後日談 2
「たのもー」
「邪魔するぞー」
ルインにミルクティーとクッキーを出していると、ロザリーとディがやって来た。
2人はカフェが開店するとすぐに来てくれる事が多いから嬉しい。
「いらっしゃい、ロザリー、ディ」
「姫様、こんにちは。魔王さんもお邪魔しています」
「こんにちは、レオ。あ、ルインもいる」
「おう、よく来たなー。一番乗りじゃなかったから、ちょっと悔しいわ」
ロザリーとディはにこっと笑うと、ルインのテーブルへやって来て、スッと座ってしまった。
大丈夫かなと思ってルインを見ると、心なしか楽しそうに見える。
ロザリーとディは、ルインが滞在していた時に、色々と話をしていたので仲良くなったのかもしれない。
ちなみに話題の内容は、勇者をやっていた頃の僕の話が大半だった。そこは勘弁してほしい。
「2人も、今日はどうする?」
「いつものがいい」
「いつものだな!」
2人は元気にそう言った。
どこかで「常連さんはいつものって言うのが通だよ」と言われたそうで、最近はよく「いつもの」と注文してくれている。
ちなみに2人の「いつもの」は、ロザリーがアイスクリーム付きのパンケーキで、ディがレアチーズケーキだ。
僕の方もロザリーとディが来てくれるかなと思って、この2つは直ぐにお出し出来るように、ある程度の仕込みは済ませてある。
「承りました。少々お待ちくださいね」
僕はそう言うとカウンターの向こうへ行き、パンケーキとレアチーズケーキの準備を始める。
「ところでルインは何しに来たんだ? ただの観光ってわけじゃないんだろ?」
「分かる?」
「分かる分かる。だって顔が暗いじゃん」
「うん。前に会った時と違う。困った事でもあった?」
「実は……」
ロザリーとディに訊ねられ、ルインは少々言い辛そうな様子で、シメオン王子の事を話す。
するとだんだんとロザリーの表情が渋くなった。
「シメオン……髪の毛の恨み……」
そこ、まだ根に持っていたんだ……。
据わった目で呟くロザリーに、ルインは「え、えっと……」と少し慌てていた。
「はーん。なるほどなぁ。ロザリーが元凶じゃねぇか、何とかしろ」
「元凶はディ。そもそもディが私を攫ったのが悪い」
「お前、攫われて良かったって言ってたじゃねーか。レオにも会えたしとか……ふがっ」
ディが口を尖らせた時、ロザリーがバッと彼の口を手でふさいだ。
「ディの頭を丸刈りにする事が決定した」
「丸刈りかぁ……」
ルインがディの頭へ目を向け、少し目を細めていた。
もしかしたらその様子を想像しているのかもしれない。
「似合わなくはないと思うよ」
「ぶはっ! 嫌だよ! 誰が丸刈りにするかっ!」
ロザリーの手から逃れたディは、大きく息を吐いてそう怒る。
それからバッとこちらへ顔を向けて来た。
「レオだって丸刈りになったら困るよな!」
「うーん。確かに僕、丸刈りはあまり似合わないから困るかも。あと冬になると寒いかなぁ」
「ほらな! 俺だって寒いのは困る!」
ディは手を腰に当て顎を上げ、ロザリー達を上から見下ろすようにして言った。
すると今度はロザリーが口を尖らせる。
「ディと一緒にしないでほしい。レオは丸刈りでもかっこいい」
「ろ、ロザリー……」
不意打ちで褒められたものだから、照れくさくなってしまった。
頬も何だか熱い気がする。
「……ほほーう?」
「なるほど……?」
するとディとルインの目がきらりと光った。
先ほどまで怒っていたり暗い顔をしていた2人は、急にニヤニヤし始める。
「いやぁ、いいねぇ。若いって。おいロザリー、早く告っちまえよ」
「余計なお世話。デリカシーがないからディはモテない」
「馬鹿言うなよ。俺はこれでも結構モテるんだぞ」
「あはは……でもアルフィンさんから、あんなに分かりやすい好意を向けられていたのに気づいてないレオさんがこれだから、良いセン行くんじゃないかなぁ」
「あの、3人とも何の話をして……」
「レオは気にしなくていい。この2人の性格が悪いという話だから」
ロザリーは怒ったような表情で言った。
出会った頃は無表情な事が多かった彼女だけど、最近は感情表現がちょっとだけ豊かになった気がする。
何だか微笑ましくて「そっか」と笑って返すと、ロザリーの表情が少し柔らかくなった。
「まー、それはともかく。そのシメオンってのが、うちに来てるってのは本当か?」
「そうだと思う。姫様の誕生祝いをしたいようだったから。姫様の居場所は分かっているし、たぶんここへ来たと思うよ」
「迷惑」
「いや、そう言い切っちまうのはさすがにかわいそうだろ……っていうか誕生日? マジで? いつ? 今日?」
「うん」
「言えよ、そういう事は」
「自分から言うものじゃない。祝ってほしいって言っているようなもの」
半眼になって文句を言うディに、ロザリーはぷいっとそっぽを向いてしまった。
でも、これに関しては僕もディと同意見だなぁ。
「僕もロザリーの誕生日をお祝いしたいから、過ぎちゃう前に分かって良かったよ」
「レオがお祝いしてくれるの?」
ロザリーが目を丸くする。
僕は「もちろん!」と頷いた。それからディの方へ顔を向ける。
「だからディ。今日の夕食、ロザリーを招待したいんだけど、外出の許可をもらっていい?」
「おう、いーぞ。ってか、皆で祝いたいから、俺達も参加したい! マリアンヌもそうだと思うぞ」
「そこはロザリーが良いならね」
手を挙げるディにそう返すと、僕はロザリーの方へ顔を向ける。
彼女はぱちぱちと目を瞬いてから、ほんの少しだけ頬を赤らめて、こくんと頷いた。
「決まりだ。ルインはどうする?」
「あっ、私も参加したい! ……じゃなかった! シメオン王子を見つけたら!」
ルインも嬉しそうな様子で手を挙げて、少ししてハッとした顔になっていた。
それから彼女はクッキーを1枚摘まんで、
「シメオン王子、どこに行っちゃったんだろう……」
と呟いたのだった。




