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イブさんといっしょ! ~乙女ゲー編~  作者: 岡サレオ
最終章~『妹キャラ』吹雪編
23/26

伊吹吹雪

当初この話はプロローグにと書いたものですが、話の流れ上、ここで差し込む方が適当なので、ここに投下します。

次の話もすぐに投稿します。

『例のゲームは届いたか?』

「届いたよ、ジェイコブ」


 女の子の部屋というにはちょっと散らかった部屋で、伊吹吹雪はベッドの上に胡坐をかいて座っていた。

 友達とメールのやり取りをしていた彼女は、左手に持っていたゲームを眺めた。

 そのパッケージには『情熱のサンターナ』とタイトルが打たれていた。


 伊吹吹雪。17歳。

 花も恥じらう現役女子高生なのであるが、今は学校にいっていない。つまり、現役バリバリの不登校児である。

 すっかり周りからの目を気にしなくなったせいか、癖の多い野暮ったい髪と不健康そうな白い肌、まったく外で身体を動かさないせいでこうなった痩せぎすな身体は年相応の瑞々しさが全くなかった。しかし、見てくれが悪いというわけではなかった。何しろ、元々の造詣がいいことは超のつくくらい美少女でモテモテの姉が証明しているのだから。


 吹雪にはやたらと優秀すぎる伊吹イブという双子の姉がいる。

 彼女は特待生として奨学金を貰って、全寮制の東京のハイソでエレガントなお嬢様学校に行っている。

 一方で、自分は辺鄙な田舎の地元のなんの変哲もないイモ臭い高校に受かるのがやっとだった。

 そして、そこでも何となく面倒になって、だんだん学校に通わなくなっていた。

 同じ遺伝子を持っているとは思えない妹吹雪の味噌っかすぶりである。

 何が原因でここまで差がついてしまったのだろう。


「慢心、環境の違い……。ってなわけないか。双子なんだし」


 同じ環境で育ったし、どちらかというとあの優秀すぎる姉には苦手意識があって慢心を抱くどころではなかった。

 生まれてこの方、姉と比較されて育った彼女はすっかりやさぐれていた。むしろ、卑屈になっていた。

 ついでにやたらと怖かった姉が実家を出て、気が抜けたのかだらだらと怠けて過ごすようになってしまっていた。


 そんな彼女は自分よりもダメな人間と接することでなんとか心の均衡を保っていた。


 その一人が今、電話でやりとりしているハンドルネーム『ジェイコブ』君だ。

 SNSで知り合って意気投合した彼は引きこもりのニートだ。今は不登校だが一応現役女子高生である吹雪よりもダメさ加減ではさらに一歩先を行っている。しかし、朱に交われば赤くなるといって、自分よりダメな人間と付き合えば余計にダメになっていくものだ。「あ、こんなにダメでもいいんだ」的な安心感は吹雪の自堕落生活をさらに加速化させていたのだった。

 ちなみにジェイコブ君は日本人だ。本名は吹雪も知らない。吹雪も自分の名前から『ブリザード』と名乗っている。何も考えずにつけたニックネームだが、「中二っぽくて恥ずい……」と後から恥ずかしくなったのは彼女のわずかに残る乙女心か。


 そんなジェイコブであるが、とあるゲームのモデルとして出演することになったというのだ。

 それが今吹雪が持っている乙女ゲーム『情熱のサンターナ』だ。


 この内容を一言でいうとサンタナ市に転入してきた主人公が街のイケメンたちを攻略する乙女ゲームである。

 何故、このゲームに引きこもりのジェイコブがモデルになっているのか。

 それは『情熱のサンターナ』のメインコンセプトは『町おこし乙女ゲーム』だからだ。


 吹雪たちの生まれ育った地方都市、三棚さんたな市。この現実にある三棚市をモデルに現実の住民たちをモデルにしたゲームだからだ。

 何故そのようなゲームがあるのかというと、海と山に囲まれた閑散とした田舎町である三棚市が何か町おこしの策はないかと頭を捻り、捻り過ぎて脳みその方向性が明後日に進んでいるときにたまたま『アニメの舞台になった街で聖地巡礼するアニメファンをターゲットにした町おこし』のニュースを見て、思いついたのは街をそのままゲームにするという企画だ。

 つまり、このゲームに登場する人物は実際にこの三棚市に住んでいる住民なのだ。

 ほとんどの登場人物、攻略すべきイケメンキャラからそこらへんの脇役、つまりモブにさえ実際の街の人物がモデルになっている。呆れるばかりのこだわりっぷりであった。


 そして、引きこもりの癖に無駄にイケメンだったジェイコブはこの攻略キャラのモデルに頼まれたというのだ。ヒキニートのジェイコブが何かすると聞いて、これはけしからんなと思った吹雪だったが、話を聞くとどんなゲームなのか興味が湧いてきた。

 今、吹雪が持っているのはその完成品である。彼女は改めでパッケージを見る。

 裏には様々なタイプのイケメンたちがいた。


「あ、なんだかこの人、見覚えがあるよ。この人も……。みんなこの三棚市の住民なんだ……」


 すでにネット界ではネタ的に話題騒然となっていることを吹雪は知っている。

 なんというかどこを間違えたのか圧倒的情熱でこのゲームは作りこまれており、何故か男の方に受けているらしい。乙女ゲームなのに変な話だ。

 吹雪は首を傾げながら、『情熱のサンターナ』をゲーム機に入れ、電源を起動する。


「今から、プレイするからまた後でね」

『ああ、わかった。感想を聞かせてくれ。俺のイケメンっぷりにな』

「はいはい、わかった、わかった」


 呆れながら吹雪はそういうと、電話を切って、ゲームに集中する。

 立ち上げが完了し、ファンファーレと共にオープニングが始まる。


「よし、なんだかやる気でてきたぞ!」


 そして、まずはジェイコブがモデルになっているという『金梨竜司』の攻略シナリオに向かう。



********


「ちょwww コイツこんなにイケメンだったのかwww」


 出てきた『金梨竜司』を見て、吹雪はひっくり返った。

 何しろ、吹雪は声でしかジェイコブを知らない。

 引きこもりのニートというからてっきり根暗なデブだとばかり思っていたが、画面に映っていたのはすらっとした体型の好青年だった。

 かなりメインどころのキャラに起用されたというからおかしいなととも感じていたが、これだけのルックスならこの采配も納得である。

 しかし、竜司の設定でさらに吹雪は飲んでいた牛乳を吹き出すこととなる。


「貧乏な家をバイト掛け持ちして家計を助ける苦学生とか、現実のヒッキーニートジェイコブと違いすぎでしょ……」 



 あくまでも、登場人物は三棚市の人物をモデルにしているだけだからその設定まで一緒にしなくてもいいらしい。

 さらに現れたライバルキャラに「金髪巻き髪www どこから見ても悪役お嬢様www 名前も姫条院麗奈とかそのまま過ぎwww」とさらに吹雪は悶絶することになる。



 吹雪は一通りゲームをプレイしてみた。確かに既存の乙女ゲームよりもずっと面白い。思ったよりもずっと熱中していた。そして、改めて思ったことが一つだけある。


「主人公、ビッチ過ぎだろ」


 乙女ゲーだから仕方ないかもしれないが、主人公『初雪楓恋はつゆきかれん』はとにかく出てくるキャラに全部コナをかけるからそういう印象がついてしまう。

 しかも攻略キャライケメンに対して一人一人ライバルキャラがいて、主人公が攻略キャラを攻略しなければそのままライバルキャラと恋愛が始まり、その恋愛模様を楽しめる設定でもあった。

 金梨竜司と姫条院麗奈の恋愛は捻くれた吹雪から見ても素直に泣けるものであり、それを見た後だと竜司を攻略するのは「寝取ろうとしているみたい……」と気が引けるものがある。そう思うのは吹雪だけではない様で、ネットで感想サイトを巡回するにつけ、主人公のことを『クソビッチ』呼ばわりする書きこみの多いこと。


 しかし、クソビッチという言葉に吹雪には想起させる存在がいた。


「クソビッチといえば姉さんこそはまさにクソビッチね」


 吹雪の姉である伊吹イブはとにかくモテた。

 勉強も運動もピカイチで何をやらせてもトップ以外は獲ったことがなく、その上容姿端麗ときているのだからそれも当然と言えば当然だが、それにしてもよってくる男を軒並み魅了して手玉に取っていた印象がある。それも吹雪が姉を苦手に思う理由の一つだ。

 まさに、このゲームの主人公と同じだろう。

 しかし、悪感情とは憧れの裏返しでもあった。なりたいけど決してなれない存在というのは得てしてそういうものとなってしまうのだ。

 吹雪は改めてゲーム画面を見て、そっと呟いた。


「でも、あたしもこのゲームの中なら思うが儘にやりたい放題できる……。私も姉さんみたいな超モテモテの愛され系クソビッチになれる。ああ、どうせならこのゲームの世界に生まれ変わりたいな」


 その言葉はこの部屋に誰もいないから、そっと呟いた言葉。

 しかし、その言葉を、願いを聞き届けた者がいた。


 吹雪の部屋は瞬く間に濃い紫色の霧に包まれ、身を震わせるような恐ろしい声が聞こえてきた。

 それはまさしく地の底から響き渡るような邪悪さを持った声音だった。


『いいだろう。その願い、叶えてやろう』

「え?」

『この悪魔の王ルシファー様がな!』


 紫色の濃霧は瞬時にして伊吹を取り囲む。さらには窓の外から見える光景もだ。そのまとわりつく様な霧は彼女の家だけでなく、その周囲全てを。やがては三棚市全体を飲み込んだ。その中で何故か自分の周囲と、もう五か所に特に濃い霧が集まっているように感じた。


「一体……何が……起こっているの」


 身体が痺れるように動かない。吹雪は何か分からないが、自分がとんでもないことを仕出かしたような、そんな不安で心が押しつぶされるような気持ちだった。そして、そんな中で思ったのは何故か、今ここにはいない姉のことだった。いつも何かやらかした時は決まって両親よりも先に姉に叱られていた彼女は何よりも姉に怯えていた。だから、吹雪はまず姉に懺悔したのだ。


「……姉さん、ごめんね。私こんなだけど、そんなに、怒らないでね」


 そして、彼女は意識を失った。

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