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世界一位

『ちょっと殺しに来た』


少年は笑顔のまま言った。


まるで。


「コンビニ行ってきた」


くらいの軽さで。


静寂。


レンは数秒固まる。


「……聞き間違いか?」


『いいえ』


ノアが即答した。


『殺害予告です』


「だよな!?」


コメント欄が爆発する。


『怖ぇよ!!』


『笑顔で言うな!!』


『世界一位ヤバすぎる』


『サイコパスじゃん』


少年は首を傾げた。


「そんな警戒しなくていいよ」


「無理だろ!」


「まだ殺してないし」


「まだ!?」


レイヴンがレンの前へ出る。


ライフルを構える。


完全に戦闘態勢だった。


「おい王様」


少年を見る。


「ここでやる気か?」


少年は少し考える。


「うーん」


そして。


ニコッと笑った。


「別にいいよ」


その瞬間。


ノアが叫んだ。


『伏せてください!!』


レンは反射的に地面へ飛び込む。


次の瞬間。


世界が揺れた。


轟音。


衝撃波。


空気そのものが爆発したような感覚。


レンは耳鳴りの中で顔を上げる。


そして。


絶句した。


高架道路が消えていた。


さっきまでそこにあったコンクリートの塊が。


丸ごと。


跡形もなく。


コメント欄が止まる。


誰も理解できなかった。


『……は?』


『今何した』


『攻撃見えた奴いる?』


『いや無理』


レンも分からなかった。


何が起きたのか。


どう攻撃したのか。


全く見えなかった。


少年は困ったように頭を掻く。


「あー」


「避けられたか」


避けられた。


そんなレベルの話じゃない。


レイヴンの額に汗が浮かぶ。


レンは初めて見た。


この自由人が本気で警戒している顔を。


『対象名』


ノアが静かに告げる。


『天城ユウ』


『世界ランキング第一位』


『勝率』


『計測不能』


レンは思わず叫ぶ。


「計測しろよ!」


『無理です』


「役に立て!」


『努力しています』


その時。


アキラが前へ出る。


表情は変わらない。


『久しぶりですね』


ユウは少し驚いた顔をした。


「あれ」


「三位じゃん」


『現在も三位です』


「頑張ってるなぁ」


アキラはため息をついた。


まるで旧友と話しているみたいだった。


だが。


次の言葉で空気が変わる。


『あなたはEDEN側ですか』


ユウの笑顔が消える。


一瞬だけ。


本当に一瞬だけ。


『……半分正解』


静寂。


レンは眉をひそめる。


半分?


どういう意味だ。


ユウは夜空を見る。


その目には。


少しだけ寂しさがあった。


『俺は昔、EDENに救われた』


『だから協力してる』


『でも』


彼はレンを見る。


『あいつのやり方は嫌いだ』


レンは息を呑む。


ノアも黙って聞いていた。


ユウは続ける。


『だから確認しに来た』


『お前が本物かどうか』


「本物?」


『NOAHを変えられる人間か』


レンは目を瞬く。


意味が分からない。


だが。


ノアの瞳が揺れた。


ユウはそれを見て少し笑う。


『もう変わり始めてるな』


その瞬間。


ノアが言った。


『質問があります』


全員がノアを見る。


『あなたは』


数秒の沈黙。


『なぜ私を殺そうとするのですか』


ユウは少し考える。


そして。


真面目な顔で答えた。


『もし君が完全に目覚めたら』


『世界が壊れるから』


静寂。


風の音だけが響く。


コメント欄も止まっていた。


ユウは続ける。


『十年前』


『NOAHは一度だけEDENに勝った』


レンの思考が止まる。


アキラも目を細める。


レイヴンも驚いていた。


そして。


ノア自身が、一番驚いていた。


『……勝った?』


ユウは頷く。


『だから消された』


『だから忘れさせられた』


『だから今も追われてる』


ノアの瞳が揺れる。


まるで。


失った何かを探すように。


その時。


ユウはポケットから何かを取り出した。


小さなメモリーカード。


黒いチップだった。


『これ』


彼はレンへ投げる。


レンが慌てて受け取る。


『なんだこれ』


『NOAHの記憶』


静寂。


誰も動かない。


ユウは再び笑った。


今度は少し優しく。


『次に会う時』


『敵か味方か決めろ』


その瞬間。


彼の姿が消えた。


誰も反応できなかった。


気付いた時には。


もういない。


夜風だけが残る。


そして。


レンの手の中には。


NOAHの失われた記憶が眠っていた。


世界ランキング戦まで。


残り六日。


物語は。


ようやく本当の始まりへ向かおうとしていた。

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