ミッションインポッシブル
ガルニは数名の部下たちと共に、訓練場へと急ぐ。
「これより、第二騎士団の臨時採用試験を行う」
訓練場近くまで来ると、聞き覚えのある声が響いている。ガルニが訓練場に入ると、眼鏡をかけた几帳面を体現したかのような騎士が、壇上から見下ろしている。ガルニの登場に、少し目を丸くするもそのまま話し続けた。
「試験内容は、模擬警護だ。これから私を郊外まで警護してもらう。候補者は、区間ごとに交代して試験を行う。全員、試験官から配置表をもらえ」
そう告げると、壇上から足を踏み鳴らして颯爽と降りてくる。メガネの騎士は、ガルニのもとに来ると不機嫌を顔に張り付けて、どこか怒気を含ませた声音で声をかけてくる。
「何か?ガルニ第三騎士団長」
「そんな、不機嫌になるなよリット」
ガルニはそんなことお構いなしに馴れ馴れしく挨拶を返した。ガルニは後ろを向くと、部下たちの中から二人の騎士が出てきた。二人ともフルプレートで武装しており、顔が見えない。訝し気にその二人を見ていると、ガルニが二人の背中を押して前に突き出す。
「ウチへの志願者だったんだが、もう定員でな。実力は私が保証する」
「こちらも、志願者には不自由していません。不要です。それに、あなたからの推薦など、受けられるはずないでしょう」
「推薦じゃない。こいつらは平民だ。田舎から出てきて、腕っぷしだけでここまで来たんだと」
「不要です」
断固として拒否するリットにガルニが、真剣な眼差しになる。
「お前のとこには必要だろ。貴族と繋がっていない騎士」
「クッ……」
リットは、苦虫を食いつぶしたような渋い顔をした。
「とりあえず試験だけでも受けさせてやってくれ。じゃあな」
それだけ言うと、ガルニは部下を引き連れ帰っていく。残された二人の志願者を前に、リットは額を抑える。
「はぁ……二人とも名前は?」
「トールと申します」
「マオトと申します」
短く言うと、二人は腰を四十五度に曲げる。その様子にリットは感心した。
『田舎から来た平民というには、礼儀が出来ているようだな』
そう心の中で二人の評価を上げる。
「では、トールとマオトは試験官から配置表をもらえ」
「「ハッ」」
二人は駆け足で、試験官の元へ向かっていく。リットはその背中に、妙な頼もしさを覚えた。
『行けそうだな』
『楽勝よ。この調子でルナリア達を見返してやるぞ』
徹と誠は、鎧兜の下でコソコソとしゃべる。二人の潜入任務の第一段階が始まった。
第二騎士団の業務は、王城の警備と第二王子の護衛に分かれている。王族の警護は、騎士団内でも精鋭が数名務めている。他の団員は、基本的に王城の警備に就いている。王城では大臣や文官などが執務を行う場であり、国の中枢でもあるため、その警備はほか騎士団とも共同でより堅固なものになっている。現在、第二騎士団はこの二つ業務を境に二つに分断されてしまっている。団長のリットは、伯爵位をもっている。しかし、副団長のサルファーは公爵位をもっており、第二王子の親類にあたる。それによって、現在は王族警護をサルファーが、王城警備をリットが仕切っている。問題は、王族警護の団員をサルファーが自身の派閥の人間のみで構成し、警護の内容が団長のリットであっても把握できなくなっていることだ。何度か注意をし、報告を上げさせるもその内容は当たり障りのないものだった。王位継承権問題が湧き上がり、リットは王族の危険度上昇を理由に、サルファーを納得させ、今回の臨時騎士採用にこぎつけたのだ。どうしても派閥と関係のない者を、王族警護にねじ込みたかった。第二王子は、魔術院との関係で黒い噂が絶えない。その噂の真偽を確認するためにも、臨時騎士の採用はリットにとって重要だった。そこに第三王女の警護をしているガルニからの推薦者。十中八九、第三王女の差し金だろうことは、検討が付いた。おそらく目的は自分と同じ、魔術院と王子との関係の調査だろう。目的が同じならば、利用できる。そう、リットは考えた。
「君たちは王城外からか」
「ハッ」
リットは、目の前の数人をみる。その中に、あの二人がいた。彼らだけ鎧兜を着けているので顔が分からない。不審なこと、この上ない。他の志願者も二人をチラチラ見ている。
「では、ここから試験開始する!持ち場へつけ!」
それぞれが、護衛対象を想定した馬車の周りに配置に着く。二人は、最後尾に位置についてもらった。走り去っていく異様な二人を、全員が目で追っている。まるで二人が、指名手配犯であるかのようだ。
『なんか、見られてないか?』
『やっぱり、この鎧兜が目立つんじゃ……』
『いや、しょうがないだろ。騎士団長は俺たちの顔知ってるかもしれないんだから』
誠が、自分の鎧兜を叩く。カンという響く音の中、リリア王女が言っていたことを思い出す。
ガルニたちの協力の元、騎士鎧を身に着けていた。ルナリアはその様を見て、感嘆の声をあげる。
「おぉ~結構似合ってるわよ二人とも」
「お似合いです!!」
サンロアも、鼻息を荒く同意している。
「そうか?鎧は馴染みがなさ過ぎてな」
「な?コスプレしてる気分だ」
二人は自分の恰好を見回しながら、首をかしげている。
「フフフお似合いですよ」
リリア王女は、微笑みながら部屋に入ってきた。
「お二人がエルフの里を救ったことは王都でも有名です。リット騎士団長ともなれば、顔をご存じかもし
れません。なので、こちらを被ってください」
リリアが振り向くと、二人の騎士が鎧兜を持ってくる。
「うわーすっごい視野制限されそう」
「まぁ仕方ないか」
二人は受け取り、カポッと被る。視界が、横一文字に空いた部分だけになる。
「わー不審者」
ルナリアが、ボソッと呟く。
「「失礼だぞ!」」
「すみません。お二人のことは有名なので、バレないようにしないといけなので……なんせエルフの里を救った話は、舞台にもなっているので……」
申し訳なさそうに言うリリアの言葉に二人は引っかかる。
「ん?なんだって?」
「舞台?舞台って言ったか?」
詰め寄ろうとするも、ガルニに掴まれた。
「もう採用試験が始まってしまう。二人とも行くぞ!」
二人を引きずって部屋の扉から出ていく。
「待ってくれ!聞き捨てならないことが!」
「舞台は恥ずかしすぎる……」
二人の抗議の声は、閉じる扉のよって遮られた。
「舞台になってるの?」
ルナリアがリリアに恐る恐る訊く。リリアは満面の笑みを浮かべた。
「はい!最後の魔獣との決戦は手に汗を握りました。最後は誠さん役とルナリアさん役の方が……フフフ」
リリアは頬を赤らめながらルナリアをニヤニヤと見る。ルナリアの顔は一瞬で燃え上がる様に赤くなる。
「何よそれ!私も出てるの!?というより、誠と何!?どうなるの!?」
「フフフ」
リリアは笑みを浮かべるだけで、何も答えない。ルナリアは顔を覆いしゃがみ込む。
「なんなのよそれぇ」
いつもとは違う乙女な姿に部屋の中が、生暖かい空気に包まれる。そこで扉がノックされた。それは、ルナリア達の潜入任務が始まる合図だった。
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