50話
自分は今、男子とあんなに楽しく話していた。
それなのに。
ついこの間、丸ちゃんの携帯から女子の連絡先を全て消させたばかりだ。他の女の子と話してはいけないと、あんなにきつく縛りつけたというのに。
自分はこうして平気で男子と笑い合っていた。
矛盾している。どうしようもなく身勝手だ。わかっている。
わかっているのに。
もし丸ちゃんがさっきの光景を見たら。どう思うだろう。
そんな考えが頭をよぎり、後ろめたさにうつむいた。
いつもの日常を終えた帰り道。舗道に駐められた車の、暗い窓ガラスに自分の姿が映っていた。一つに結んだ髪と、化粧っ気のない横顔。膝丈のスカートに、ごく普通の靴下。
中学の頃は、ルーズソックスに短く詰めたスカートに憧れ、髪を明るく染めたくて仕方なかった。目立ちたくて、背伸びをして。
通っている高校は校則が緩い。派手に着飾る子も少なくない。やろうと思えば、今だっていくらでも変えられたはずだ。
けれど、それは入学して数ヶ月で冷めてしまった。強く見せようとするだけでは、どこか滑稽でダサいと感じたから。
あんなに焦がれた装いも、いざ手に入れば飽きてしまう。今は自分に馴染む格好でいい。見せたい相手の傍にいないのなら、どう見られたって構わないのだから。
その相手の顔をふと思い浮かべ、詩亜はガラスに映る自分からそっと目を逸らした。足取りが、知らぬ間に速くなっている。
鞄の中で探り当てた携帯が鳴った。ワンコール。丸ちゃんからの合図だ。
足を止め、同じようにワン切りを返す。すぐにまたピルルルと着信音が響いた。
『学校終わった?』
『終わったよー。今、帰り』
短く打ち込み、送信する。けれど、返事は来ない。
代わりに、またワン切りが鳴る。
……何だろう、これ。
普段なら『おつかれ』や『気をつけて』といった意味があるはずなのに。考えの読めない唐突な合図に、訝りながら折り返してみたけれど、携帯はそれっきり静まり返った。
なんなの、もう。
頬を少し膨らませ、寮への道を急ぐ。あの人は昔から、肝心なところで言葉が足りない。何を考えているのか、さっぱり読めない。
わからないはずなのに。どうして、こんなにも――。
寮の門が見えてきた。街灯の薄明かりの下に、見覚えのある背格好が、ぽつんと立っている。
足が止まる。わからない。何故か胸がぎゅっと苦しくなる。




