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欠け星アルフェラッツ もしもダビデ像が服を着てたら  作者: Y.Itoda
第三章 二〇〇〇年〜 遠江詩亜
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60話

「iモードも、速いぞ」


「いいなー。着うたは? 何入れてるの?」


 ボタンを押すたびに、カラーのメニュー画面が色を変える。向かいから身を乗り出す丸ちゃんの特異満面な表情が、液晶の端でうっすらと反射した。

 登録項目を何気なくなぞっていく。その時、指先の動きが一点で止まった。

 お気に入りに残された一つの行。そこに並ぶ文字を詩亜は知っていた。教室の片隅で、誰かが声を潜めて噂していたサイトの名称だった。


「……ねえ、これ。なに?」


 自分の喉から出たとは思えないほど、平らな声だった。


「ん?」


 改めて画面を見直した丸ちゃんの顔から、潮が引くように笑みが消えていく。事の重大さを彼なりに悟ったのだろう。


「あ、いや。それは」


「これ、出会い系だよね」


 『スタービーチ』。通称スタビ。掲示板でメル友を募集するもの。

 その忌々しい男女のやり取りを想像するだけで、手に持つ携帯が一気に重たくなる。


「ちが……いや、ちがくはないけど。それ、ソリーたちが、勝手に」


「勝手に?」


「あいつらが、おれの携帯で、面白半分に登録して。おれは、横で見てただけだって」


 しどろもどろの弁解は、きっと本当のことなのだろう。頭の隅では理解している。けれど、納得することと許すことは、全く別の感情だ。


「見てただけで、なんで、お気に入りに残ってるの!」


「それは、ただの、消し忘れで」


「ほかの子と、やりとりしたかったんでしょ」


「してないって」


 いつもは喧嘩しても、どこか飄々(ひょうひょう)としている丸ちゃんが、めずらしく声を強くした。


「だいたい、詩亜のほうが、無茶苦茶だろ。人の携帯、勝手に開いて、連絡先まで全部消して。女友達と話すのも禁止って、そんなの無理じゃね?」


 こめかみが、ズンと重たく脈打った。


「そんなこと言ったって嫌なものは嫌なの!」


 丸ちゃんは、はあと短く息を吐いて天井を仰いだ。もうパフェに手を伸ばすことはない、という無言の拒絶。聞き分けのない子供をあしらうようなその態度が、詩亜の神経を逆撫でする。

 和やかな店内で、二人の周りだけが刺々しく張りつめていた。物珍しさにこちらをうかがい、慌てて目を逸らす近くの客すらも、今はただ腹立たしい。


「そういう詩亜はどうなんだよ。他の男と一切話してないと言い切れるのか?」


「話してないよ。私は――」


 言いかけた言葉が、唇の裏で途切れる。

 不覚にも。落としたキーホルダーを拾ってくれた町野君の、向日葵のような笑顔がはっきりと脳裏に浮かんでしまう。

 行き場をなくした声は、小さな震えを帯びて喉の奥で息を潜めた。

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