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古都怪異帖(千年の時を超えて語り継がれる、京都の怪異譚集)  作者: カトラス


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『鴨川の“等間隔”』

 春の終わり、桜がまだ少しだけ残る頃。

 私はひとりで、鴨川沿いのベンチに座っていた。


 昼下がりの陽気に誘われて、多くのカップルが川辺に並んでいる。

 京都ではよく知られた“鴨川等間隔カップル”という光景。

 まるで等間隔に並ぶように、恋人たちが座っている。

 

 ──その中に、私もいた。


 けれど、おかしい。


 私は、隣に誰もいない。

 それどころか、気づけば、周囲のカップルたちの“間”に、自分がぴったりと挟まれていた。

 それぞれのペアから、ちょうど同じ距離で。


 まるで、私は“埋める”ためにそこにいるようだった。


 視線を感じた。

 向こう岸。


 土手の上に、赤い傘をさした誰かが立っている。

 女のように見えたが、顔はわからない。

 ただ、こちらをじっと見つめている。


 その瞬間、隣にいたカップルが立ち上がった。

 そして、私の顔をまっすぐに見て言った。


 「代わってくれて、ありがとう」


 そのまま、ふたりは揃って土手を登り、赤い傘の女のもとへ。

 すると、まるで“誰もいなかった”ように、その場所が空白になる。


 私は混乱した。

 何が起きているのか分からなかった。


 他のカップルたちも、次々と私を見て頷き、黙って去っていく。

 そのたびに、赤い傘の女の下へ吸い寄せられていくように。


 気づけば、川辺に残っているのは、私ひとりだった。


 風が吹いた。

 赤い傘が、こちらへと向かって開いた。

 そこには、顔のない女がいた。

 いや、顔はあった。

 だが、どこかで見た顔──それは、


 私自身の顔だった。


 「……あなた、次の“間”よ」


 女がそう囁いた瞬間、私は足が動かなくなった。

 誰かに手を引かれる。


 気づけば、土手の向こう、ベンチの列に私は座っていた。


 “誰か”と等間隔に。


 すぐ隣では、観光客がスマホで写真を撮っている。

 楽しそうに笑いながら、


 「京都っぽーい! 等間隔カップルだ〜!」


 その声が遠く、どこか水中のように響いていた。


 私は、声を出そうとした。

 けれど、唇が動かない。


 ──動けなかった。


 私は今、“間”そのものになっていた。



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