サンロアの容態
ルナリア達は、追手が来ていないことを確認した後、馬車を下りた。馬を逃がし、馬車を魔法で横転させる。事故に見えなくもないが、気づかれるだろう。ルナリアは、魔法を解きローレルの民の姿になっているサンロアを背負って走る。
「サンロア、大丈夫?もうすぐだからね?」
「その子、なんで気絶したの?」
「分からない……というより、縄はほどいたのに、なんでついてきたの?」
何故かついてきているイザベラに、ルナリアは警戒の眼差しを向ける。
「なんでって、その子がやらかした内容によっては、私魔術院に戻れないかもしれないじゃない。まずはそれを確認しないと怖すぎて逃げるに逃げれないわよ!」
「そう、じゃあついてきて!」
かなりの速度で走るルナリアに完璧に追従してきているあたり、イザベラも相当な実力者なんだろう。今は、振り切ることはできないと判断したルナリアは、宿まで連れて行くことにした。
宿に着いた三人は、部屋のベッドにサンロアを寝かせる。荒い呼吸をするサンロアの額に、手をあてる。額が熱を帯びていることを確認すると、すぐに荷物を漁って薬を取り出した。
「まさか、誠と徹が出かけてるなんて」
運悪く、二人と入れ違いになったらしい。間の悪さに心中で舌打ちをしながら、自分の口に含んだ薬をサ
ンロアに飲ませた。
「それ名に飲ませたの?」
「解熱剤よ」
「それ効かないわよ」
イザベラは、いつの間にか眼鏡を外している。
「何を根拠に」
「私なら治せるけどどうする」
ルナリアはイザベラの目を見る。怪しく輝く紅い瞳としばらく見つめ合うと、ため息を吐いた。
「要望は何?」
「私の身の安全の保障と、そちらの後ろに誰がいるかを教えてもらえる?」
「分かったわ。でも、サンロアの治療が先よ」
「ダメ、先に教えて。その子の命と情報。どっちが重いかなんて明白でしょ?」
「はぁ。やっぱりこうしなきゃダメかしら」
ルナリアが、蛇のようにするりとイザベラの背後を取る。反応できなかったイザベラは、驚いたものの杖
を抜こうとした。しかし、首に突きつけられたナイフの冷たさに舌打ちをする。
「これで、あなたの命とサンロアの命の取引になったわね」
「そんなに、教えたくないの?この子の命より大事なの?」
「逆よ、教えたとたん居なくなられたら困るもの。治してくれたら必ず条件は守るわ」
ルナリアはそういいながら、顎でサンロアに近づくように促す。
「この子の症状は、魔力飽和症。どこかから、大量の魔力が体に流れ込んだことによる症状よ。だからこうして上げれば……」
イザベラは、サンロアの額に手を置くと薄緑糸の光がイザベラに流れ込んでいく。それは、イザベラの胸元へと昇っていった。そして、同時に胸元が光りだす。
「これは?」
「私の胸元にある発光の魔道具に魔力を流してる。これを続ければ治るはずよ」
サンロアの顔を見ると辛そうだった表情が、幾分か落ち着いてきている。それを確認したルナリアは、イザベラの拘束を解いた。
「ありがとう」
「良いわ、条件忘れないでね」
お礼を言って頭を下げるルナリアに、イザベラは軽口で返す。
サンロアの呼吸も落ち着いてきた頃、イザベラは手を放した。
「これでとりあえず大丈夫でしょう。魔術院でなんでこんなことになるんだか……」
不思議そうにサンロアを眺める
「本当にありがとう。こっちに座って」
ルナリアは、お茶と菓子を置いてイザベラを誘う。
「毒とか入ってない?」
「仲間の恩人にそんなことしないわよ」
イザベラは席に着き、お茶を口に含む。爽やかな風味が口に広がった。
「あら美味しい」
「それはよかったわ。それで条件の事だけど、簡潔に言うと私たちは王女殿下の命を受けて魔術院に潜入した。何があったかは……」
ルナリアがサンロアを見る。イザベラは、菓子を口にしながら頷いた。
「この子が目覚めないと分からないのね」
「どんな状況でもあなたの身の安全は保障するわ」
「それは、王女殿下の庇護に入るってこと?」
「いいえ?私たちと一緒に行動するなら、絶対安全」
「その証拠は?」
「申し訳ないけど、信じてもらうしかないわね。でも、私たちと一緒にいるのがこの世界で一番安全よ」
ルナリアは胸を張る。イザベラはジト目で見るもはぁと息を吐いて、お茶を飲む。
「まぁ仕方ないか」
イザベラが、窓の外を見ると光の柱が天に向かって聳え立っていた。思わずお茶を噴き出す。目の前にルナリアの顔に思いっきりかかった。
「なにあれ」
「ちょっと何すんのよ」
ルナリアは、顔を拭きながら抗議する。
「あれ見なさいよ!」
イザベラが指さす方向を見ようと窓の方を向くと同時に、地響きがする。
「あぁ」
諦めたような目をしてルナリアは、光の柱を見る。
「なんであの二人は……」
こんな大騒ぎを起こす人物に二人ほど心当たりのあるルナリアは、あたふたと焦るイザベラを後目に、優雅にお茶を飲んだ。
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