23話
「駿、今日も休み?」
詩亜が当たり前のように口を開く。
一丸は小さく頷いた。ここ一週間ほど、駿は学校に来ていない。
「丸ちゃん。駿の住んでるマンション行ってきたら?」
言葉が刺さった。間違いなく自分のせいだ。原因の見当はつかなかったが、あの夜の部屋の空気が頭から離れない。このまま関係が終わるかもしれない、とまで考えていた。
「そうだな」
としか返せなかった。
「トン子、足」
詩亜が机に座って片足を立てたトン子に目をやる。スカートの内側が丸見えだった。
「あ、ごめん、丸ちゃん。見えた?」
「見てないっつーの」
言い返すと、短く刈り込んだ強気な頭とは裏腹に、トン子は顔をぽっとして赤くした。案外、乙女だったりする。四人の中で一番まともな家庭を築くのはこいつではないか、一丸は密かにそう睨んでいた。
「で」
と、一丸の声ひとつ。
議題はもちろん詩亜。昼休みの騒動について。
「あちしが、そいつらシメようか? 最近レディースのチーム作ったし」
得意げに「まだ三人だけどね」とトン子は笑う。
冗談なのか、それとも本気なのか。本心は測りかねる。
「ありがと。……でも、いいよ」
詩亜は躊躇なく申し出を切り捨てた。
「余計ややこしくなりそうだからさ」
トン子が出ていけば、ただの騒動では済まない。一丸もその重みを理解していた。
「先輩たち、部活引退してから荒れてるからなー」
一丸もまた、その火の粉を浴び続けてきた一人だ。
引退と同時に髪を金髪に染めたバスケ部の先輩は、顔を合わせるたびに上履きの白い靴跡を一丸の黒い学ランに残していき、見ず知らずの先輩には、廊下ですれ違うたびに、首が折れるほど頭を不意にはたかれたこともあった。それも一度や二度ではない。
理由はいつも同じ。
『お前、調子乗ってんな』
そのせいで廊下を歩く際、無意識に壁際や柱の陰を選ぶようになっていた。透明な存在として、上級生らの視界から消えること。それだけに神経を注ぐ学校生活は、ただひたすらに息苦しかった。
部活を終え、一人で帰路につく。秋の夜気が首筋に触れた。
部屋に戻り、カーテンを引いてベッドに寝転ぶ。広げた漫画の展開に、気づけば熱を上げていた。不良がプロボクサーを目指す、ろくでなしな物語。
「……これなら、おれにもできそうだな」
思わず立ち上がり、主人公気取りで拳を構える。作中の必殺技を真似て繰り出すたびに、ベッドをふかふかと揺らす。
--こいつは効きそうだ。
これを食らえば、一発でノックアウトできるかもしれない。




