36話
港の方で毎年上がる、千葉ポートタワーで行われる花火大会。中学の頃は浴衣も着ず、四人で一丸の部屋に転がり込み、だらだらと眺めていた。
「久しぶりに丸ちゃん家で集まるのとか、どう? 皆で」
皆で。
その言葉に、一瞬、誰の顔を思い浮かべればいいのか迷う。もう、あの日々のような関係ではないと、自分に言い聞かせてきたはずなのに。
「皆って……トン子、詩亜とまだ連絡取れんの?」
「取れる。ていうかさ」
トン子は最後の一枚のスナックを口に放り込み、こともなげに続けた。
「詩亜、こないだ都内で駿に偶然会ったんだって。連絡先も交換したらしい」
「まじかよ」
駿。
その名前を聞いた瞬間、心臓が、変な鳴り方をした。声が、少し上ずった。
「呼んでみる? 来れるかわかんないけど」
トン子はすでに携帯を取り出している。まるで昨日も会っていたかのような、気軽な手つきで。
一丸だけが、かつて置いてきた時間の重さに、しばらく動けずにいた。
あの日から止まっていた時間が再び動き出した。
その三日後だ。四人が久しぶりに、この部屋へ集まったのは。
詩亜は髪を短くし、駿は伸びた前髪を無造作にかき上げている。清潔感のある服装のせいか、二人とも以前より、ずっと大人びて見えた。
--駿の身長が伸びたか?
それを見逃す詩亜ではなかった。すかさず駿が確保される。
「えー! 駿、身長伸びたね! 私、もうすぐ抜かれそう」
背中合わせに並ばされ、困ったように身をすくめる駿だが、背丈は変わっても、えへへと笑う仕草は変わらない。
無作法に卓上を占拠する菓子と炭酸飲料。各々が持ち寄ったコンビニ袋がカサつくたびに、懐かしさを連れてくる。三年という月日は、思うよりもずっと短いものなのかもしれない。
袋の騒めきが途切れた、ふとした隙間のことだった。
不意に詩亜と目が合って、ぱっと心に花が咲いたような感覚に襲われた。どこかでずっと、自分は待っていた? そんな摩訶不思議な自覚すら芽生えていた。
垢抜けて見えるのは、装いのせいだけではないはずだ。詩亜は、流行りの渋谷ファッションとは違う、ありふれたTシャツとズボンを、さらりと着こなしている。その、気負いのない無防備さ。
何だろうか、この心臓の鼓動は。理屈は判然としない。ただ、何かがビビビと反応したのだけは、確かだった。
「丸ちゃん、聞いてる?」
詩亜の声で、我に返る。
「え、あ、ああ。聞いてる聞いてる」
「嘘。絶対聞いてないでしょ」
眉を寄せるその顔つきは、昔のままで。けれど、どこか角が取れて柔らかくなっていた。中学の頃にあった、触れれば切れるような棘は、もうどこにも見当たらない。
その変化が、何故だか無性に、こそばゆい。
「丸ちゃん、さっきからぼーっとしすぎ」
「超ウケるんだけど」
トン子が菓子を頬張りながら、からかうように笑う。
「あちしたちに会えて、緊張してんじゃない?」
「ばっ……んなわけないだろ」
うまく言い返せぬまま顔を赤らめる自分に、また楽しげな笑いが広がる。その輪の中心に、駿もいた。三年ぶりの笑い方も、何ひとつ変わっていないように見えた。
ただ、ほんの一瞬。皆が談笑に興じるその影で、駿が窓の外へ、遠い目を向けたのを一丸は知らない。
すぐ隣で、詩亜の横顔に見惚れていたから。




