123話
両手に持ったコンビニ袋が歩くたびに脛に当たる。服にはまだ、花火の火薬の匂いが残っていた。部屋を出た時の勢いはどこへやら、詩亜も隣を静かに歩いている。
「久しぶりだよね。こうやって歩くの」
前を向いたまま、詩亜が言った。
「いつぶりだっけ?」
「一昨年のクリスマス」
それきり、言葉の糸がふつりと途切れた。
あの夜のことは、互いに触れようとはしなかった。街灯の下を三つ、四つと過ぎても、夜道に二人分の足音だけがどこまでも続いていく。
沈黙の重さに耐えかねたのは一丸の方だった。何か言わなければと焦るほどに、頭の中にはろくでもない考えばかりが思い浮かび、あろうことか、レジで見かけたあの小さな箱のことが咄嗟に口をついて出た。
「ゴム、買わなくてよかったよな?」
詩亜の足が止まった。うつむいたまま、こちらを見ようとしない。
「……そういえば丸ちゃん、さっき脱衣所で下着見てたでしょ」
苦し紛れに言い返してきた声は、わずかに上ずっている。
「馬鹿言え。ちょっと匂い嗅いだだけだ」
嗅いでなどいないのに、余計な一言が勝手に飛び出た。
詩亜は顔を真っ赤にして「ふざけんな!」と怒鳴ったかと思えば、次の瞬間、頬に強烈な衝撃が走る。
頬がひりひりする。昔から詩亜のやつは、頭に血がのぼると見境がない。
「馬鹿じゃないの」
詩亜はそれだけ言い残すと、早足で先へ行ってしまった。
これだよ、これ。
自然と口元が緩む。詩亜と別れてから二人の彼女と本気で付き合ったが、こんな高揚感は味わえなかった。そして、どこかでこの痛みを待っていたのかもしれない。
一丸は頬をさすりながら、先を行く背中を追いかける。
やっぱり自分には詩亜が必要なのだと、改めて思い知らされていた。
部屋に戻るなり、詩亜は買ってきたものを冷蔵庫へ詰め始めた。明日の朝に食べるのだというヨーグルトを奥へ、飲み物を鼻歌まじりに並べていく。ずっと空っぽだった冷蔵庫も、これできっと喜んでいるはずだ。
「で、今日は何があったんだ?」
「何って……別に何も。他に行くとこなかったから来ただけ。トン子の家には旦那さんも陽葵ちゃんもいるし」
なかなか核心に触れようとしない素振りからは、よほどの出来事があったのだろうと推測できる。
「彼氏が何かしたのか? 今日はコンクールだったんだろ?」
詩亜は、ぽつりぽつりと話し出した。
「あいつの携帯見たら、最悪なのが出てきたの」




