30話
女子バスケ部との合同練習。一丸がシュートを決めても、女子は誰ひとり、声を出さない。それでいて、他の男子がゴールを決めれば、示し合わせたように「ナイッシュー」と全員で声を張り上げる。
あからさまな無視を浴びたのは、生まれて初めてだった。
牧野自身が、そう仕向けたわけではないのだろう。けれど、周りの女子がそういう空気を作り、牧野もそれを止めはしなかった。それだけのことだった。
男子バスケ部のキャプテンが見かねて止めに入り、三、四日ほどで収まりはしたが――
「丸ちゃんには詩亜がいるじゃん」
「ば、バカいえ」
やつには彼氏がいる。無神経な言葉が、傷口に塩を塗り込んでくる。
「何でだろ。近すぎる関係のせいなのかな。僕はお似合いだと思うけどな」
寝転んで見上げている均一に並ぶ窓の明かりには、それぞれの穏やかな日常が閉じ込められていた。
「やっぱ、おれは天才にはなれないわ」
その人々の整然とした光の列から、自分一人だけが零れ落ちて地面にへばりついているのだと改めて気づかされた。
漫画の主人公なら、ここから立ち上がるのだろう。けど、今の自分にあるのは、明日、トン子に『ウケる』と一蹴される、格好のつかない未来しか見えていない。
--もうおれは、普通にはなれない。
そんな予感が背筋を撫でた。
「またトン子に笑われるな」
思わず落ちた言葉に、「間違いない」と駿が応じた。
隣にいる駿は今、何を想っているのだろうか。
言葉はなくとも、通じ合っている感覚があった。湿った地面に生えた草の感触も、遠くに響く車の走る音も、同じ体温で分かち合っているようだった。
視線の先、二人の上には同じ夜空もある。
口の中でじわりと広がる鉄の味に、一つ気がかりを思い出した。駿が折り合いの悪いと言っていた、父親の再婚相手について。
「駿の方こそ、大丈夫なのか?」
自分の代わりに何発も蹴りを受けた駿の服は、泥に汚れ、ボロボロだ。帰れば何か言われるに違いない。
だけど駿は、「丸ちゃんの方こそ」と軽く笑い、おそらく不細工に腫れ上がっている顔を覗き込んできた。
そのまま、どこか遠くを眺めるようにして「平気だって、これくらい」と短く返す。
その台詞には、いつものおどけた様子はなかった。
しばらくの無言。遠くでバイクの音が膨らんで、また萎んでいく。
駿の、何か言いかけて、やめる気配がした。
「僕さ……見ちゃったんだよね」
自分のことを語る駿は、珍しい。一丸は何も言えず、ただ次の言葉を待った。
「……あの人と、父親が。夜中に、アレをやってんのを」
「まじか!」
背徳の声が飛び出た。それは、いわゆる『アレ』のことなのか。夜の営み。ましてや実親の、ちょめちょめ、を目撃することになるとは。




