潜入
徹達が解放されたのは、朝日が昇るころだった。警備隊から借りた服を着こみ、宿屋に着いた二人は、おかみさんに呼び止められた。
「あ、二人ともやっと帰ってきた。ちょっと待っててくないかい?」
そう言うとおかみさんは、受付の奥の部屋へと消えていく。
「これこれ、ルナリアちゃんたちから言伝預かってたのよ」
持ってきたのは、一枚の木簡だった。
「お?ありがとう」
誠は、木簡を受け取り礼を述べて徹とともに部屋へと向かった。部屋の中で徹とともに、木簡を読む。
『私とサンロアは、魔術院へ行ってます。三匹目にキジバトを飛ばしてください』
「向こうは魔術院の潜入か……」
「得体の知れない場所だが、ルナリア達なら大丈夫か」
「しかし、宿にいないってことは、まだ魔術院にいるのか?」
「初日から泊まり込みは、きな臭いな」
「あぁ、香るな……ブラックな匂いが」
「とりあえず、三日間様子を見よう。その後、キジバトを飛ばそうじゃないか」
「そうだな」
ルナリアとキッド、徹と誠の四人は、共通の隠語をいくつか作っていた。キジバトなどの地球にしかいない生き物の名前に、特定の意味を付けた。キジバトの意味は『救助・救命・救援』。三日連絡がなかった場合、救援に来てほしい。そう、木簡には書いてあった。誠たちは、木簡は、ベッドの下にしまい込む。
「向こうはうまくいってると良いが……」
「こっちはやっと入団だからな……先は長そうだ」
徹は、ポケットからコインを取り出す。そこには、三つ首の獅子が刻まれている。
「入団できてよかったよ」
「正直、浮足立ってたから、ダメかと思ってたけどな」
「初めての任務って考えるとちょっとワクワクしちゃったな。仕事はしてたけど、任務って初めてだもんな」
「とりあえず、腹に何か入れてひと眠りしよう。その後は教会だ」
「おう」
コインをテーブルの上に置き、二人は食堂へと歩き出す。扉が閉まると、暗くなった部屋が窓からさす月明かりで照らしていた。
時は遡りまだ二人が護衛任務に就いたばかりの頃、ルナリアとサンロアは、荷車付きの馬車に乗って、王都の端にある一軒の屋敷に来ていた。そこそこ大きな屋敷で、庭も手入れされている。どこかの貴族の邸宅と言われても納得する豪邸だ。
「ここが魔術院?」
「そうみたいですね」
二人は、門扉にいる門番に声をかけた。
「すみません」
「はい、どうしました?」
門番はにこやかに対応してくれる。
「こちらに、荷物をお届けするように言われたのですが?」
そういってルナリアは、荷物を見せる。
「そんな予定あったかな?少し確認しますね」
サンロアが、ルナリアの耳に顔を寄せ小声で話しかける。
「大丈夫ですかね?」
「ここでつまずいたら、いよいよ忍び込むしかないのよね」
そうこうしてると、門番の青年がこちらに走ってきた。
「確認取れました。リリア王女からの支援品ですね、一応荷物の確認をするので、少々お待ちください」
青年は、門を開ける。中から女性が一人出てきた。杖を腰に差した深海のような艶やかな青い髪を肩まで伸ばした女性は、眼鏡越しにルナリア達を見る。
「こんにちは、失礼しますね」
女性が杖を振ると、荷車の下に魔法陣が現れる。白く輝く魔法陣は徐々に上昇し、荷車をスキャンするように動く。女性は目をつむり、何かに集中しているようだ。魔法陣が消えると女性は、ふぅと息を吐く。
「大丈夫そうですね、どうぞ」
女性の先導で、ルナリア達は屋敷の中へと入っていく。
「ん?」
「どうしました?」
「いや、何でもないわ」
ルナリアは、体に
馬車がすべて入ったところで、屋敷の門がゆっくりと閉まっていく。ガシャンという無機質の音とともに完全に閉まると、風が揺らす木々の葉の擦れ合う音だけが聞こえる。
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