59話
言語道断。いいわけが、ない。
どうせ、あの恋愛ドラマの影響だろう。美容師と車椅子の女の子を描いた物語。今日羽織っているボアジャケットも、主人公を演じる俳優の真似事に違いない。ふわりとさせた髪型に憧れ、星が一つ入ったスニーカーだってそう。そのうち、サングラスをかけて、水色のオートバイに乗りたいなどと口走る未来が、容易に想像できた。
「丸ちゃんは、黒髪で、短髪じゃなきゃ、だめなの」
「えー」
絶対に阻止する。せっかくの硬派な面影が台無しだ。
最近の丸ちゃんを取り巻く環境は酷いものだ。きっとそれも『ソリー』とかいう、金髪のクラスメイトのせい。そもそも、そのふざけた呼び名からして気に食わなかった。
ソリーは、池袋を舞台にしたドラマの主要キャラクターである『キング』を気取り、髪をライオンのように逆立てていると耳にしていた。そんな交友関係のせいで、丸ちゃんは煙草も吸わないのに教師に見つかり、巻き添えで停学処分まで受けてしまった。授業をサボって通い詰めた教習所も、私のために始めたという筋トレさえも、不良特有の浮ついたノリが拭いきれていない。
詩亜は、どうしても好きになれなかった。幼稚な温度感が。
――丸ちゃんは、いったい、これから何を目指して生きていくのだろう。
パフェの苺に伸ばされた手元を、詩亜はじっと眺めていた。
詩亜の進路は、すでに附属の大学へと決まっている。一方で丸ちゃんも、デザイン系の専門学校の内定を得てはいるが、その選択すらも結局はテレビドラマの受け売りだ。絵を描いている姿など一度も見たことがない。その先にある風景が、本人にすら見えていないように思えてならない。
――そんな、ゆとり教育まっしぐらの彼氏で、大丈夫なのか。
来年の春には、二人を隔てる距離は、今よりもっと、はっきりと形を持つだろう。
『その恋は、人生を賭けるほどのものなの?』
黒木先生の声が、耳の奥で、まだ尾を引いている。
口の端に生クリームをつけて、子供のようにパフェを頬張る横顔は、不安をいっそう濃くさせた。
そもそも、わたしは。
その先を考えかけて、思考を閉ざした。
「あ、そうだ。詩亜、これ見てみ」
浮ついた声が沈黙を無造作に破った。
「おれ、ついに買ったんだ。カラーの」
丸ちゃんは誇らしげに、新しい携帯を目の前へ差し出した。画面が見たこともないほど鮮明な色を放っている。
「えっ、カラー?」
液晶の中で、さまざまな色の小さなキャラクターが跳ねている。
「丸ちゃんだけ、ずるーい」
さっきまで、つかえていた考えごとが、その明るさに、あっけなく押しのけられた。つい、手が伸びる。




