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欠け星アルフェラッツ もしもダビデ像が服を着てたら  作者: Y.Itoda
第三章 二〇〇〇年〜 遠江詩亜
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59/86

59話

 言語道断。いいわけが、ない。

 どうせ、あの恋愛ドラマの影響だろう。美容師と車椅子の女の子を描いた物語。今日羽織っているボアジャケットも、主人公を演じる俳優の真似事に違いない。ふわりとさせた髪型に憧れ、星が一つ入ったスニーカーだってそう。そのうち、サングラスをかけて、水色のオートバイに乗りたいなどと口走る未来が、容易に想像できた。


「丸ちゃんは、黒髪で、短髪じゃなきゃ、だめなの」


「えー」


 絶対に阻止する。せっかくの硬派な面影が台無しだ。

 最近の丸ちゃんを取り巻く環境は酷いものだ。きっとそれも『ソリー』とかいう、金髪のクラスメイトのせい。そもそも、そのふざけた呼び名からして気に食わなかった。

 ソリーは、池袋を舞台にしたドラマの主要キャラクターである『キング』を気取り、髪をライオンのように逆立てていると耳にしていた。そんな交友関係のせいで、丸ちゃんは煙草も吸わないのに教師に見つかり、巻き添えで停学処分まで受けてしまった。授業をサボって通い詰めた教習所も、私のために始めたという筋トレさえも、不良特有の浮ついたノリが拭いきれていない。

 詩亜は、どうしても好きになれなかった。幼稚な温度感が。


 ――丸ちゃんは、いったい、これから何を目指して生きていくのだろう。


 パフェの苺に伸ばされた手元を、詩亜はじっと眺めていた。

 詩亜の進路は、すでに附属の大学へと決まっている。一方で丸ちゃんも、デザイン系の専門学校の内定を得てはいるが、その選択すらも結局はテレビドラマの受け売りだ。絵を描いている姿など一度も見たことがない。その先にある風景が、本人にすら見えていないように思えてならない。


 ――そんな、ゆとり教育まっしぐらの彼氏で、大丈夫なのか。


 来年の春には、二人を隔てる距離は、今よりもっと、はっきりと形を持つだろう。


『その恋は、人生を賭けるほどのものなの?』


 黒木先生の声が、耳の奥で、まだ尾を引いている。

 口の端に生クリームをつけて、子供のようにパフェを頬張る横顔は、不安をいっそう濃くさせた。


 そもそも、わたしは。


 その先を考えかけて、思考を閉ざした。


「あ、そうだ。詩亜、これ見てみ」


 浮ついた声が沈黙を無造作に破った。


「おれ、ついに買ったんだ。カラーの」


 丸ちゃんは誇らしげに、新しい携帯を目の前へ差し出した。画面が見たこともないほど鮮明な色を放っている。


「えっ、カラー?」


 液晶の中で、さまざまな色の小さなキャラクターが跳ねている。


「丸ちゃんだけ、ずるーい」


 さっきまで、つかえていた考えごとが、その明るさに、あっけなく押しのけられた。つい、手が伸びる。

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