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33話

 一丸と駿は、のろのろと身体を起こした。

 駆け寄ってきた詩亜が、二人の顔を見てぎょっと足を止める。


「え、どうしたの? 二人とも。その顔」


「超ウケる」


 トン子が、開口一番それだった。


「あー、何でもないない。転んだだけ。なあ、駿?」


「そうそう。自転車で、木に突っ込んじゃってさ」


「はあ? 自転車? どこの。二人乗りで?」


「まあいいじゃん、いいじゃん。ほら、行くぞ」


 一丸は立ち上がろうとして、ひねった足に体重がかかる。思わず顔をしかめた。駿が黙って、肩を貸してくれる。


「え、何! 丸ちゃん、足、大丈夫なの!」


「あー、うるせーな。女はいちいち、あーだこーだと。大丈夫だって」


「丸ちゃん。あちしもいるけどね」


 とトン子が、のっそり口を挟んだ。




 詩亜の根掘り葉掘りを、適当な嘘でかわしながら、四人で広場を出る。車の走る通りに出たところで、前から人影が歩いてくる。

 女性の警官だった。見るからに若いその人は、詩亜の顔を見て、あ、と何かに気づいたような表情を浮かべる。


「もう、安心していいから。大丈夫よ」


 詳しい説明はなかった。けれど、その一言で、なんとなく察しがついた。たぶん、詩亜の家族が通報して、矢刃たちはもうどこかで捕まったのだろう。

 警官は、一丸と駿の傷をちらりと見て、何か言いかけてやめた。それから、トン子の顔をじっと見つめる。トン子は、自分は関係ないとでも言いたげに、明後日の方向を向いて口笛でも吹きそうな顔をしていた。何度も世話になっている仲なのだろうか。警官は、小さくため息をつく。


「もう遅いから。気をつけて、早く帰りなさい」


 それだけ残して、彼女は歩いていった。


「あの人、話のわかる、いい人なんだよね」


 トン子がその背中を見送りながら言った。いい大人も、世の中にはいるんだな、と一丸は思う。あのトン子が言うのだから、よっぽどなのだろう。


「で、あちしたち、どこ向かってんの?」


 三人の視線が、一丸に集まる。


「海、見に行くか」


 何となく動いた口に、詩亜が噛み付いてくる。


「はあ⁈ 今から? その足で? バカじゃないの」


「二ケツしてけば平気だろ。おれのママチャリなら座れるし」


 駿の自転車は、二人乗りができない。


「詩亜のチャリは後ろ立ちできただろ?」


 詩亜が、これ見よがしに大きな息をつく。何考えてんだか、と顔に書いてある。


「こんな時間にポートタワーとか、超ウケるんだけど」


 トン子が、にやにやと笑う。


「ねえ」


 駿が、ふと顔を上げた。


「夏に残った花火とか、ないの?」


「おー! いいね、いいね。ぶっ放すか。探してみようぜ」


「あちし、コンビニ寄りたい。肉まん食べたい」


「トン子、さっきカツサンド食べてたでしょ⁈」


「別腹だし。超ウケる」


「あ〜、何か、僕もお腹空いてきたかも」


 一丸は真剣な顔で訊いた。


「デイリーハマザキに抹茶アイスってあったっけ?」


 四人分の笑い声が、夜の住宅街に転がっていく。

 あの歪んだ四角形の星は、まだ頭の上にあった。

 今を楽しめと言わんばかりのその光に応えて、三人の声が、揃って足踏みする。


「ていうか、丸ちゃん。いつから抹茶なんて好きになったの⁈」

第一章おわり。

ありがとうございました☺︎

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