やりたかったこと
ルナリアは、差し込む朝日で目を覚ます。掛け布団をめくり、ゆっくりとベッドから降りた。木製の床が、わずかにきしむ。隣のベッドを見ると、サンロアが包まる様に眠っていた。その姿が、小動物に見えてクスリと笑う。起こさないように、ゆっくりと自分の荷物を漁っていく。そこから数着服を取り出し、どれにしようか頭をひねる。悩むのは、似合うかどうかというより、この建物の乱立する都市部で動きやすいのはどういう服装なのか、里から始めて出てきたルナリアには分からなかったのだ。とりあえず今日は、この街の教会に行くことになっている。といっても、サンロアの所属していた教会だ。戦闘のリスクがある。しかし、ガチガチに武装して教会に行くのも気が引ける。悩み抜いた末に裾の広いスカートをはいていくことにした。これなら、ナイフ程度なら忍ばせられるだろう。準備していると、隣の部屋が騒がしくなる。あの二人が、何かしているらしい。その騒がしさに、サンロアが目を覚ました。
「うぅー」
寝ぼけ眼をこすりながら、むくりと起き上がった。日に当たり、青髪が反射して海のように輝く。
「おはよう」
「んーおはようございますぅ」
未だ半分意識を、夢の中に置いて行きながら返事をする。
「フフッほら起きて」
ルナリアはサンロアの手を引いて、椅子に座らせた。取り出した櫛で、優しく髪を梳かしていく。
「ありがとうございます~」
「良いのよ。妹にいつもしてたから」
心地よいのか、目を細めるサンロア。ルナリアは里に残してきた妹を思い出した。そんな感傷に浸る間もなく、隣室のドアが慌ただしく開く音がする。ドタドタと勢いよく階段を下りる音が聞こえたかと思えば、宿の中は一気に静かになった。
「何か……あったんでしょうか?」
「さぁ?まぁ大丈夫でしょ。私たちは、ゆっくり朝食でも取りに行きましょう」
「はい!」
サンロアは元気に返事をすると、下に降りるために準備を始めた。
誠と徹は、大通りを駆けていた。王都は建物がひしめき合っていて、彼らは密かに楽しみにしていた事があったのだ。路地へと入り、しきりに周りを気にする二人。
「ここら辺なら、人もいないか」
「おう、いなそうだな……」
「一度やってみたかったんだ」
「俺もだ。向こうだと許可だのなんだのめんどくさかったからな」
「何より、俺たちの身体能力が足りなかったもんな」
そういって、二人は目の前の建物めがけて、勢いよくジャンプした。朝日が、二人を照らし出す。悠然と建物の屋根に、着地する。
屋根から一望する町は朝日に照らされ、より一層美しい。
「よし、あの王城までな」
誠がより一層高い、荘厳な建物を指差す。
「王城のどこよ?」
徹が、手で影を作りながら王城をよく見る。
「そりゃもちろん。てっぺんだろ!」
「だよなぁ!」
誠のセリフに、徹もニヤッと笑う。
「位置について!」
二人が、両手を地面に着く
「よーい」
お尻をくいッと上げる。
「「ドン」」
二人が同時に走り出した。建物の屋根を飛び移りながら、軽やかな走りを見せる。
「「いやっほ~~~~う!」」
朝から響いた、二人の歓声。彼らはずっと、都市でのパルクールをやってみたかったのだ。完成をあげながら、建物を飛び回る二人をみて【暁を告げるおじ】という都市伝説ができるのだが、それはまた後の話。
王城の一室、リリアは朝からテラスにて、モーニングティーを嗜んでいた。
そこから、王都を一望するのが好きだった。同時に、自分が守るべきものを自覚し気が引き締まるのだ。そばには、メイドと近衛が控えている。扉の外には、第三騎士団のガルニも控えてくれていた。ここ最近の王城内は騒がしい。父である国王が倒れてから一気に継承戦争の火種がくすぶっている。国民たちを放っておいてまで、することではないと思うのだが、そうもいっていられない。この状況に辟易していた。
「ふぅ……」
思わずため息が出る。そんな、リリアの耳にいつもとは違う音が聞こえる。
「何?」
音の出どころを探そうと、王都の町並みに目を凝らす。
「リリア様?どうされました?」
メイドがリリアの様子に気づき、声をかけた。
「なんか、声が聞えるのよ」
「声?ですか?」
メイドも耳を澄ませてみると、その耳にも届いたらしい。
「なんでしょう?この浮かれた子供みたいな声」
「それになんか、近づいてきている気が……!」
出どころを見つけたリリアは、目を見開く。王都中の建物を、縦横無尽に飛び移る人影が二つ。
「何かしらあれ?」
リリアが、その人影を観察してあることに気づく。
「なんか近づいてきてる気が……」
「リリア様、お下がりを!」
異常に気付いた、近衛がリリアを庇い前に出る。その二つの人影は、すごい勢いで通り過ぎた。
「え?」
呆けた声を出す騎士。それもそうだ。人影は、部屋に入ってきたわけじゃない通り過ぎたのだ。ただただ、通り過ぎた。下から上に。あり得ない事態に、呆けた声もでる。そして、同時に、上から声が聞えてきた。
「今のは俺だろ?」
「いーや俺の方がわずかに早かったな」
「え~」
子供のような言い合いをする、聞き覚えのある声。
「よし、じゃんけんだ!」
「良いだろう!行くぞ!」
この無邪気にはしゃぎながら、とんでもないことをしでかす二人の姿が脳裏に浮かんだ。
「徹さんと誠さん?」
思わずつぶやくと、上での騒ぎが収まった。しばらくテラスを見つめていると、上からニョキっと頭が二つ生えてくる。
「ヒッ」
思わず、小さな悲鳴が漏れる。メイドのサラに至っては、倒れてしまった。近衛が自分を庇ってくれているが、その手は震えている。いつも、勇敢な彼女もあまりに未知の生物すぎて怖いのだろう。私が彼女の手を握り、騎士の前へと出る。
「おぉ!」
「リリア王女!」
「徹さん、誠さん」
私は笑顔で英雄二人を迎えた。
「できれば、扉からお会いしたかったです」
「「すまない」」
思わずこぼれた本音に、英雄は気まずそうに頭を垂れた。
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