ミロクリスとメルクリス
日が差し込む礼拝堂は、どこか神聖な雰囲気を漂わせている。ステンドグラスが、ベンチに座るたくさんの信者たちを見下ろしている。講壇に立つ法衣を身にまとう男は、一冊の本を読み解きながら信者たちに語り掛けていた。
「主神ミロクリスは、多大なる愛と慈悲を持って人々を導き————」
身振り手振りを使い、信者たちを話しに引き込んでいく男は、陽だまりのような微笑みで締めくくる。
「人の幸福のため、信じることこそが救いとなるのです」
説教が終わり、退席していく人は皆、男の元へ声をかけに行く。
「今日も素晴らしい説教でした。ありがとうございます。ラウロ司祭様」
「いえいえ、今日も良き一日になるよう、お祈りしておりますよ」
信者一人一人の声掛けにしっかりと応対する姿に、人望の厚さがうかがえる。
「ラウロ様!」
一人の修道女が、ラウロの元へかけてくる。
「シスターレウ、いけませんよ。教会内を走って、そう声を荒げては」
優しく諭すように、修道女に注意する。
「すみません!」
レウは勢いよく頭を下げる。
「分かれば良いのです。それで、どうしました?」
「あ、お客様です!第二王子殿下」
「オルデイン殿下がですか?また突然な……」
わずかに顔を顰める。すぐに表情を戻し、聖書を脇に抱えた。
「分かりましたすぐに向かいましょう」
信者たちに、一礼しそのまま足早に教会の奥へと向かった。
徹と誠は、異世界の町並みを眺めつつ街道を歩いて行く。教会へと続く道は整備された大通りになっており、左右にはたくさんの店が建ち並ぶ。呼び込みの声や子供たちのはしゃぐ声が、聞こえてきて活気がある。
「う~ん」
「ほうした?」
考え込む徹に、誠が手に持っていたバーガーのようなものにかぶりつきながら訊く。
「お前いつの間に……まぁいいや。これから行く教会なんだがよ」
「おう」
「メルクリス様が、主神ではないんだろ?」
「そうだったな確かミロクリス教だったよな」
「メルクリス様と名前似てないか?」
「確かにな。でも日本にも似てる名前の神様っているだろ」
「いるけどよ~。う~ん悪い、うまく言えん」
徹は、眉間にしわを寄せている。誠は、バーガーを一口で飲み込むと真剣な表情に変わる。
「なんか感じてるのか?」
「あぁ、なんていうか、なにかしらの意図を感じる」
「お前の勘は当たるからな、注意しておこう」
そうこうしているうちに、目的の教会にたどり着いた。中から人が、ぞろぞろと出てきている。誠は、近くにいた修道女に声をかけた。
「すみません」
「はい?」
修道女は、にこやかに対応してくれた。
「教会を見学したいんですがいいいですか?」
「はいどうぞ!」
「ありがとうございます」
誠は深々と頭を下げて、中に入った。
「おぉ~」
「ほぉ~」
豪華なステンドグラス。左右対称の廊下の両脇には、様々な彫像がある。女性、男性、老人、狼のような動物まである。威厳ある雰囲気に、思わず背筋が伸びる。そのまま廊下を進んでいくと、礼拝堂と書かれた扉があった。その入り口には、両脇に像が立っていた。男性とも女性とも分からない像。二人は、それを見入っていた。あまりにも似すぎている二つ彫像に、どこか不気味に感じる。
「それは、創造の神メルクリス様と主神ミロクリス様です」
二人が、振り返るとそこには先ほどの修道女がいた。
「随分と似てるんですね」
徹が思ったことを訊いてみる。
「メルクリス様はミロクリス様の【ワケミ】なのでお姿が似ているんです」
「【ワケミ】?」
「はい!ミロクリス様の一部が分かれて生まれたのがメルクリス様なんです」
「なるほど、分身みたいなやつか」
徹の言葉に、誠は頷いた。
「ミロクリス様は何を司る神様なのですか?」
「主神です」
曇りない目で修道女が答えた。誠は一瞬眉を顰める。
「主神とはどういう物なんでしょう?」
「主神は、すべての神の上役で暴走した神を制御する役目をお持ちです」
「なるほどなぁ」
二人は、改めて彫像を見る。
『『どっちがどっちなんだ?』』
心の中で同じことを思う二人を、修道女は信心深い信徒だと勘違いしてしまった。
「よろしければ礼拝堂に入りますか?残念ながら、説教は終わってしまったのですが、祈るだけでもいか
がでしょう」
「「それは是非お願いします」」
二人は、修道女の申し出に有難く便乗することにした。礼拝堂の扉が開き、修道女の先導に従い光刺す部屋の中へと入っていく。扉がギィという軋んだ音と共に、ゆっくりと閉じていった。
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