表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠け星アルフェラッツ もしもダビデ像が服を着てたら  作者: Y.Itoda
第三章 二〇〇〇年〜 遠江詩亜
PR
81/86

81話

 丸ちゃんの声。


「お山の公園って、どこにでもあるのな」


 ベンチの正面には、街灯にぼんやりと照らされた山の形の遊具が浮かんでいた。--何でだ。こんな時に限って、過去の記憶が目尻の奥を熱くさせる。もう時間がないのに。だから幼馴染ってやつは。


「懐かしいね」


「何が?」


「お山の公園」


 少しの沈黙の後、丸ちゃんは思い当たったように、「ああ、そうだな」と気持ちを汲んで笑った。


「丸ちゃんは、あの頃に戻りたい?」


 --私はタイムマシンに乗って、もう一度あの場所からやり直したい。


 だけど、丸ちゃんは足を投げ出したまま、ぜんぜん、と一人遠い星の住人のような顔をしている。


「おれは、早く大人になりたかったしな〜」


 初めて聞いた。そんなこと。

 あの日もおぼろ月夜が空を覆い、心地よい風が花の香りを運んでいた。両親の帰りが遅く、本当は駄目だと知りながら、二人で家を抜け出して公園の頂上を目指した。まだ背が低かった頃のこと。

 頂上に辿り着くと、丸ちゃんは夜空をまっすぐに指さした。


「よし、決めた」


 あの日聞こえた声は、今よりもずっと意気揚々としていた。


「おれは、おれになる」


 幼かった詩亜には、その言葉の意味が分からなかった。それでも、その横顔だけは鮮明に焼き付いている。星を見上げるその瞳は、何よりも眩しくて、真剣だった。


 ――この人と、結婚する。


 子供心に、そう決めた瞬間だった。あの日からずっと、丸ちゃんが選ぶ未来を、その隣でわくわくしながら見ていたいと願っていた。

 今の丸ちゃんは、あの日の約束を覚えているだろうか。それとも、もう忘れてしまったのか。

 過去と今の自分との隔たりに、本当のところ一番苦しんでいるのは――丸ちゃん自身なのかもしれない。

 格好よくて、意地っ張りで、誰よりも寂しがり屋な、丸ちゃん。

 幼、小、中、とずっと一緒だった幼馴染。

 大好きだった。

 中学の頃、他の男子と付き合ったのだって、丸ちゃんの気を引くための方便に過ぎなかった。けれど、鈍感な丸ちゃんがその想いに気づくはずもなかった。

 同じ年に生まれ、同じ町で育ったのに。いつの間にか立っている場所は、もう、ずいぶんと遠くへ離れてしまったのかもしれない。

 名前を呼びかけようとした時、丸ちゃんが口火を切るようにベンチから立ち上がった。


「おれ、もう行くわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ