58話
お目当ての詩集を、一通り眺めて回る。
棚の隅に置かれた一冊のページを、丸ちゃんが熱心に覗き込んでいた。
「へー。やっぱこの人の詩って、いいな」
不意にそんなことを言う。
無骨なふりをして、その実、丸ちゃんは作り手の言葉の奥底にあるものを感じ取る。とても繊細な人なのだ。その素顔を知っているのは、たぶん、私だけ。
それからは、映画館の暗がりに身を委ねた。お昼はファストフードで軽く済ませ、午後は、駅の高架下に延々と続く専門店街、C・ONEをぶらついた。流行の服が並ぶショーウィンドウを覗いては、あれが可愛い、これは高い、と言い合った。
やがて、店の連なりが途切れ、人通りの絶えない目抜き通りに出た。『親不孝通り』というその猥雑な名称に、懐かしさを覚える。
歩きながら、さっきの映画の余韻が、まだ尾を引いていた。美しい四季を背景に、純粋無垢な少女の初恋が、瑞々しく描かれた作品だった。
その余韻に押されるように、問いが浮かんだ。
「ねえ、丸ちゃん。私の、どこが好き?」
「急に、なんだよ」
「いいから。どこ?」
「どこって……まあ、いろいろ」
「なにそれ。ぼやっとしすぎ」
「うるさいな。じゃあ、詩亜はおれの、どこが好きなんだよ」
「顔」
「即答かよ。逆に、怖いわ」
むくれる横顔を、誰にも見せたくない。独占欲が顔を出す。
「まあ、おれ。この前、電車の中で知らない女子高生たちに、写メ撮られたけどな」
「何、それ?」
そんな話、初めて聞いた。
「少し距離あったけど、携帯こっちに向けてヒソヒソしてたから、絶対におれだわ」
自慢げにそう言われるのが、無性に腹立たしい。
「撮らせるな!」
思わず、脛に蹴りを入れた。丸ちゃんは「脛はヤバいって」と大袈裟に痛がる。
「いや、不可抗力だろ。さっきのパンチラと一緒で」
「だめ。今度から外出る時、マスク被って歩いて」
「なんでだよ。虎のマスクでも被れって?」
真剣な忠告を、丸ちゃんはけらけらと笑い飛ばす。その危機感のない瞳を見ていたら、また心の中が波立った。
「あそこのお店、入ろうよ。美味しそう」
視界の端に見つけたスイーツ店。これ以上、余計な詮索で心に磨耗を招く前に、丸ちゃんの腕を引いて店へと向かう。
新しくできたばかりの、流行りのエッグタルトの店だった。丸ちゃんは何故か、大ぶりのパフェを選んで席に着く。陽の光が柔らかく差し込む小綺麗な店内で向かい合って座ると、ふと目が留まった。
「丸ちゃん、髪、伸びたんじゃない?」
「ん? おう。伸ばして、パーマかけてみようと思って」
「だめ」
即答すると、丸ちゃんは心外そうに眉を寄せた。
「なんでだよ」




