一番向いてない仕事
王女の部屋には、静かで張りつめた空気が流れている。というのが常だった。しかし、今は違う。ガヤガヤと騒がしく、多くの人が部屋の中に溢れている。おそらくこの部屋にこんなに人がいたことは無いだろう。リリアは、サラの入れてくれた紅茶の一口含む。あんなことがあり、先ほど目を覚ましたにも関わらず、紅茶の味はいつも通りなことにリリアは驚いた。
「美味しいわ。ありがとうサラ」
「ありがとうございます。お褒めいただき光栄です」
元々色白の顔が青白くなってるあたり、まだ本調子ではないだろう。しかし、優秀なこのメイドは、表情に出さない。そんなサラに感心しながら、リリアは目の前の光景に視線を戻した。
「あんたたちは、何をしているのかしら?」
「いや……」
「その……」
「「すみませんでした!」」
徹と誠が正座して、思いっきりアマを下げた。その正面には、仁王立ちのルナリアが、日の光を受けて輝く金髪を逆立てて二人を見下ろしている。見た目が綺麗にも関わらず、彼女を連れてきた騎士も最初は見惚れていたが、今では怯えに染まっている。
「あの……こんなに反省していますし……」
「サンロア?」
「ヒッ」
ルナリアと共に入ってきた、サンロアは徹達とルナリアを交互に見ながらオロオロしている。
「サンロアは、こいつらを庇うのかしら?」
狼に睨まれたウサギのように、震えあがるサンロアは徹たちを見る。二人は輝く瞳でサンロアを見つめている。まるで、救いを待つ子羊のような、縋る眼だ。
「ウゥ……ぇっと……なんでも……ないです」
サンロアは、二人から視線をそらした。徹達の顔が絶望に染まる。
「それで?言い訳があるなら聞いてあげてもいいわ」
「その、昔からの憧れでして……」
「パルクールていうかっこいい奴やってみたくてですね……」
二人の体が次第に小さく成っていく。
「あのねぇ、たまたま、リリア王女の部屋で、たまたまそこの警備が顔見知りの第三騎士団だったから、お咎めなしなだけで本当だったら今頃王宮襲撃で処刑だったのよ!」
現に、二人は王城内を巡回していた騎士に見つかり、城内は厳戒態勢になりつつあったのだ。今はリリア王女のおかげで、誠たちは客人の扱いとなっている。
「そもそもなんで王城目指すのよ!」
「一番この街で高い建物だったから……ついウグッ」
答えた誠の頭は、ルナリアのかかと落としにより凹の字に陥没した。そのまま、床に白目をむいて倒れ込む。徹は誠が倒れ伏す様を見守るしかない。その顔は戦慄に染まっていた。
「徹は何か言いたいことある?」
ルナリアが、徹を見る。顔は笑っているものの、目が一切笑っていない。
「なにも無いであります!自分たちが全面的に浅はかだっただけであります!」
敬礼しながら、ルナリアに従順な姿勢を見せる。
「よろしい。それで、これをやろうって言いだしたのは誰?」
「そこで倒れてる、愚か者であります!」
当然のように、気絶している誠に罪をなすりつけている。ルナリアは満足そうに頷くと、リリアを振り向いた。一瞬身構えるが、その表情に怒気は一切なく申し訳なさそうにしている。
「リリア王女殿下、この度は連れが大変失礼いたしました。不問にしていただき、ありがとうございます」
深く頭を下げるルナリアに、頭を上げるように促す。
「いえ、いずれはお呼びしようと思っていたのです。キッドから状況は窺っていますよね?」
「えぇ」
ルナリア達を椅子に座るよう促すと、ルナリアとサンロアはソファに腰かけた。後ろでは、徹が誠に駆け寄り心肺蘇生を試みている。正直そっちが気になって仕方ないが、話を進める。
「キッドは、王都警備隊に回り、魔術院と教会の人の出入りを調べてもらっています。騎士団よりも、警
備隊の方が街の状況を調べやすいですから。もう一人は、魔術院の中に入り込んでもらっています。こちらの連絡が現在途絶えてしまっているのです」
徹が誠の名前を必死に呼びながら、胸骨圧迫を繰り返している。リリアの後ろにいる騎士も心配そうだ。
「もともと、連絡を取りにくい状況なのでもしかしたら、遅れているだけなのかもしれないのですが、もしものことがあるので、皆さんには彼の行方を捜していただきたい」
ルナリア達の後ろで歓声が上がる。どうやら、誠が目を覚ましたらしい。
「それと、もう一つなのですが……」
リリアは言いづらそうに、後ろで抱き合っている誠たちを見る。
「誠さんたちには、第二騎士団に潜入していただきたいのです」
ルナリアも、振り返って二人を見る。
「潜入?あの二人が?」
「はい……」
徹が誠に肩を貸して、こっちにやってきた。
「無理じゃない?」
「そうかもしれないです」
「「なんの話かわからんが、失礼じゃない?」」
リリアも同意したと同時に、二人は悲しそうな顔をして、体育座りで背を向けた。この場でサンロアだけが、二人を励ましている。
「そもそも、なんで第二騎士団なんですか?」
「現在、私の兄にあたる第一王子と第二王子が、王位継承権を巡って争っています。第一王子のシュバル兄様は軍部いわゆる、騎士からの支持が厚いのですが、もう一人の兄、オル兄様は、魔術院をはじめとする技術者層からの支持が厚いんです。魔術院への支援も頻繁に行っています。もし、勇者の召喚に魔術院が関わっているのだとしたら、オル兄様が何かしら知っている可能性があります。そのために、オル兄様の警護を行っている第二騎士団に潜入していただきたいんです」
「う~ん」
ルナリアは、しばらく考え込むと二人に振り返る。
「できるの?」
その言葉に、誠と徹が勢いよく立ち上がる。
「やってやらぁ!ここまで言われて黙ってられるか!」
「そうだ!俺らだって、社会人経験のある大人なんだ!潜入の一つや二つ、やってやんよ!」
気合を入れる二人に、呼応するように窓から風が吹く。思ったよりも強い風に、リリアは嵐の予感を感じていた。
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