106話
「mixi? おれんとこにも招待メール来てたけど」
「え、先輩、友達いるんすか?」
樹里が、心底信じられないといった表情を浮かべる。
「何だよ、そのリアクションは。自分で訊いといて」
「いや、だって。mixiって招待制なんで。友達から招待されないと、始められないんです」
「へえ」
なるほど、それで樹里のこの驚きようか。失礼極まりないけど。
「どこの誰っすか? 先輩に招待する友達って。めっちゃ気になります」
身を乗り出してくる樹里が何だか暑苦しくて答える気にならない。
「劇場の誰かとまだ繋がってんすか?」
「馬鹿、違うって。高校の時の」
仕方なく答えると、「へえ」とまたしても意外そうな声が返ってきた。好奇心を隠そうともせず、その顔をすぐ近くまで寄せてくる。
「誰っすか?」
どうして女子というのは、甘い匂いがするのだろうか。
「ただの――」
友達だよ、と言いかけてやめた。いつかソリーに言われた台詞を思い出してしまったからだ。女の尻の穴でも思い浮かべておけ、というくだらない冗談のせいで、ほんの一瞬、樹里の尻の穴を想像してしまった。
「……む、昔のな」
それだけ言って目を逸らした。不思議そうに見てくる樹里の顔を直視するのは、どうも気まずかった。
「先輩の友達って誰がいるんすか? 超気になります。何か前に、中学の時の親友とは喧嘩別れしたって言ってませんでした?」
何でこの粗忽者は、わざわざ苦い思い出ばかりをほじくり返すのだ。
きっぱりと断ち切るように告げた。
「友達なんて、いないって」
「えー! じゃあ、うちらは友達じゃないんすか?」
「お前は後輩」
「えー、雑ーー」
がっくりと肩を落としたのも束の間、樹里は「まー、いっか」と言ってすぐに持ち直す。
「友達から恋人になるのは、ハードル高いっていいますしね!」
「ば……何言ってんだ」
不意を突かれ、思わず声がひっくり返ってしまう。
自分で言っておきながら、樹里の方が先に耐えられなくなったらしい。ぱっと柵を両手で握ると、明後日の方向へ顔を向けた。
「あ、そうだ先輩。お互いの名前、叫び合います? ここ、ロンバケの聖地っすよ」
そうだった。ここは、いつか画面越しに憧れを抱いたテレビドラマの、有名なロケ地だった。
「うちら世代のバイブルっすよ」
「恥ずいわ。そんなんやるか」
冷たく断ったというのに、樹里はなんの躊躇いもなく隅田川に向かって叫び出した。
「株田ーー! 馬鹿ヤローー!」
――なんでやねん。
もう訳がわからなかった。




