57話
待ち合わせの柱の前に、丸ちゃんは既に立っていた。
ベージュに白の切り返しが入ったボアジャケットに両手を突っ込み、手持ち無沙汰に行き交う人影を眺めている。時折、ポケットから手を抜いては、かじかんだ指先に息を落としていた。
「丸ちゃん、おっはー」
声をかけると、ぱっとこちらを向く。
「おう。早かったな」
「待った?」
「いや、おれも今来たとこ」
絶対に、嘘だ。きっと、随分前からここで待っていてくれたのだろう。
詩亜は何も言わずに手を伸ばし、首元で少し形を崩したマフラーを、きゅっと整えてやった。丸ちゃんの誕生日に贈った、お揃いの素材。
「……なんだよ」
「べつに」
それ以上は、言わない。指摘すれば、どうせつまらない言い訳をするに決まっているから。
ちゃんと巻いてくれている。
そう思うと、それだけで、来てよかったと思えた。
駅と直結した大型百貨店、千葉そごうの暖かな空気が二人を包む。館内には、クリスマスソングが、どこからともなく流れていた。
詩集の特設会場は上の階にある。中央のエスカレーターに乗り、ゆっくりと昇っていく。
隣に立つ丸ちゃんの視線が、ふと何段か前をゆく女子高生へと流れた。あろうことかエスカレーターの段差で、短いスカートの裾から無防備な下着が丸見えになっていた。
「ちょっと。丸ちゃん、見ちゃだめ」
「いや、あれは無理だって。短すぎだろ」
「だから見るな!」
むきになる横顔を、じとっと睨みつける丸ちゃんは「はいはい」と、ごまかすように視線を宙へ泳がせた。
「……つーか、詩亜は、何色?」
「は?」
今日の詩亜は、制服姿のままだった。朝、音楽室でピアノを弾いたその足で、ここまで直行したのだ。そういえば、駅前ですれ違った男子たちが、『あの制服どこの学校?』「可愛い」とこちらを振り返っていた。
丸ちゃんも、それを耳にしていたのだろうか。
「いや、その……今日の、詩亜のは、どうなってんのかなって」
顔をうっすら赤くして、口元をもごつかせる。これはやきもちだ。本人は絶対に認めないだろうけれど。
詩亜は、わざとすました顔で答えてやった。
「スカートの下、体操着のハーフパンツ、ちゃんと履いてますけど」
「……そうか。ならいい」
「なにそれ。心配しすぎ」
「べつに、そんなことないって」
ひょいと顔を背けるその耳が、ほんのり赤い。
その横顔を見ながら、お互い様だな、と思う。
まあ自分も。人のことを言えた口ではない。




