13話
そのあと、チャンネルを切り替えた画面では、青い髭の跡を厚化粧で塗りつぶした芸人が、くねくねと腰を振って奇声を上げていた。周りの連中がそれを同性愛と揶揄して、今度は薄い頭髪を薄毛と罵りしつこく弄り倒す。すると笑い声のボリュームがまた一段、際限なく膨れ上がった。
関西特有の押し付けがましい笑いは肌に合わないが、かといって関東の笑いなら何でもいいわけでもなかった。
一丸は箸を持ったまま、ただ見つめた。
――笑えなかった。
理由は、うまく言葉にできない。ただ、誰かを削って成り立つ笑いに、吐き気に似た何かがこみ上げた。父親の年々薄くなっていく頭頂部の影響もある。それは遺伝という名の、自分では決して抗いようのない血の呪い。禿げるくらいなら死んだ方がましだ。
リモコンのボタンを押し込み、木曜日の連続ドラマに画面を切り替えると、そこにはこうあった。
渡る世間は鬼ばかりなのだという。
次の日、朝のテレビの星座占いはこうだった。
蠍座、一位。ラッキーアイテムは、バナナ。
思わず、昨日の単語の連想ゲームが重なった。黄色と言ったら、何だ?
珍しく朝食の席にいた母親が、台所からひょいとバナナを一房ちぎって差し出してきた。
「ほら、これ。お腹空くでしょ」
受け取った黄色い皮は、ひんやりと冷たかった。
今日は、ましかも知れない。なにか『マジカル』なことでも起きるのか。淡い期待を胸に家を出た。
校門から昇降口へ向かいながら、さりげなく周囲を見回す。雨上がりの空のせいか、登校してくる生徒たちの姿はどこか清々しい。懸念していたあの金髪も、今のところ見当たらない。
「丸ちゃん、おはよ」
昇降口で上履きに足を通していると、駿がさりげなく隣へ並んだ。前髪の隙間から覗く目が、値踏みするように様子をうかがっている。
「あれ、今日、機嫌いいね?」
「そうか?」
素っ気なく返したが、駿は満足そうに小さく頷いた。
「今日、晴れたしね」
「そうだな。黄色だな」
半開きになった駿の口を塞ぐつもりで、ドラマの主人公ばりに「マジカルだな」と付け加えてやると、案の定、苦笑いが返ってきた。
入った教室では、岸本が取り巻きを従え、椅子の背もたれにふんぞり返っていた。いつもの見慣れた光景だ。
ただ、坊主頭だけが黒から茶色に変わっていた。
「ゲボお?」
耳障りな岸本の声すらも、今日に限っては、それほど悪くないものに思えた。




