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追放勇者の『星降り』カフェ~元勇者は魔王城の周辺でカフェを開きます~  作者: 石動なつめ


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29/32

後日談 3


 その日の午後、カフェの営業をお休みにして、僕はロザリーとルインの3人でシメオン王子を探しに出かけた。

 ディも一緒に来たがっていたんだけど、魔王としての仕事があるからと残念そうに魔王城へ帰って行った。


「とりあえず、こっちでも探させてみるわ」


 帰り際にそう言ってくれたので、ルインがとても感謝していたっけ。

 こういうところがディの良いところだと僕は思う。

 アストラル王国で語られている『魔王』のイメージとは全然違うから。


 まぁ「魔王は姫君を攫うもの」なんて理由でロザリーを誘拐したのも事実だけど。

 本当にどうしてそんなにふわっとした流れで攫いに行ったんだろう。そこだけが未だに不思議だよ。


「シメオン王子~! シメオン王子、どこですか~!」


 そんなことを考えながらアストラル王国と魔族領の国境近くを歩いていると、ルインが大きな声でシメオン王子に呼びかけていた。


「はぁ……返事がない……この辺りにはいないのかな」

「シメオン王子、アストラル王国へ引き返したって事はない?」

「ないと思う。思い込んだら一直線だから。……ですよね、姫様」

「その通り。なかなか止まらない。(ボア)みたいに真っ直ぐに走って行く」

「ああー……」


 確かにボアはそんな感じで突進してくるよね。東の方の国では、ボアみたいに一直線に進む人を『猪突猛進』って言葉で表すらしい。

 そしてどうやらシメオン王子はそういう性格の方らしい。


 僕の元仲間達で言えば、アレンシードがそういうタイプの人間だ。

 アルフィンも近いものはあるけれど……ルインが彼らのフォローをしていると考えると、これは相当大変だと思う。


「パーティメンバーを増やしてほしい……出来れば年上で立場のある人……」


 はぁ、とルインがため息を吐く。

 それは良い考えかもしれない。

 アルフィンもアレンシードも、そういう人相手なら話を聞く耳を持つだろうし、シメオン王子の護衛としても安心だ。


「それなら騎士団を頼ると良い」


 するとロザリーがそんな提案をした。


「シメオンの暴走を知っている騎士も多い。だから事情を説明すれば良い人を派遣してくれると思う」

「姫様……」

「先に騎士団長に話を通しておくと上手くまとめてくれる。むしろそちらからじゃないと通らない」

「何か、内部も大変そうだね……」


 僕は勇者の仕事であちこちへ派遣され通しだったから、その辺りの事情は詳しくない。

 けれど、ちらっと聞いただけでも厄介そうなのは分かるから、関わっていなくて良かったかもしれない。

 根回しとか、あまり得意ではないからなぁ……。


「私も引退して、魔族領に引っ越そうかなぁ……」


 ルインがぽつんとそう呟いた。


「こっちの方が楽しそうだし、実際に楽しい。それにレオさんの料理も食べられるし」

「うん。楽しいよ。ルインも来るといい。レオの料理を毎日食べられる」

「無理をしてルインが倒れるのは見たくないから、大丈夫なら来てもいいんじゃないかな」

「姫様、レオさん、優しい……!」


 ルインは感極まった顔になった。

 目を潤ませ、ぐすっ、と鼻まですすっている。

 か、かわいそう……。でもこれ、僕が勇者をクビになったことが原因だよな……。

 今度ルインが好きなものをたくさんごちそうしよう。

 僕がそう心に決めていると、


「……あれ?」


 ロザリーが足を止めて首を傾げた。


「ロザリー、何か見つけた?」

「うん。今、シメオンの声が聞こえた気がする。……こっち」


 そう言ってロザリーは走り出す。

 僕とルインは顔を見合わせて、彼女の後を追った。

 その先にあるのは妖精花の森だ。フェアリーフラワーという、淡く光る夜だけに咲く花が群生している。

 少々迷いやすい事以外は危険性の低い場所で、魔族領の子供達もよく遊びに行っているらしい。お土産にフェアリーフラワーをもらった事がある。


 フェアリーフラワーの花弁は紅茶にすると、ほんのり甘さがあって美味しいんだよね。フェアリーフラワーの紅茶は、喉の痛みや風邪のひき始めに効果があって、魔族領でも昔から薬代わりに使われているらしい。


「シメオン、迷子になったのかな」

「そうかもしれないね。僕も冒険者を始めた頃は、森や洞窟で迷う事があったし」

「レオもそうなの?」

「うん、そうだよ。同じ景色が続くと、どこにいるか分からなくなるんだ。一度迷うと焦っちゃったりもするんだよなぁ。それで先輩の冒険者に助けてもらったんだよ」


 これは誰しも通る道だ。

 シメオン王子が妖精花の森で迷子になっていたなら、まだここで良かったと思う。

 魔族領にはこことは比べ物にならないくらい危険な場所があるから。

 僕はディやマリアンヌさんやお客さん達から、ここだけは絶対に近付いてはいけない危険な場所を教えてもらっているから良いけれど、アストラル王国出身のシメオン王子はそれを知らない。だからここにいるなら良かった。


「シメオン王子、どこですかー!」

「シメオン王子、返事をしてください!」

「シメオン、お返事して」


 僕達はシメオン王子の名前を呼びながら妖精花の森の中を進む。

 木々の葉が空を覆うくらい生い茂っているため、昼間なのにここは少々薄暗い。

 奥まで行くと、もしかしたら灯りが必要になるだろうかと考えていると、


「姉様……?」


 どこからか不安そうな声が聞こえた。


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