24話
駿の住んでるマンション行ってきたら。
ふいに、詩亜の声が頭の中で聞こえた。
丸ちゃんは『すごい』んだから。
続けて、駿の口癖まで。駿もこの漫画をよく読んでいた。あいつならパンチではなく、回し蹴りを選ぶだろうか。いや、背が低いぶん、飛び回し蹴りかもしれない。空手有段者の黒帯が繰り出す技は、さぞ迫力があるに違いない。
拳を下ろし、何となく口寂しさを覚えて、キッチンへ向かうが、冷凍庫にはアイスはなかった。
部屋に戻り、テレビの音をBGM代わりに流しながら、再び漫画へ視線を落とす。本棚には、願いを叶える球を探して世界を巡る冒険記から、自らを天才と豪語するバスケ漫画まで、旬な誌面が雑然と並んでいる。台詞を覚えるほど、何度も何度も読み返してきた。
自分の居場所を探すかのように。
漫画の主人公みたいに、いつか自分たちも何者かになれる。ただ、そう信じたかったのだと思う。
寝返りを打った拍子に、本棚の隅で何かが光った。
ピーピーと、玩具のような電子音が短く繰り返される。
――これ、詩亜のじゃ?
拾い上げたのは、板チョコを半分に割ったようなサイズの端末だった。詩亜が肌身離さず持ち歩いている、ポケットベル。置き忘れていったのだろうか。
モノクロの小さな液晶には、『3476』という数字だけが並んでいた。
――何だこれ?
詩亜は以前、打ち込む暗号を全て覚えたと自慢していた。確か、10105で『いまどこ』。何故か、それだけは記憶にこびりついている。
……サシナム。
違うか。さすがに意味がわからない。数字をそのまま音に変換しても、正解には辿り着けなかった。
詩亜の語る姉の高校生活は、眩いほど煌びやかだった。授業を遮って鳴るというポケベル。休み時間のたびに、公衆電話へ走る行列。そんな喧騒の中に居場所を求める妹にとって、この端末は少し背伸びした、あちら側へ繋がる切符なのかもしれない。
鳴ることのない青春を過ごす自分には、一生縁のない話だ。意味不明な『サシナム』の文字が、そう告げている気がした。
――これ、絶対探してるよな。
間違いない。そう思い直して、拾い上げた端末をポケットに入れた。
とりあえず、コンビニに行きがてら、詩亜の元へ届けることにしよう。




