40話
そして季節は、柔らかく巡っていく。
味気ない液晶も、高校三年になる頃には少しだけ広くなり、送れる文字数も増えた。
主流だったストレート型の端末の中で、折りたたみ式のそれは、どこか未来の欠片のようだった。誰かがパカパカと軽やかな音を立てて開くたびに、周囲の視線は吸い寄せられる。あの開閉音には、不思議な存在感があった。
電話やメールの機能が普及するにつれ、学生の間ではチェーンメールという波が広がっていた。
誰かが始めたメッセージが、次から次へと受信箱をすり抜けていく。ほとんどは取るに足らない内容だったが、『好きな人に送れ』とか、『このバトンを止めたら不幸が訪れる』といった、子供じみた脅し文句も混じっていた。
その中に、『出会えてよかったと思える人に送ってください』と綴られたメールがある。条件は、二十五人に送ること。
もしそのバトンを回すとしたら、詩亜は自分を選んでくれるだろうか。
一丸は、そんな淡い期待を抱いていた。
たったそれだけのこと。けれど、それだけで自分の想いが何処かで繋がっているような、そんな予感がしていた。
その夜、メールが届く。差出人はクラスの女子だった。
定型文を確認した瞬間、胸の奥がしょぼくれる。緑色の液晶に、どこか無理やり感動を押しつけるような言葉が並んでいた。
無意味な連鎖に乗る気になれず、一丸はメールを閉じる。
やっぱり、詩亜からは来ないのか。
直後だった。画面の右上に、もう一つ、小さな光が灯る。
心臓が、ドクンと跳ねた。
詩亜からだった。
ワン切りではない文章のあるメールが届くのは、久しぶりだ。指先で開くと、そこには先ほど目にしたばかりのチェーンメールの文面があった。
――出会えて良かったと思える人に送ってください。
その文章を何度もスクロールしながら、一丸は『詩亜』という名前を、じっと見つめていた。
詩亜は、このバトンを自分に送ったのだ。
彼女にとって、自分は『出会えてよかった人』。もしかすると、その裏側には、別の意味も隠されているのではないか。そんなことまで考えてしまう。
メッセージの末尾には、個人的な一文が添えられていた。
――PS、本当は二十五人もいないけど、丸ちゃんには送っておくね。
そっけないようで、正直なその追伸を読んだ瞬間、チェーンメールの陳腐な呪縛なんて、どうでもよくなった。
携帯電話を握りしめたまま、誰もいない部屋で、どうしようもないほど柔らかい笑みがこぼれた。一丸もまた、すぐに送り返さなければならないという、衝動に駆られていた。
そして、また夏が来た。
「ねえ」
ある夜、電話の途中で、詩亜がふと言った。
「明日、暇?」




