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123/127

123話

 両手に持ったコンビニ袋が歩くたびに脛に当たる。服にはまだ、花火の火薬の匂いが残っていた。部屋を出た時の勢いはどこへやら、詩亜も隣を静かに歩いている。


「久しぶりだよね。こうやって歩くの」


 前を向いたまま、詩亜が言った。


「いつぶりだっけ?」


「一昨年のクリスマス」


 それきり、言葉の糸がふつりと途切れた。

 あの夜のことは、互いに触れようとはしなかった。街灯の下を三つ、四つと過ぎても、夜道に二人分の足音だけがどこまでも続いていく。

 沈黙の重さに耐えかねたのは一丸の方だった。何か言わなければと焦るほどに、頭の中にはろくでもない考えばかりが思い浮かび、あろうことか、レジで見かけたあの小さな箱のことが咄嗟に口をついて出た。


「ゴム、買わなくてよかったよな?」


 詩亜の足が止まった。うつむいたまま、こちらを見ようとしない。


「……そういえば丸ちゃん、さっき脱衣所で下着見てたでしょ」


 苦し紛れに言い返してきた声は、わずかに上ずっている。


「馬鹿言え。ちょっと匂い嗅いだだけだ」


 嗅いでなどいないのに、余計な一言が勝手に飛び出た。


 詩亜は顔を真っ赤にして「ふざけんな!」と怒鳴ったかと思えば、次の瞬間、頬に強烈な衝撃が走る。

 頬がひりひりする。昔から詩亜のやつは、頭に血がのぼると見境がない。


「馬鹿じゃないの」


 詩亜はそれだけ言い残すと、早足で先へ行ってしまった。


 これだよ、これ。


 自然と口元が緩む。詩亜と別れてから二人の彼女と本気で付き合ったが、こんな高揚感は味わえなかった。そして、どこかでこの痛みを待っていたのかもしれない。

 一丸は頬をさすりながら、先を行く背中を追いかける。

 やっぱり自分には詩亜が必要なのだと、改めて思い知らされていた。




 部屋に戻るなり、詩亜は買ってきたものを冷蔵庫へ詰め始めた。明日の朝に食べるのだというヨーグルトを奥へ、飲み物を鼻歌まじりに並べていく。ずっと空っぽだった冷蔵庫も、これできっと喜んでいるはずだ。


「で、今日は何があったんだ?」


「何って……別に何も。他に行くとこなかったから来ただけ。トン子の家には旦那さんも陽葵ちゃんもいるし」


 なかなか核心に触れようとしない素振りからは、よほどの出来事があったのだろうと推測できる。


「彼氏が何かしたのか? 今日はコンクールだったんだろ?」


 詩亜は、ぽつりぽつりと話し出した。


「あいつの携帯見たら、最悪なのが出てきたの」

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