後日談 6
「お待たせしました!」
それからしばらくして完成した料理をテーブルへ運ぶ。
ロザリーとルインには生クリームとフルーツをたっぷり乗せたプリン。
シメオン王子には厚めに作ったハンバーグを挟んだハンバーガーだ。念のためナイフとフォークも用意したけれど「使うのも使わないのも自由ですよ」と伝えておいた。食べやすいようにしてもらえたらいいなって。
「これがハンバーガー……!」
シメオン王子はハンバーガーを見て目をキラキラと輝かせていた。
その表情も、何となくロザリーに似ている気がする。
彼はナイフとフォークを見て少し考えた様子だったけれど、覚悟を決めた顔でハンバーガーを両手で持ち上げた。
「い、いただきます!」
シメオン王子は口を大きく開けてハンバーガーにかぶりついた。
「…………!」
次の瞬間、彼は目も大きく見開いた。
そのまま、もぐもぐと時間をかけて咀嚼し飲み込んだ彼は、
「美味しい……」
ほう、と息を吐いた。
口の端にはハンバーグのソースがついている。
ロザリーはスカートからハンカチを取り出して、シメオン王子の口をそっと拭った。
「レオの料理、美味しいでしょう」
「美味しい! ハンバーガーも初めて食べたけど、すっごく美味しいです! あのね、姉様! 中のハンバーグがね……あっ」
興奮した様子でロザリーに感想を伝えるシメオン王子。
途中で、僕とルインもいる事を思い出したようで、ボンッと音が聞こえるくらい一気に顔を赤くしていた。
ロザリーはシメオン王子の事を聞くと渋い顔もするけれど、こういう素直なところがかわいいんだろうな。シメオン王子を見つめる目が、お姉さんの優しいそれだ。
微笑ましく思いながら眺めていると、シメオン王子がちらっとこちらを見た。
「あの、レオナルド」
「はい。何でしょう、シメオン王子」
「ハンバーガー、とても美味しいです。ありがとうございます。それから、その……お父様が申し訳ありませんでした」
「いえ。僕にも悪い部分がありましたから。それにこう言っては何ですが……勇者じゃなくなって、今がとても楽しいんです」
話しながら僕は天井を見上げる。
「勇者じゃなくなって、最初は『星降り』と2人だけでした。だけどここにカフェを開いて、ロザリーが来てくれて、魔王や、魔族領の皆が来てくれて……自分の作った料理を美味しいって言ってもらえて。僕にはそれがとても幸せなんです。夢でもありましたからね」
「夢……」
「ええ。だからこうなって、夢が一つ叶いました。もちろん、過程は予想外でしたけどね」
片目を瞑り、お道化た調子で言ってみる。
するとシメオン王子はふふっと笑った。
「僕が勇者をクビになった事は、僕の自業自得です。ですからお気になさらないでください」
「……はい」
シメオン王子はこくりと頷いたのだった。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
さすがに時間が遅いからと、シメオン王子とルインはうちに泊まって行くことになった。
ロザリーの誕生日パーティーの事もあるし、ちょうど良いかなって。
ちなみにシメオン王子が見つかった事をディに伝えた時に「それなら城の部屋を貸してやってもいいぞ?」と言ってくれた。だけどシメオン王子は、まだちょっと魔族が怖い様子だったので、丁重にお断りさせていただいたのだ。
アストラル王国では、魔族領は敵だとずっと教えられていたからね。恐怖を感じる気持ちも分かる。
まぁ、怖い気持ちは、誕生日パーティーをしている間になくなったみたいだけど。
「へぇー! 小さいのに頑張ってんだなぁ。えらいぞ、坊主」
「わ、わ。頭ぐしゃぐしゃにしないでください」
「ははははは。でかくなれよー、坊主ー」
シメオン王子はそんな感じで、お酒が入っていつも以上に陽気になったディに絡まれていた。
魔王がそうだから、魔族領の皆もシメオン王子に興味深々に近付いて話しかけている。
シメオン王子は最初は緊張していた様子だったけれど、今はすっかりリラックスして笑っている。
「シメオン、楽しそうで良かった」
「そうだね。それを見ているロザリーも嬉しそうで何よりだよ」
「私、そんなに顔に出てる?」
「うん。すごく良い笑顔」
僕が肯定すると、ロザリーは少しだけ頬を赤くして「そっか」と言った。
「あのね、レオ。シメオンの事、気遣ってくれてありがとう」
「それは僕の方こそだよ。優しい子だね、あの子」
「うん。ちょっとうるさいけど、良い子」
「そっか。……ふふ」
「どうしたの?」
「ううん。シメオン王子がいると、いつもとちょっと違ったロザリーが見られて良いなって思って」
普段のロザリーはクールで優しい女の子だ。
だけどシメオン王子の前では、しっかり者のお姉さんという感じである。
そういうのが見られて楽しいなと僕は思った。
「…………」
するとロザリーは黙ってしまった。
失礼だったかなと少し焦って彼女の方を見れば、ロザリーの顔が先ほどよりも真っ赤になっている。
「あの、ロザリー?」
「……あのね、レオ。私とずっと一緒にいてくれたら、そういうのずっと見られる。ずっと見ていていい」
「え?」
僕は思わず目を見開く。
ロザリーはじっと僕を見つめている。
何だか心臓がドキドキしてきた。
「ロザリー、それって――」
そして、そう訊き返そうとした時、
「姉様! 姉様、見てください!」
「レオ、ロザリー、見ろ! ルインが変な魔法を使ってるぞ!」
シメオン王子とディに遮られてしまった。
とたんにロザリーは「むう」と口を尖らせた。
「シメオンとディの髪を丸刈りにする事が決定した」
「何で!?」
「何故ですか、姉様!?」
「何でも」
ロザリーはそう言うと、僕の方を見上げる。
「レオ、ご飯食べよ」
「そ、そうだね、ロザリー」
ひとまず頷いてみせるけれど、まだ心臓が鳴っている。
僕は深呼吸をして「ねぇ、ロザリー」と呼びかけた。
「どうしたの、レオ?」
「君がこのカフェに来てくれたから、僕と『星降り』はこうして、楽しく過ごしていられるんだ。ありがとう、ロザリー」
それから、と言いながら僕は、カウンターの向こうに隠しておいた誕生日ケーキを取りに行った。
苺や果物をたくさん使って作った、ロザリーのためのケーキだ。
「お誕生日おめでとう、ロザリー」
「……! ありがとう、レオ!」
するとロザリーは、花の咲いたようにふわりと笑ってくれたのだった。




