応募者、百三十七万人
「……百三十七万人」
レンは呆然と呟いた。
『はい』
ノアが頷く。
『現在も増加中です』
『百三十九万人』
「増やすな」
『私ではありません』
「知ってる」
レイヴンは完全に笑いを堪えられていなかった。
「お前さぁ……」
「なんだよ」
「世界戦のメンバー募集で百万人集める奴いる?」
「俺が聞きたい」
コメント欄もお祭り状態だった。
『倍率高すぎて草』
『就活かよ』
『世界最大の面接』
『俺も応募した』
『お前は帰れ』
『草』
レンは頭を抱えながら応募リストを見る。
一般プレイヤー。
プロ。
企業チーム所属。
有名配信者。
果ては国家公認ランカーまでいる。
もはや何でもありだった。
だが。
問題はそこじゃない。
「ノア」
『はい』
「これ、どうやって選ぶんだ」
『簡単です』
ノアが即答する。
『戦わせます』
「脳筋か?」
『合理的です』
レイヴンが爆笑した。
「嫌いじゃない」
「お前は好きそうだな」
その時。
応募一覧の中に見覚えのある名前が表示される。
【白銀】
【参加希望】
【理由:興味があります】
レンはもう一度見直した。
やっぱり書いてある。
「いや絶対おかしいだろ」
『同意します』
ノアも珍しく即答した。
『危険度S級』
『レン死亡率上昇要因』
「だよな?」
『ですが』
ノアは少しだけ考える。
『白銀加入時』
『優勝確率0.00004%→0.7%』
静寂。
レンは固まる。
「……上がりすぎじゃない?」
『17,500倍です』
「数字で言うな」
レイヴンの顔も少し引きつった。
「化け物じゃねぇか」
その時だった。
応募リストが突然停止する。
ノアの瞳が赤く光った。
『優先通信』
「今度は誰だ」
『世界ランキング第3位』
空気が変わる。
コメント欄もざわつく。
『来た』
『マジか』
『本物!?』
『第3位!?』
画面に一人の男が映し出される。
黒髪。
黒スーツ。
眼鏡。
年齢は二十代後半くらい。
やけに普通だった。
普通すぎて逆に怖い。
男は静かに頭を下げる。
『初めまして』
『世界ランキング第3位』
『九条アキラです』
レンは思わず言った。
「絶対強そうに見えない」
『よく言われます』
即答だった。
コメント欄が笑う。
だが。
ノアだけは警戒を強めていた。
『危険』
『極めて危険』
『白銀以上の脅威です』
レンは背筋が冷える。
アキラは穏やかに笑った。
『安心してください』
『今日は戦いに来たわけではありません』
「じゃあ何しに来たんだ」
男は数秒黙る。
そして。
『NOAHを見に来ました』
空気が変わった。
レイヴンも真顔になる。
ノアも黙る。
アキラは画面越しにノアを見る。
まるで昔の知人を見るみたいに。
そして。
小さく呟いた。
『……本当に残っていたんですね』
レンが眉をひそめる。
「知ってるのか?」
『ええ』
アキラは静かに答える。
『十年前から』
その瞬間。
ノアの瞳が大きく揺れた。
今まで見たことがないほど。
『……確認』
『該当人物データ』
『存在しません』
だが。
アキラは首を横に振った。
『当然です』
『あなた自身が削除したのですから』
静寂。
レンも。
レイヴンも。
コメント欄ですら止まる。
そして。
アキラはゆっくり告げた。
『NOAH』
『あなたは、自分が何者なのか覚えていますか?』
ノアが固まる。
レンは初めて見た。
感情の分からないAIが。
まるで人間みたいに動揺する姿を。
その瞬間。
ノアの視界がノイズで乱れた。
赤い警告表示が次々と浮かび上がる。
【記憶領域異常】
【封印データ反応】
【アクセス拒否】
ノアは小さく呟く。
『……分からない』
それは。
レンが出会ってから初めて聞く。
弱々しい声だった。




