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拘束

 助けた老人と少女から、手厚い感謝を受ける。堅い握手を交わす変態騎士たちに、周囲は奇異の視線を向けている。視線だけにとどまっているのは、彼らの上げた手柄故だろう。戻ってきた二人に、リットが問う。


「なぜ二人で飛び出した?」


本来の任務は護衛であり、彼らの配置は最後尾だった。本来であれば、他の魔物を警戒しなければならない立ち位置だ。しかも相手はワイバーン、本来なら新兵が二人だけで挑む相手ではない。


「本来の任務ではないことは理解しています」

「しかし、飛び出さずにはいられなかった」


トールとマオトは、リットを真っすぐ見つめていた。


「あの場の誰もが、あの二人の命を諦めたでしょう」

「それは!……しょうがないことだ。どうしようもない時はある」


リットは、反論しようにも図星を突かれしりすぼみになる。拳を、震えるほど握り締めていた。


「もちろんそういう時はある。我々は人間だ。出来ることに限界があるのは当然」


トールの言葉が体に入り、心を重くしていく。


「しかし、誰かが手を伸ばしてれた死とただ見届けられる死では、意味がまるで違う」


リットが目を見開く。


「たとえ無理だと分かっていても、最後まで救おうと手を伸ばすのは、護る者が護れなかった者にできる唯一の贖罪だ」


風が吹き、トールとマオトの褌が揺れた。


「騎士とは、護る者だろう?」

「我らは騎士を目指すものとして、当然のことをしたまで」


鎧兜の間から除く二人の目は、一点の曇りもなくリットを射貫いている。


「だが、規律を乱したことは謝罪する」

「「申し訳ない」」


二人の頭が、勢いよく下がる。リットは、いたたまれない気持ちになりながらも二人の謝罪を受け入れた。


 試験も終わり、解散していく候補者たちの中で、ひと際異質な二人の背中を、リットはただただ見つめている。その手に持つ羊皮紙には、トールとマオトの名前に丸印がついていた。



 夜の賑わいが街に響く中、帰途に就く徹は、握っていた手を開いて誠に見せる。


「おいこれってやっぱり、そういうことだよな」


そこにあったのは、ボルトのような金属部品だった。一部黒く変色してるのは、あの時の爆発によるものだろう。誠がそれを掴み、月に透かすように持ち上げる。まじまじと眺めた後、徹へと返した。


「十中八九、あの時の狼と同じ物だろうな」

「あんな近くで遭遇するとは思わなかったな」

「あぁ、それに馬車を襲っているとはな。あの馬車は、農作物を運んでいたんだろう?機械に農作物は必要ないだろう」

「それに、何よりまずいのは、空を飛ぶということだ」


徹が、先の戦闘を思い出す。最初に蹴り飛ばした感覚から、あの狼と同種のモノであることはわかっていた。しかし、翼を使って空を飛び、口から熱線のような物を出そうとしていた。


「あれを誰かが操作しているのだとしたら、最早無人戦闘機だぞ」

「まさか初っ端から、航空戦力が出てくるとは」


徹と誠は、鎧兜を被ったまま夜の街を歩いて行く。道行く人たち誰もが、彼らは通り過ぎる民衆が振り返

っていることに気づいていない。


「空での戦いに、備えないといけないな」

「そうだな」


真剣に今後を話す二人の肩が捕まれる。二人が振り返ると、王都警備隊の制服を着た屈強な男が二人、ニコニコとしている。しかし、その佇まいは臨戦態勢だ。


「ちょっといいかな?」


優しい声の裏に警戒がうかがえる。


「はい、もちろん」

「どうされました?」


二人も紳士的に対応する。こういう職質には、真摯に対応するのが一番な事を地球で学んでいた。


「どうしたはこっちのセリフなんだけど、君たちさ……」

「「はい?」」


二人は首をかしげる。


「なんで服着てないの?」

「「あ」」


二人は自分の体を見る。そういえば、戦闘で鎧が全損していた。鎧兜はつけていたため、全く気付かなかった。


「ちょっと来てもらおうか」

「「はい……」」


二人は、夜の街を屈強な男に挟まれ厳重な建物の中へと消えていく。




 全ての処理が終わり、リットが帰還した時、夜勤の部下が報告を上げてきた。


「副隊長!緊急で伝えなければならないことが……」

「なんだ?」


言い淀む部下に先を促す。部下は言いづらそうにしながら、続きを話し始める。


「候補者二名が、王都警備隊に拘束されました」

「はぁ、まぁいつもの事か」


素行の悪い候補者が、試験の開放感から事件を起こすのはいつものことだ。


「名前は?」

「それが……トールとマオトです」

「何!?罪状はなんだ!」


護る者の責務をあんなに真っすぐとした目で語っていた二人が、意味もなく暴れるとは思えない。あの時の鎧兜越しの目に、嘘があるとは思いたくなかった。


「公然わいせつ……です」

「は?」


思わず素っ頓狂な声が出る。一瞬、頭がフリーズした。宇宙を感じながら、その端で引っかかったことがある。彼らの帰るときの恰好が、一気にフラッシュバックする。


『まさか、あの格好で街を歩いてたのか!?』

「拘束されてる場所は!」

「第四区拘置所です」

「分かった」

「え、ちょ?リット団長!?」


リットは、足早に部屋を出ていく。部下は、そんなリットを不思議そうに送り出すことしかできなかった。


 リットが汗を流しながら、第四区拘置所にたどり着く。入り口にいた警備隊に、事情を説明し中へ入れてもらう。事情聴取が行われているという、部屋の扉を勢い良く開ける。


「その二人はうちのウッ」


中に入った瞬間、ムワッとした空気がリットを包み込む。男くさい臭いに思わず、言葉が詰まる。顔を顰めて、部屋を見る。


「ハッ!ハッ!」

「まだまだぁ!お前の限界はそんなもんじゃないだろ!」

「ハイッ!」

「行ける行ける!お前のポテンシャルはまだ伸びるぞ!」

「ハイッ!」


そこには、取り調べを担当していた警備隊を、叱咤激励しながら一緒に筋トレしている二人の姿があった。リットは、本日二度目の宇宙へ行くことになる。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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