、汗ばんだ首筋が急に冷やされた。トラックに積み終える頃には、もう半分働き終えたような疲労感が漂う。

 配送先の店舗を一つずつ巡った。荷物を降ろす場所は品目ごとに決まっていて、時には一度の作業に二十分近くを費やす場所もあった。ハンドルを握る時間よりも、荷物と睨めっこしている時間の方が長い日も多かった。

 全ての便を走り終え、トラックを倉庫へ戻す頃にはいつものように、東の空から淡い明るさを帯び始める。

 事務所のカウンターで伝票を差し出していると、センター長が缶コーヒーを片手にやって来た。長年の疲れを解きほぐすようにゆっくりと腰を伸ばしながら、穏やかに語りかけてくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。