14話
朝の情報番組の占いは当たるのだろうか。
毎朝それとなく目にはしているものの、当たった試しなど記憶になかった。
こんなにも神がかりなんて言葉を本気で期待するのは、生まれて初めてかもしれない。
何だか、今日に限っては、午前の授業が短く感じられた。
窓を透過した日差しが、ノートの上で図形を描いていた。黄色い四角に思わずにやける。いやが応でも、この色に意識が吸い寄せられている。
四時間目が終わり、給食の皿の横に横たわるバナナ。その無慈悲に三分の一に切断された黄色は、あたかも一丸の祝福を祈る供物のように添えられていた。
もう笑うしかない。皮を剥いて一口で食べた。
そして、食器を片付けようと席を立った瞬間、背後から肩を叩かれた。促されるまま視線の先の廊下には、隣のクラスの女子が、そわそわした様子で立っていた。
校舎裏。
呼び出し。
普通なら嫌な予感しかしない組み合わせなのだろう。ここ数日の経験からすれば、待ち構えているのは先輩という流れなのかもしれない。
だけども、今日の蠍座は一位。根拠のない万能感が、背中を押す。おれにはバナナがついてる。自分でも呆れるほど稚拙な理屈を盾に足を動かしていた。
一丸は目を疑った。何が起きている? 裏手に回り込んだ校舎の隅にいたのは牧野だった。
昨日の夕方、校門で手を振ってきたあの飴色の髪。今はその髪の毛を、黄色いヘアピンが留めていた。
もはや、これを偶然という言葉で片付けることは不可能に思えた。
こちらに気づいた牧野は小さく会釈して視線を落とすと、また上げてから、また落とした。校舎の壁際に寄った姿は、日陰の中で柔らかく白んで見えた。
--これは本当に、ひょっとしてひょっとするかも。
よく目にする漫画のヒロインみたいな、よそよそしい雰囲気にそう確信した。
牧野は何かを言おうとして、やめて、もう一度口を開いた。
「株田くん、あの、突然でごめんね」
微かに震えている指先が、やたらと可愛く映った。牧野は視線を泳がせながら、制服のスカートを執拗に摘んでいる。
「株田くんのことが、好きです。付き合ってください」
爽やかな、秋風が二人の空白を通り抜ける。
彼女の側頭部で光る黄色いヘアピンだけを見つめていた。ようやく運気が目を覚ましたのか。朝から抱いていた問いの答えが、今、目の前に立っている。
牧野には、バスケ部のキャプテンが好意を寄せている。それは部内の人間であれば、周知の事実だった。
でも、
--許せ、キャプテン。
一丸は心の中で、めざましの神に手を合わせた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
短く応じると、牧野の顔が一瞬にして赤く染まった。
こういうとき、気の利いた台詞の一つでも言えればいいのだが、あいにくその手の引き出しがなかった。漫画の主人公なら、ここで風に乗せた一言を吐くのだろう。
おれはおれ。
そんなよろしくという、使い古された五文字を差し出すのが、今の自分には精一杯だった。
--ついに主役に躍り出るときがきたのか。
ずいぶんと黒板の文字が、くっきりと見え、教室全体も明るく見えた。隣の席の消しゴムの音さえ、どこか遠い場所から聞こえる。
五時間目の授業は、案の定、妄想劇場と化した。




