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欠け星アルフェラッツ もしもダビデ像が服を着てたら  作者: Y.Itoda
第三章 二〇〇〇年〜 遠江詩亜
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51話

 彼はポケットに手を深く突っ込んだまま、何度も携帯を気にしては、不安げに辺りを見回している。この街の喧騒に、まだ馴染めていない様子が見るからに伝わってきた。

 その姿を見間違えるはずがない。


「……丸ちゃん?」


 呼びかけると、すぐにこちらを振り返った。視線が合うなり、丸ちゃんは気恥ずかしげに口をへの字に曲げ、それでも片手をひょいと上げる。


「よ、よう」


「どうして……っ」


 驚きで、言葉が続かない。千葉みなと駅から電車で一時間半。その距離を連絡もなしに現れた意味がわからない。駆け寄りながら矢継ぎ早に問いかける。


「何でいるの。何かあったの?」


 何かトラブルにでも巻き込まれたのだろうか。だけども、丸ちゃんは頭をがしがしと掻いてから、観念したように口を開く。


「いや……詩亜。今日、メールで早く会いたいって言ってたろ?」


 視線を逸らしたまま、丸ちゃんは続ける。


「なんつーか。おれもなんか会いたくなってきたみたいでさ」


 その一言で、胸の中にあった(わだかま)りが溶けていく。

 町野君と話した後ろめたさも、毎日会えない寂しさも、全部どこかへ消えてしまった。ただ会いたかったというその一心だけで、ここまで来てくれたのだ。

 溢れそうな嬉しさを必死にこらえ、代わりに丸ちゃんの胸を軽くぽかりと叩く。


「……バカ。心配するじゃん。連絡くらいしろ」


「したろ。ワンコール」


「あんなの、わかるわけないでしょ!」


 怒ったふりをして笑う。本当はこのまま、腕の中に飛び込みたいくらい愛憎(あいにく)らしいのに。

 その時、丸ちゃんのお腹が、ぐう、と情けなく鳴った。


「あーあ。詩亜が褒めてくれないから、おれの腹が泣いてるわ」


 唇を尖らせてお腹を押さえる仕草が、どうしようもなく可笑しい。


「ご飯、食べてこ。すぐそこにファミレスあるから」


 門限までは、まだ少しある。丸ちゃんの袖を引いて歩き出した。




 駅近くのファミレスのボックス席で、向かい合って座る。

 丸ちゃんはメニューを開くやいなや、一番大きなハンバーグの大盛りを注文した。詩亜はドリンクバーだけでいいと告げる。


「いいのか? おれがおごるぞ?」


「平気。丸ちゃんが食べてるとこ見るだけで、お腹膨れそうだから」


 何だか、本当に満たされる気がした。

 とりとめのない話を、いくつも重ねた。

 飲み屋で出会った年上の人に夢中なトン子の話や、相変わらず勉強に忙しくて連絡の途絶えがちな駿のこと。友人たちの近況を話すうちに、皆がそれぞれの場所で、懸命に今日を生きているのだと改めて思う。


「ていうか、丸ちゃんって、昔から食べるもの変わんないよね。ほんといつまでもお子様」


「そうか?」


「そうだよ。いつもハンバーグかスパゲッティ、それかオムライス。悩んだときは決まってラーメンだし」


「まあ、言われてみゃ、そうかも」


 丸ちゃんは、ハンバーグを頬張りながら呑気に頷く。


「詩亜と、お手手を繋いで、一緒に幼稚園通ってた頃から、変わってないのかもな」


「お手手って。うける、ていうか、超懐かしいし」


 思わず笑ってしまった。あの頃の小さな手の感触がよみがえる。昨日のことのようだ。


「まあ、お子様ランチの大盛りがあるなら、おれはそれでいいんだけどな」


 本当に丸ちゃんは、昔から何も変わらない。

 笑いを交えて軽口を叩くその顔を見つめながら、昔のことを思い出した。


「そういえばさ。覚えてる?  給食の余ったデザート、よくジャンケンしてたよね」

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