護衛任務
試験は順調に進んでいた。城外にでて、郊外の整備された道を進んでいく。次第に、視界は開け、一面の小麦畑が見えてきた。王都に一番近い、大規模農業施策地だ。小麦の他にも、多種多様な野菜の栽培もしているようだ。風で波打つ小麦の他にも、緑や赤の目に賑やかな色合いの畑も見えてきた。農家の人は、馬車を見てお辞儀をする。中が見えないため、『どこかのお偉い人が通りがかった』程度の認識だろう。リットは、参加者一人一人を監査していく。のどかな光景に気が緩んでいるのだろう。あくびをする者もいれば、ウツラウツラと船を漕いでいる者もいる。容赦なく減点していくが、最後尾の二人の様子は不可解だった。まるで、目を輝かせるかのように、周りを見渡している。鎧兜を被っているのに、どこかワクワクしているのが丸わかりだ。周囲の警戒をしていないわけでは無いのだが、どこか浮足立っているようにも見える。リットは容赦なく二人を減点した。
『ガルニの推薦だったが、まぁこんなものか。しかし、なんであんな浮足立っているんだ?田舎なら、このような畑など見慣れているだろうに』
少し不審感を抱きながらも、リットは他の参加者の様子を見ていく。
軒並みの評定を終えて、あとは、目的地まで行くだけとなった。
『はぁ、また参加者を集めなくてはな』
リットは、手元のには名前に横線の引かれた羊皮紙が握られている。もちろん『トール』と『マオト』の名前にも、しっかりと線が引かれていた。
『なんだって、あの二人を推してきたんだ?』
リットは、最後尾を見る。二人は落ち着いたのか、浮ついた空気は消えていた。黙々と周囲を見回している。しかし、ここまでの行動を見ていたリットの印象は、『素人』であった。どこか、経験不足の否めない二人を眺めていると、先頭がにわかに騒がしくなる。
「魔物だー!」
その声を聴いた全員が、即座に馬車周りを固める。リットは、馬車から急いで降りる。先ほど声を上げた男が、前を指差し叫んでいた。指の先を見ると、農作物を積んだ荷馬車が襲われている。魔物を見ると、光沢を放つ鱗。荷馬車を軽く超える巨体。そして、空を覆わんばかりに巨大な翼。紛れもないワイバーンだった。しかし、その姿には大きな違和感を抱く。ワイバーンが荷馬車を横転させると、御者席から少女と老人が放り出される。老人は少女を抱きかかえ、少女を庇っていた。それを見て、我に返った。
「全員、あの二人を保護しろ!」
リットの命令に、他の者はたじろいでいた。それもそのはず。遠すぎるのだ。すでにワイバーンは、興味を荷物から老人と少女に移している。間に合わないのは明白だ。リットは、その光景を歯がゆい思いで見つめることしかできない。
「誰か!弓でアイツの気を……」
『気を引け!』そう言うつもりだった。老人を娘はワイバーンと我々の間にいる。下手に射れば、ケガをさせるかもしれない。しかし、そうするしかないと思ったリットは、決断したつもりだった。そんなリットの横を二筋の風が駆け抜ける。
「おいおい!どういう走り方してんだ!」
「全身鎧だぞ!?なんて速さだ!」
腕を振り腿をしっかりと上げたきれいなフォームで、全力疾走する二つの鎧。日の光を受け、白銀の輝く鎧は荷馬車に向け白いラインを描いていく。
「なんで……」
リットは、呆気に取られていた。二人は、馬車の最後尾にいたはず。しかし、彼らは自分の横を駆け抜けていった。ということは、彼らはリットの命令よりも先に走り出していたのだ。リットは、伸びる二本の白線が荷馬車に間に合うことを祈るしかなかった。
「あの速さでも、間に合わないだろ」
誰かがこぼした言葉を、全員が肯定する。ワイバーンはもう、老人と少女の目の前まで来ている。老人が必死に少女を庇って強く抱きしめている。少女もなきながら老人に縋り付く。二人の驚異的な速さを以てしても、間に合わないだろうと誰もが思っていた。この二人以外は。
「行くぞトール!」
「おおよ!」
掛け声と同時に、前を走っていた飛び込み前転のように転がる。ちょうど足が上に来たところで、誠がそこに飛び乗った。足に乗ったまま、誠もしゃがみ込む。まるで雑技団のようだ。大砲の照準を合わせるように、ワイバーンえと狙いを定める。
「今だ!」
誠の合図と同時に、お互いの膝のバネが勢いよく伸びる。誠の体は、ワイバーンに向かって射出された。
「【脳筋闘法 黒ひげ危機一髪】」
ワイバーンは大きな口を開け、老人たちを食おうとした。その横っ面に、誠が勢いよく全身でぶつかる。ガンッという鈍い音共に、ワイバーンの首が横に跳ね飛ばされた。誠が、二人を背に庇い、ワイバーンと相対する。
「もう大丈夫だ!」
誠が二人を振り返って親指を立てる。
「危ない!」
少女が声を上げ、誠はワイバーンを見る。目を赤くして、片足を振り上げている。
「心配ない」
誠は、笑顔でそういうと、振り下ろされた片足を両手で受け止めた。鋭い爪をしっかりと掴みどり、腰を落として耐えている。
「【脳筋闘法 痛恨の一撃】」
突如ワイバーン巨体が、横転した。戦力疾走してきた徹が、勢いそのままにワイバーンの横っ腹を蹴り飛ばしたのだ。ズゥンという重い音と共に地面に倒れ伏す。
「この感覚は?」
徹が足を振りながら、蹴った時の感触に違和感を覚える。
「あぁ、こいつ生き物じゃねぇ」
起き上がったワイバーンの前に、二人は肩を回して臨戦態勢に入る。
「機械とはいえ、ワイバーンはワイバーン」
「竜との戦い、御指南願おうか!」
「ガァァァァァァァァアアア」
威勢よく咆哮したワイバーンに、二人は飛び掛かった。
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