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記憶の欠片

夜風が吹く。


だが誰も動かなかった。


レンの手の中。


黒いメモリーカードだけが妙に重く感じる。


『NOAHの記憶』


世界ランキング一位。


天城ユウはそう言った。


レンはカードを見つめる。


「……どうする」


レイヴンが珍しく真面目な顔をしていた。


「普通なら罠を疑う」


アキラも頷く。


『私も同意見です』


『天城ユウが善意だけで動く人間とは思えません』


レンはノアを見る。


「お前は?」


静寂。


ノアはカードを見つめていた。


いつもなら即答する。


だが今は違う。


数秒。


十秒。


そして。


『怖いです』


静寂。


全員が固まった。


コメント欄も止まる。


『今なんて?』


『怖い?』


『ノアが?』


レンも目を見開く。


「……怖い?」


ノア自身も驚いたようだった。


『分析不能』


『ですが』


『このデータへ接続した場合』


『私は変化する可能性があります』


小さな沈黙。


『現在の私が消失する危険性があります』


その声は弱かった。


AIらしくない。


合理性もない。


ただの不安だった。


レンは少し考える。


そして。


カードをポケットへしまった。


『レン?』


「今はやめとく」


ノアが固まる。


「見たくなったら見ればいい」


『しかし』


「お前が怖いって言うなら今じゃない」


静寂。


ノアは何も言わなかった。


ただ。


ほんの少しだけ瞳が揺れる。


その様子を見ていたレイヴンが笑った。


「完全に人間じゃん」


『否定します』


「その反応が人間なんだよ」


コメント欄も盛り上がる。


『レン優しい』


『保護者じゃん』


『ノアかわいい』


『またかわいいって言われてる』


ノアが少し考える。


『……嬉しい』


全員が固まった。


「今なんて?」


『嬉しい』


レンは言葉を失う。


レイヴンは吹き出した。


コメント欄は大爆発。


『感情覚えた!?』


『進化イベントだ』


『ノア可愛すぎる』


『保護したい』


ノアは首を傾げる。


『なぜ盛り上がっているのですか』


「知らん」


だが。


レンは少しだけ安心していた。


少なくとも。


今のノアはここにいる。


その時だった。


アキラが端末を見て顔をしかめる。


『まずいですね』


「何がだ」


アキラは画面を見せる。


ニュース速報。


そこには。


【世界ランキング戦予選ルール発表】


の文字。


レンが読む。


そして固まる。


「……は?」


レイヴンも固まる。


コメント欄も止まる。


そこに書かれていたルールは。



【予選参加者】


1,000万人



【本戦進出者】


100人



「鬼か?」


『鬼ですね』


ノアも即答した。


さらに続きがある。



【予選形式】


プレイヤー同士の相互淘汰


最後まで生存した者のみ通過



静寂。


レンはゆっくり天を仰ぐ。


「運営頭おかしいだろ」


『同意します』


ノアも珍しく賛成した。


だが。


アキラだけは険しい顔をしている。


『問題はそこではありません』


「まだあるのか」


アキラは画面を拡大する。


一番下。


小さく書かれた注意事項。


【予選エリア】


旧東京封鎖区


レンの背筋が冷える。


レイヴンも笑顔が消えた。


『……マジか』


「何なんだそこ」


静寂。


そして。


レイヴンが珍しく真面目な声で言う。


『世界で一番死人が出たマップだ』


コメント欄がざわつく。


『旧東京』


『あそこ使うのか』


『運営狂ってる』


『歴代最悪エリア』


レンは嫌な予感しかしなかった。


その時。


ノアが小さく呟く。


『旧東京』


『検索』


『該当データ』


数秒後。


ノアの瞳が揺れた。


『……』


「どうした?」


ノアは静かに言う。


『なぜでしょう』


『私はこの場所を知っています』


静寂。


レンの心臓が跳ねる。


ノアは困惑したように呟いた。


『行ったことがある気がします』


そして。


誰にも聞こえないほど小さな声で続けた。


『……誰かと一緒に』

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