『京都タワーの窓にいたもの』
京都の空に、白くすっくと立つ京都タワー。
地元民にとってはどこか間の抜けた存在にも思えるが、観光客にとっては京都のランドマークのひとつである。
それは、とある冬の夕暮れのことだった。
修学旅行で京都を訪れていた関東の高校生グループ、男子五人組がタワーの展望室で賑やかにはしゃいでいた。
「おい、見ろよ! あの金色の屋根、金閣じゃね?」
「バカ、あれは東寺の五重塔だって。角度的にこっちから金閣は見えねーよ」
肩を寄せ合いながら、冗談混じりに街を見下ろしていた彼らの笑い声が、静かな展望室に小さく響いていた。
西の空には淡く朱が残り、街は夕暮れの薄明かりに包まれていた。
高い位置から見下ろす京都の街並みは、まるで精巧な箱庭のようだった。
そのとき、一人の少年――和也がふと、ガラスに映る自分たちの姿を見て、眉をひそめた。
「……なあ、俺らって、五人やんな?」
「は? そりゃそうだろ、何言ってんの?」
「いや……見てみ? ガラスに、六人映ってね?」
最初は誰もが冗談だと思った。
だが、他の誰かが小さく息を呑んだ。
「……うわ、ほんまや……」
五人の少年の影のすぐ背後、明らかに小さなシルエットがひとつ――女の子のような影が、じっと立っていた。
その姿は肩のあたりまでしかなく、髪が長く垂れているように見えた。
「ふ、ふざけんなよ……マジでやめろや……」
祐介が冗談めかして振り向いた。
その直後、彼の顔が見る見る青ざめ、声にならない悲鳴を漏らしながら尻もちをついた。
「……いた……今、いた……目の前に、女……」
他の四人が一斉に振り返るが、誰もいない。
ただ、祐介の肩口に、白く滲んだ掌の跡のようなものがくっきりと残っていた。
誰かが無言でその跡を指さし、静まり返る展望室にざわりと寒気が広がった。
「なあ……マジでヤバいって……帰ろ、な?」
誰からともなくそう言い出し、彼らは階下へとそそくさと戻った。
その夜。
宿に戻った祐介は突然高熱を出し、布団の中でうわ言のように繰り返した。
「……おとして……おとして……あそこから……おとして……」
彼の顔には、怯えと苦しみが混ざった異様な表情が張りついていたという。
翌朝、教師の判断で修学旅行は中断され、祐介と引率の教員は一足早く帰京した。
その出来事の後も、京都タワーの展望室では時折、「窓にひとり余分に映る」現象が目撃されているという。
その影は、肩にすがりつくように立っている。
まるで、誰かに頼るように。
まるで、そこから“落とされたい”とでも言いたげに。
京都タワーの展望室では、ガラスに映る人数を数えてはいけない。
数が合わなくても、問いただしてはいけない。
もし、振り返って“目が合って”しまったら――
その時点で、すでに“映されて”しまっているのだから。




