16話
「今日、トン子は?」
「知らない。集会じゃない」
駄目だ。素っ気ない。これでは間が持たない。『集会』というワードに疑問を持ったが、さらりと聞き流してしまった。
詩亜の爆弾の隠し場所は、昔からわからない。ここへきてトン子の『超ウケる』が恋しかった。あの口癖は、この部屋では一つのチューニング役をかっていた。
ベッドに座ったままの詩亜は、漫画も開かず、テレビも見ずに、一丸がお気に入りの特撮ヒーローの目覚まし時計を執拗に叩いている。葬るたびにカラータイマーがピコンピコンピコンと点滅し、ヒーローはシュワッチと声を上げて宇宙の彼方へと飛んでいく。それをまた引き戻して、叩く。この仕草は、怒りが言葉より先に来ているときのものだった。
「何?」
視線に気づいた詩亜の声は低い。
「いや、別に」
「はあ? 別にって何。じろじろ見ないでよ」
言葉には棘しかない。というより存在そのものが棘といっていい。こいつに巨大化できる能力なんて与えようものなら、たちまちこの家諸共に破壊しているに違いない。
――やっぱり、牧野のことか?
五時間目には学年中に知れ渡っていた。当然、詩亜の耳にも届いている。
けれど、怒りの正体がわからない。四人の間に恋愛禁止のルールを持ち出したのは詩亜だし、そもそも当の本人には彼氏がいる。それとも、何か他の理由でもあるのだろうか。
こんなとき、駿はいつも気まずい表情でゲームをする。ただ、さすがに今日は耐えかねたのか、テレビ画面に向かったまま声を詰まらせた。
「ま、丸ちゃん、おめでとう」
ばかやろう。おまえは不器用か。思わず心の中で叫んでしまった。その話題は、今一番触れてはいけないだろう。
「は?」と案の定、詩亜の眉が鋭く跳ねて、一丸は冷や汗ものだ。
「別に、おめでたくなんかないでしょ」
「え、だって彼女できたんでしょ?」
「だから何なのよ。勝手にすれば」
詩亜は立ち上がり、本棚から漫画を乱暴に引き抜いた。めくる指に容赦がない。活字など一字も追っていないのは明白だった。
「――駿」
逃げるように一丸は声をかけ、もういいから、と視線で制した。
二人でテレビに向かい、ゲームのコントローラーを握る。それでも、今にも膨らんで破裂しそうな風船のような空気に耐えられなくて、勝手に口が動いていた。
「駿はさ、気になる子とかいないのか?」
その瞬間、一丸は自分が風船を針で突き刺してしまったのではないかと思った。
一回り小さい駿の体が、大きなパーカーの中に沈み込んでいる。




