後日談 5
『おー、レオー、ロザリー、ルインおかえりー。シメオン王子見つかったかー?』
カフェへ戻って来ると『星降り』がすぐに声をかけてくれた。
いつも陽気で明るい彼の声に自然と笑顔になりながら「うん、見つかったよ」と答える。
するとシメオン王子が目を丸くしていた。
「建物が……しゃべってる……」
『そうだぞー、すごいだろー』
「えっ、あっ、はい……!」
シメオン王子はこくこくと頷いた。
その素直な反応に『星降り』は機嫌を良くしたらしく『ゆっくりしていけよー』と声をかけていた。
シメオン王子、ういうところは何となくロザリーに似ている気がする。
微笑ましく思いながらロザリーを見ると、
「シメオン。ちゃんとご挨拶しないとダメ」
と、お姉さんの顔で言っていた。
シメオン王子はハッとした顔になり『星降り』に向かって頭を下げる。
「初めまして、シメオンです。よろしくお願いします」
『『星降り』だぞー。よろしくなー、シメオン王子ー』
そんなやり取りをしながら僕たちはカフェの中へ入る。
シメオン王子達に席についてもらうと、僕はおしぼりや水、メニュー表を持って席へ戻る。
「どうぞ、この中からお好きなものを仰ってください。僕のおごりです」
「レオ、私もいい?」
「レオさん、私も!」
「うん。2人も好きなものを頼んでね」
「やったー!」
ロザリーとルインは笑顔になってハイタッチしていた。仲良しでいいね。
「私はパンケ……っじゃない。プリンにする」
「私もそうします!」
「2人とも、いつものパンケーキとかホットサンドじゃなくていいの?」
「うん。今日のディナーのために我慢」
「そうそう。今日はいっぱい食べる予定があるから」
2人は「ねー」と笑い合っていた。
確かにこの時間だと、しっかり食べたら夕食が入らないよね。
今日はロザリーの誕生日パーティーをするから、色々と料理を作る予定ではいるけれど、こうして楽しみにしてくれているとやる気が出るよ。
嬉しいなぁと思いながらシメオン王子の様子を見る。
彼はメニュー表を両手で持って、真剣な眼差しで見つめていた。
「…………」
「シメオン、何食べたい?」
「えっ、あっ、えっと……あの……」
ロザリーに声をかけられたシメオン王子は、少しだけ慌てた様子で顔を上げる。
それから僅かに視線を彷徨わせた後で、
「あの……この、ハンバーガー、というのが食べてみたい、です」
少しだけ恥ずかしそうに言った。
「シメオン、こういうの食べたことなかったね」
「は、はい……。話だけは聞いていて。だからいつか食べてみたいなって憧れがあったんです」
なるほど、そういう事か。
ロザリーがどんな料理も普通に食べているから、特に気にしていなかったけれど、確かに王族ともなると、ハンバーガーみたいに僕達庶民が楽しんでいる料理は食べる機会が少なそうだ。
似た料理が出たとしても、ナイフとフォークを使って食べるだろうし。
それもそれで美味しく食べられるけれど、こういう料理って意外と雰囲気も大事でさ。そこも併せて楽しむならば、そのままかぶりついてみたくなるよね。
「ではプリンが2つと、ハンバーガーが1つですね。承りました。少々お待ちくださいませ」
僕は胸に手を当てて頭を下げると、カウンターの向こうへ歩いて行く。
さて、それでは作って行こう。
まずはハンバーガーの方から始めよう。お腹を空かせているシメオン王子を、待たせたくないからね。
バンズの準備は出来ているから、ハンバーグを作り始める。
野菜を切り、牛肉を包丁でミンチにし――。
包丁の音をトントンと立てながら料理をしていると、シメオン王子の視線を感じた。
「……レオナルドは料理も出来るのですね」
「ええ。僕の両親が故郷で食堂をやっていましてね。時々手伝ったりしている内に、何となく作れるようになりました。冒険者をしていた時も、自炊が出来た方が色々と余裕が出来ましたし」
金銭的な部分もあるけれど、元々僕は料理が好きだし、何よりも旅の最中に温かくて美味しい食事がとれるのは精神的に良かったな。
もちろん『星降り』のおかげで、どこでも安心してゆっくり料理を作れたって理由もあるんだけどね。
「やっぱり、あなたは勇者です。だって何でも出来る。僕とは……大違いです」
「いえいえ、何でもは無理ですよ。他人の事に鈍感だったから、僕は勇者をクビになったんですから。何でも出来る勇者なら、そんな事にはなりませんよ」
「レオさん……」
ルインが目を伏せる。
あの時、僕に不満をぶつけたのはアルフィンやアレンシードで、ルインはずっと黙っていた。だから彼女が気に病む必要はない。
そう思ってフォローしようとすると、
「レオが勇者をクビになったから、私はレオの美味しい料理が毎日食べられて幸せ」
ロザリーがにこっと笑ってそう言った。
その笑顔がかわいくて、思わず見惚れそうになる。
そうしているとシメオン王子が少し驚いた顔になった。
「姉様が他人に笑いかけてる……」
「えっ、いつもは違うんですか?」
「うん。家族にもたまにしか見せてくれないから」
「へぇ~」
そうなんだと思って、もう一度ロザリーを見る。
すると彼女は何やら少し照れた様子だった。
「……シメオンは余計な事を言わない」
「ふふ、ごめんなさい、姉様」
「むう……」
ロザリーは口を尖らせる。
そんなところもかわいいと思うけれど、あまり言っても拗ねさせてしまうだろうから黙っておく。
ふふっ、と小さく笑いながら、僕はハンバーグの形を整えると、フライパンで焼き始めた。
フライパンの中からは、じゅうじゅうと良い音と、美味しそうな香りが漂ってくる。
するとロザリー達の方で、お腹の虫が3匹分鳴いていた。
「ごめん、もう少し待っててね」
僕がそう言うと、3人は「はーい」と元気に返事をしてくれたのだった。




