81話
丸ちゃんの声。
「お山の公園って、どこにでもあるのな」
ベンチの正面には、街灯にぼんやりと照らされた山の形の遊具が浮かんでいた。--何でだ。こんな時に限って、過去の記憶が目尻の奥を熱くさせる。もう時間がないのに。だから幼馴染ってやつは。
「懐かしいね」
「何が?」
「お山の公園」
少しの沈黙の後、丸ちゃんは思い当たったように、「ああ、そうだな」と気持ちを汲んで笑った。
「丸ちゃんは、あの頃に戻りたい?」
--私はタイムマシンに乗って、もう一度あの場所からやり直したい。
だけど、丸ちゃんは足を投げ出したまま、ぜんぜん、と一人遠い星の住人のような顔をしている。
「おれは、早く大人になりたかったしな〜」
初めて聞いた。そんなこと。
あの日もおぼろ月夜が空を覆い、心地よい風が花の香りを運んでいた。両親の帰りが遅く、本当は駄目だと知りながら、二人で家を抜け出して公園の頂上を目指した。まだ背が低かった頃のこと。
頂上に辿り着くと、丸ちゃんは夜空をまっすぐに指さした。
「よし、決めた」
あの日聞こえた声は、今よりもずっと意気揚々としていた。
「おれは、おれになる」
幼かった詩亜には、その言葉の意味が分からなかった。それでも、その横顔だけは鮮明に焼き付いている。星を見上げるその瞳は、何よりも眩しくて、真剣だった。
――この人と、結婚する。
子供心に、そう決めた瞬間だった。あの日からずっと、丸ちゃんが選ぶ未来を、その隣でわくわくしながら見ていたいと願っていた。
今の丸ちゃんは、あの日の約束を覚えているだろうか。それとも、もう忘れてしまったのか。
過去と今の自分との隔たりに、本当のところ一番苦しんでいるのは――丸ちゃん自身なのかもしれない。
格好よくて、意地っ張りで、誰よりも寂しがり屋な、丸ちゃん。
幼、小、中、とずっと一緒だった幼馴染。
大好きだった。
中学の頃、他の男子と付き合ったのだって、丸ちゃんの気を引くための方便に過ぎなかった。けれど、鈍感な丸ちゃんがその想いに気づくはずもなかった。
同じ年に生まれ、同じ町で育ったのに。いつの間にか立っている場所は、もう、ずいぶんと遠くへ離れてしまったのかもしれない。
名前を呼びかけようとした時、丸ちゃんが口火を切るようにベンチから立ち上がった。
「おれ、もう行くわ」




