水晶
サンロアは、回廊を走りながら13研究室を目指す。途中すれ違う職員が、何事かと見ているものの、そんなことは気にしていられなかった。自分の腕に示されている残り時間は、少ない。しかし、未だにルークに出会えていない事実がサンロアを焦らせていた。走りながら、扉に書かれている番号を数えていく。10、11、12と数字を追い、ようやく13研究室にたどり着くと思った時、研究室の扉が開いた。サンロアは、出てきた人物とぶつかってしまう。
「キャッ」
「おっと、大丈夫かい?」
ぶつかった男性が、倒れそうになったサンロアを優しく支える。
「廊下を走っては、危ないよ」
「す、すみません!」
サンロアは深々と頭を下げた。男性は皺を深くして笑顔で手を振っている。
「気にすることは無い。次から気を付けなさい」
温かみのある声音で、杖をつきながらサンロアが来た道へ消えていった。
「あの人……」
「おい君!何してるんだ!」
中から出てきたのは、禿げあがった頭が印象的な眼鏡をかけた中年の男性だった。
「すいません」
「所長が優しいからよかったものの……まったく……」
ポケットから出したハンカチで、額を拭う男性が部屋に帰っていく。そんな男性をサンロアは慌てて呼び止めた。
「あ、あのすみません。13研究室の方ですか?」
「はぁ?何か用か?」
不愛想に返事した男は、いぶかし気にサンロアを見る。
「あのルークさんって、こちらに来ていませんか?」
ルークの名前を聞いた男の眉が、一瞬だけ寄る。
「実は————」
サンロアは、たどたどしくもこれまでの経緯を話す。話を聞き終えると、男はフンと鼻を鳴らす。
「そのルークとかいう若造なら確かに来たが、装置の説明を一度聞いたきりだぞ。用が済んだなら、帰った帰った。こっちは忙しいんだ」
男は、ドアを閉めようとする。サンロアはドアの隙間に足を滑り込ませて、食い下がった。その行動に目を丸くする。
「お願いです!なんでもいいんです!何かありませんでしたか?どこに行くとか、何をするとか言ってませんでしたか?」
「ええい!知らんと言ってるだろ!」
男性は、サンロアを突き飛ばしてドアを勢いよく閉める。バァンという音が廊下にこだまする。
「魔獣の本、船みたいな設計図、装置のレポート。原材料の取れる場所」
サンロアは、食い下がった時に見た研究室内の様子を頭の中で探っていく。そこに、ヒントになるような物があればと、食い下がりながら脳内に焼き付けていたのだ。
「原材料がとれる場所に、魔術院の場所が書いてあったな。どういうことだろう。ここでは素材の生成までしてるのかな」
気になったサンロアは、魔術院の廊下を歩いて行く。遠目で13研究室が見えるところに移動する。自分の腕を確認して、花弁がまだあることは確認できた。
『あと一枚になるまで……』
しばらく待っていると、先ほどの男が出てきた。思ったよりも出てくるのが早く、サンロアはホッとす
る。気づかれないように、距離を開けて男の後をつけ始めた。男は、額に浮かんだ汗をしきりに拭きながら、早歩きで歩いている。
『焦ってる?どうしたんだろう?』
不審に思いながらも、男について行くとある扉の前で止まった。
「宝島は、空にあり」
「その言葉……」
男が、そう呟くと扉の中に入っていく。聞こえてきた言葉に、驚きながらもサンロアは続いて中に入る。そこは、棚が並ぶ倉庫のような場所だった。棚には、様々な薬草や、動物の一部、実験器具などがきっちり分けられ置かれている。サンロアは奥に進んでいくが、男性を見つけられなかった。
「なんでいないの?どういうこと?」
頭が混乱する中、腕に痛みが奔った。見てみると、花弁が一枚散っている。この痛みで、冷静に鳴れたサンロアは一度、倉庫の外に出る。
「宝島は、空にあり」
サンロアは口にして倉庫の扉を開ける。そこには、両脇に紫に輝く水晶の塊が、奥の扉に向かって均等に並んでいた。その光景を見たサンロアは、扉へと駆け出していく。扉を開けようとノブを、勢い回し押し開けた。暗い部屋、真ん中だけに差す光。ベッドと椅子だけが置いてある。その部屋をサンロアはよく知っていた。そのベッドで横たわる少女。の姿が遠目に見える。その脇には、男が注射器のような物を握り締め経っていた。
「サリナ!!」
サンロアは思わず声をあげてしまった。男が驚いたように振り返る。
「お前!?どうやってここに!」
男が、杖を振る。すると左右から、巨石でできたゴーレムが現れる。サンロアは、後ろ髪をひかれながらも、すぐに来た扉から飛び出した。来た道を走り抜ける際に、水晶が目に入る。水晶の中に、何か影のようなものが見えた。
「ルークさん!?」
見せてもらった姿絵によく似た人物が水晶にいることに気づく。走りながら他の水晶も見ると、どれも人が中にいる。しかも、耳が長い。他の水晶にいるのはエルフだと確信した。吐き気を感じながらも、目の前に見えた外へつながる扉を蹴破る勢いで開ける。そのまま回廊を走りながら、ルナリアの待つ馬車へと向かっていく。
ルナリアは、ソワソワしながらサンロアのことを待っている。手足を縛られているイザベラは、その様子をただ眺めることしかできない。
「あなた達は何のためにこんなことしてるの?」
「さっきも言ったわ。ルークって人を探すためよ」
「そうじゃなくて、そもそもなんでその人を探してるのって話よ」
「それは言えないわね。特に魔術院の人間には」
「なるほど……第一王子殿下か第三王女殿下どっちかしら」
ルナリアは表情一つ変えない。イザベラはその目をじっと見るも、はぁと大きなため息を吐いた。
「あ~あ。こんなことになるなら、さっさと辺境の部署に異動させてもらうんだったわ」
ゴロンと天井を向いた彼女に、ルナリアがフッと笑う。
「辺境で何を研究するつもりよ」
「魔獣も含めた生き物全般よ」
「私たちに興味あったみたいだから、そっち関係なのかと思ったわ」
「もちろん異民族関係も興味あるわ。同じ人形でも、体のつくりとか、こまごまとした違いがなぜ生まれてるのか興味が尽きないもの」
ルナリアは、この話を聞いてなぜか二人の姿がちらついた。
「じゃあ使徒とかは、興味あるかしら」
「使徒?変なこと言うのね」
「そう?」
「だってあれは―――」
イザベラが言いかけたところで、馬車が大きく揺れた。荷台に、ワンロアが駆けこんできたのだ。
「出してください!」
「サンロア!大丈夫?」
「良いから!早く!」
ただ事ではなさそうな様子に、心配するもそれはサンロアの怒声で遮られた。相当な緊急事態だと感じた、ルナリアは馬車を出す。勢いよく叩かれた馬は、一心不乱に走り始めた。閉まった門扉をけ破った。門兵には馬車が見えていないため、門扉がいきなり吹き飛んだ状況に驚いて固まっていた。そんな彼らをしり目に馬車は一気に走りさった。
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