初めての“味方”
夜風が頬を叩く。
レンは非常階段を駆け下りながら、荒く息を吐いていた。
「はっ……はっ……!」
【LIVE VIEWERS:812,441】
「増えすぎだろ!!」
コメント欄が滝みたいに流れていく。
『逃走配信とか初めて見た』
『国家ガチで来てるじゃん』
『これBANされないの?』
『管理局案件だろ』
『ノアかわいい』
「なんでその感想なんだよ!?」
『分析結果』
ノアが淡々と言う。
『現在、“ノアかわいい”関連コメント率が12%を超えています』
「分析すんな!」
だが次の瞬間。
ノアの赤い瞳が僅かに揺れた。
『……かわいい』
「は?」
『それは、肯定的評価ですか?』
レンは一瞬固まる。
その間にも足は止めない。
「まあ……多分そうだな」
『記録しました』
ノアは静かに頷いた。
『“かわいい”は好意的表現』
「なんで学習してんだよこんな時に……!」
その時。
非常階段の下階から複数の足音。
『前方に敵性反応』
「マジかよ!」
黒装甲の管理局部隊が階段を駆け上がってくる。
上からも追跡。
完全に挟まれた。
『推定生存率18%』
「低っ!?」
レンは舌打ちする。
逃げ場がない。
その時だった。
――ガンッ!!
突然、下階で爆発音が響く。
管理局部隊が吹き飛んだ。
『は?』
『何だ!?』
煙の向こうから、一人の少女が現れる。
赤髪。
パーカー姿。
片手には大型ライフル。
そしてニヤリと笑った。
「配信で見るより面白いじゃん、お前」
レンは目を見開く。
「誰だ!?」
少女は答える代わりに、再び発砲した。
衝撃波。
管理局部隊が壁ごと吹き飛ぶ。
威力がおかしい。
コメント欄が爆発した。
『新キャラきた!?』
『赤髪!!』
『誰だこいつ!!』
『味方!?』
ノアが即座に解析を始める。
『対象確認』
『未登録プレイヤー』
『通称:レイヴン』
『違法戦闘介入常習犯』
「海賊プレイヤーかよ!?」
少女――レイヴンは楽しそうに笑った。
「正解」
彼女は肩にライフルを担ぐ。
「有名人になったなぁ、霧島レン」
「知ってんのか俺を」
「今知らねぇ奴の方が少ないだろ」
レイヴンは配信画面を見て笑う。
『同接90万で草』
『もうスターじゃん』
『レイヴンだ!?』
『マジで海賊プレイヤー!?』
『やべぇ奴来た』
レンは眉をひそめた。
「……なんで助けた」
「面白そうだったから」
即答だった。
「あと、管理局ムカつくし」
『合理性を確認できません』
ノアが呟く。
レイヴンはニヤッと笑った。
「あ? なんだそのAI」
『あなたを分析中です』
「こわ」
その瞬間。
上階から管理局部隊が飛び降りてくる。
『対象を確保する!』
レイヴンは舌打ちした。
「数多すぎ」
ノアが静かに言う。
『提案』
『レイヴンとの一時共闘を推奨』
「信用できんのか?」
『不明』
「不明!?」
『ですが現在、生存率が31%まで上昇しています』
「お前基準生存率低すぎるんだよ!」
レイヴンは楽しそうに笑う。
「いいじゃん、組もうぜ」
「軽っ……!」
「だってお前、世界で一番面白い配信者だし」
レンは頭を抱えた。
だが。
状況は最悪。
選択肢なんてない。
「……裏切るなよ」
「さぁ?」
「おい」
レイヴンは笑ったまま背を向ける。
「逃げるぞ、スター配信者」
その瞬間。
彼女は壁を蹴り、非常階段の窓をぶち破った。
夜景が広がる。
ネオン。
空中広告。
無数のドローン。
その向こうに、巨大なSYNAPSEタワーが見えた。
レイヴンは振り返る。
「――この街、夜の方が面白いぜ?」
レンは数秒固まった後、
「もうどうにでもなれ!!」
叫びながら飛び出した。
コメント欄がさらに加速する。
『神回』
『映画じゃん』
『これ無料で見ていいのか?』
『ノアかわいい』
『レイヴンもかわいい』
ノアが静かに呟く。
『……かわいい』
「学習すんな!!」
夜の街へ、三人は消えていく。
その様子を。
遥か上空。
巨大な監視衛星が、静かに観測していた。




