15話
浮足立っている自覚はあった。だけど、この浮遊感を手放す気にはなれなかった。
牧野は男子からの人気がある。女子から告白されること自体は、初めてではない。
でも、これまで寄ってきたのは、正直に言えば釣り合いの取れない相手ばかりだった。断るたびに、もし仮に付き合ったとして、自分の気持ちは持つのだろうかと、冷めた思考が頭の中をめぐっていた。
不釣り合いな相手と並んで歩く光景は、天国か、それとも地獄か。
牧野は違った。一緒にいても、誰も笑わない。むしろ羨ましがられる類いの相手だ。そのことが嬉しいのか、それとも安心しているだけなのか、一丸にはまだ区別がつかなかった。
ノートに書いた『株田』と『牧野』の文字に目を落としたまま、ふと我に返ると、不純な感情がいた。バスケで鍛えられたしなやかな脚。汗を拭う横顔のライン。練習中、白いシャツの下に透けていたもの。
体育館の隅で男連中と騒いだときは他人事だったそれが、今は自分だけに許された想像になっている。その変化に、体が熱を持った。
五時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り、思う。女子も考えるのだろうか。こういったハレンチな妄想を。
漫画のヒロインたちは、そんなことは考えない。
いつだって純粋で、きらきらしていて、恋に頬を染めるだけだ。そして牧野もまた、当然のようにそちら側の住人だろうと、一丸は勝手に決めつけている。自分と同じで、手すら繋いだことがない、清らかな存在だと。
不意に漫画の主人公を思い返してみると、おれだって同じなのかもしれない。そう思った。自分もスケベなキャラクターを知らず知らずのうちに演じているだけなのかもしれない。
そんなことを考えている間にも、噂はもう広まり始めていたらしい。
教室の外ですれ違う女子たちの視線が、朝とは明らかに質が変わっている。
そして何故だか、その夜の詩亜の態度も明らかに変だった。
用意していた飲み物には目もくれず、お茶より団子と言わんばかりに「何か甘いものないの」と要求してきた。
--もしかして、地雷を踏んだ?
一丸はその、総資産は数千億とも言われる大財閥の跡取り息子さながらの威圧的な態度に、肩を震るわせた。




