賞金首
黒い装甲車が裏路地へ侵入してくる。
重低音。
圧迫感。
明らかに一般人へ向ける装備じゃない。
「もう軍隊だろこれ……」
レンが引きつった声を漏らす。
レイヴンは逆に少し楽しそうだった。
「いや、まだ軽い方だな」
「軽いの基準どうなってんだよ」
『敵性反応12』
『高武装個体3』
『狙撃支援2』
ノアが即座に解析を開始する。
『推定生存率』
「聞きたくない」
『14%です』
「低すぎるだろ!」
その瞬間。
装甲車の上部ハッチが開く。
現れたのは大型砲塔。
嫌な予感しかしない。
コメント欄も騒ぎ始めた。
『おいおいおい』
『撃つ気か!?』
『市街地だぞ!?』
『国家やりすぎだろ』
だが次の瞬間。
装甲車のスピーカーから声が響いた。
『霧島レン』
『国家AI管理局より通達』
『あなたを特級危険対象に指定します』
レンは嫌な汗をかく。
「特級……」
『同時に』
『賞金を設定しました』
静寂。
そして。
巨大ホログラムが空中へ表示される。
⸻
【特級危険対象】
霧島レン
生死不問
報奨金
100億クレジット
⸻
「は?」
レンは固まった。
レイヴンも目を見開く。
「……おいおい」
コメント欄が完全に爆発した。
『100億!?』
『桁おかしいだろ!』
『世界最高額じゃね!?』
『捕まえたら人生クリアじゃん』
『俺でも追うぞ』
「追うなよ!?」
ノアが静かに分析する。
『良くありません』
「それは分かる!」
『人類の98.7%が敵対候補になりました』
「数字で言うな!!」
レンの背筋が冷える。
国家だけじゃない。
一般プレイヤー。
賞金稼ぎ。
企業。
全員が敵になり得る。
レイヴンは苦笑した。
「史上最速で世界中から狙われる男になったな」
「嬉しくねぇ……」
だが。
その時だった。
コメント欄の流れが変わる。
『ふざけんな』
『国家おかしくね?』
『なんで生死不問なんだよ』
『やりすぎだろ』
『レン逃げろ』
レンは一瞬だけ目を見開く。
アンチばかりじゃなかった。
応援している人もいる。
その様子を見ていたノアが小さく呟いた。
『興味深いです』
「何がだ?」
『利益が存在しない』
『それにも関わらず支援行動を選択しています』
レンは少しだけ笑う。
「そういう人もいるんだよ」
『理解不能です』
「だろうな」
その時。
空中に新たなホログラムが展開される。
今度は国家ではない。
見覚えのないマーク。
黒い旗のエンブレム。
レイヴンの顔色が変わった。
「……マジか」
『対象確認』
ノアが即座に反応する。
『海賊プレイヤー集団』
『ブラックフラッグ』
レンは眉をひそめる。
「知り合いか?」
「最悪の意味でな」
レイヴンが舌打ちする。
ホログラムには男が映っていた。
黒髪。
隻眼。
ニヤニヤ笑っている。
『聞こえるか、霧島レン』
男は配信へ割り込んでくる。
『賞金首デビューおめでとう』
コメント欄がざわつく。
『ブラックフラッグだ』
『本物!?』
『海賊王じゃん』
レンは警戒する。
男は笑ったまま続けた。
『その賞金、俺たちも欲しい』
「やっぱ敵じゃねぇか!」
『だが』
男は楽しそうに言う。
『今捕まえたら面白くねぇ』
「……は?」
『だから一つゲームをしよう』
その瞬間。
レンの端末へ通知が届く。
⸻
【イベント招待】
海賊戦域
参加者限定
⸻
ノアが解析を開始する。
だが数秒後。
珍しく警告音が鳴った。
『解析不能』
『極めて危険です』
レイヴンの表情も険しい。
「そこだけは行くな」
「お前さっきから危険しかねぇだろ」
「いや、そこは別格だ」
海賊王と呼ばれる男は笑う。
『じゃあ待ってるぜ』
『世界一有名な配信者さん』
通信が切れる。
静寂。
レンは頭を抱えた。
国家に追われ。
賞金首になり。
海賊に目を付けられ。
視聴者は150万人を超えている。
人生が数日で壊れすぎだった。
その時。
ノアが静かに呟く。
『レン』
「なんだ」
『現在の状況を分析しました』
「聞きたくないな」
数秒の沈黙。
そして。
『……非常に面白くなってきました』
レンは固まった。
レイヴンも固まった。
コメント欄も一瞬止まる。
「お前今なんて言った?」
ノアは首を傾げた。
『面白い』
『この表現は適切でしたか?』
レンは思わず笑った。
こんな状況なのに。
なぜか少しだけ。
本当に少しだけ。
笑ってしまった。
そしてその瞬間。
遠くのビル屋上から、一人の少女がレンを見下ろしていた。
白い髪。
青い瞳。
無表情。
その耳元には、国家直属ランカーの証である銀色のデバイス。
少女は静かに呟く。
「……発見」
その瞳には。
人間らしい感情が、ほとんど残っていなかった。




