61話
ほんの一拍の口ごもりを聞き逃す丸ちゃんではない。
「……何だよ。町野君って」
「聞いてっ」
「ふざけんなよ。結局、詩亜だって隠してたんだろ」
その声からは、先ほどまでの甘い高揚が跡形もなく消え失せていた。
「ちがう! 町野君はただの同じ学年の」
「もういいって」
手から携帯が奪われた。抗う隙もなかった。
気づいたら、二人の間のパフェが、何もかもどうでもよくなったみたいに溶けて形を失っていた。
頭の中では、ここだけ土砂降りのような音がする。
--どうしてこうなっちゃうの。
鼓膜に降ってきたのは、場違いなほど浮かれたクリスマスソングだった。
丸ちゃんはとっとと会計を済ませ、店を出てしまった。
慌てて背中を追う。夕暮れは藍色に沈みかけていて、昼間の温もりはどこにも残っていない。十二月の冷たい風が、首筋の隙間を容赦なく通り抜けていく。
両手をジャケットのポケットに突っ込み、ずんずんと先を歩く足を、半歩遅れてついていく。声をかける勇気さえ持てない。並んでいるというのに、二人を隔てる透明な壁がそこにはあった。吐き出した白い息だけが、宙に舞っては消えていく。
千葉駅までの道のりが、これほどまでに長く感じられたことはあっただろうか。
ここで今日はお別れだ。丸ちゃんはきっと、このまま一人で家路につく。
改札が見え、そう思って唇を開きかけた、その時だった。
「……おれも行くわ」
丸ちゃんがぼそっと言った。
返事を待たずに券売機へ向かう。国立駅まで送るつもりなのだろうか。喧嘩したまま、ひと言も口をきかないまま、それでも付き添うというのか。
その背中をどう見つめればいいのか、言葉を持たなかった。
黄色いラインの総武線に乗り込んでからは、地獄のような時間だった。
日曜の午後の車内は混み合い、二人はドアの脇に並んで立つことになった。けれど、よそよそしい丸ちゃんの素振りのせいで、たまたま隣に居合わせただけの赤の他人みたいだった。
律儀に一駅ずつ止まる各駅を選んだことを、後悔する。扉が開くたびに人が入れ替わり、そのたびに二人の体は押されたり、離れたりする。
ガラス越しに見える空は、朝の景色とは別物のように冷え切っていた。丸ちゃんと同じで、むっつりと押し黙ったままだ。
吊り革につかまり詩亜も口を閉ざしたまま、隣にいるその横顔を見ないように努めていた。
冬の日は駆け足で暮れていく。オレンジの中央線に乗り換える頃には、窓の外はすっかり夜の顔をしていた。
それはまるで、今の自分みたいに、今にも泣き出しそうな空模様。
国立駅の改札を出ると、本当に頬に冷たいものが落ちてきた。
スイーツ店で味わった、あの悪夢が蘇る。




