エピローグ2
・第27話(7793字)
※前話に引き続き、一人称視点です。
窓の外、突如として霊園の入口付近で生えた巨木に、私は言葉を失ってしまいます。
「木……ですよね?」
「……木、ですね」
呆然と問いを発する小鳥遊くんに、私はオウム返しになってしまいます。落ち着いて見てみると、かつて祖父が自慢していた大銀杏の木が思い出されますが、しかし……。
「すみません、生憎と私は木に疎くて。一体何の木ですかね?」
「気になる木ですね……じゃなくてッ!」
小鳥遊くんが珍しく大きな声を上げます。ノリツッコミというやつでしょうか?
「な・ん・で、あんな大きな木が突然生えてきちゃったんですかッ!? 前の駐車場は完全に潰しちゃってますし、道路にもちょっぴりはみ出しちゃってるじゃないですかッ!」
私は興奮する小鳥遊くんの肩を叩き、どうにか落ち着かせようとします。
「まぁまぁ。……けど確かに、どうしてあの木は突然生えてきたのでしょう? まさか現代社会に対する大自然の警告だったりするのでしょうか」
「大自然の警告ッ!? 社長! わ、私達……殺されちゃうんですかッ!?」
「……いえ、そういうわけでは」
どうやら余計な事を言ってしまったようです。冗談を真に受けてしまったらしく、小鳥遊くんが私にしがみついてきました。意外とふくよかな胸部と潤んだ眼差しが、私の中に長らく眠っていた何かを揺さぶります。
「―――おや?」
私は努めて意識しないよう、窓の外に目を向けました。するとそこに、根本の木の影……ウロになっているのでしょうか? そこから色鮮やかな鳥達が姿を表したのです。
鳥と言っても羽毛の上に乗っている顔は、なんと、人のようです。ピンクは可愛らしい女の子で、水色は男の子。遅れて出てきたコバルトブルーは少年に見えます。
「小鳥遊くん。木から、何か出てきましたよ?」
「何か……って、何ですかアレッ!?」
彼らの存在を認めた小鳥遊くんが、再度胸部を押し付けてきます。
「侵略者ですかッ! やられる前にヤッてしまいますかッ!?」
「何を言ってるんですか。良く見て下さい。まだ子供のようですよ? かわいいではないですか」
彼らはキョロキョロと周囲を眺めています。その顔には好奇心や警戒心が浮かんでいますが、決して敵意や害意といった邪なものは感じられません。
「社長、騙されちゃダメです! あれは擬態です! 青い子は確かにイケメンですが、若い男なんてみんなヤることしか考えていないんです! 一皮剥けば、誰だって猿で狼なんですッ!!」
「は、はぁ」
酷い偏見もあったものです。まさか小鳥遊くんに、こんな苛烈な一面もあったとは……。
「若い子は私のタイプじゃありません! 木城くんは優しくて良い子だけど、それでもまだ、ちょっとだけ……こ、恐いんですッ!」
「そうだったのですか。しかし……」
「やっぱり私のタイプは、断然、枯れた老紳士なんですッ! 社長みたいな人が好きなんですーーッ!!」
「は?」
ええと、何かとんでもない事を聞いてしまった気がします。一体何を言っているのでしょうこの子は。
暫し私が思考停止に陥っていると、ピンク、水色、コバルトブルーの鳥達は羽をはばたかせ、その場を飛び立ちました。色とりどりの鮮やかな色彩が背景の大樹の緑に映え、何とも幻想的な世界を構成します。
「おっと」
「ヒッ!?」
今、ピンクの子と目が会いました。彼女はパチリと器用にウインクすると、他の子達と共に飛び去って行きました。
「本当に、何なんでしょうね? 小鳥遊くん。もう行きましたよ? ……小鳥遊くん?」
「……………………」
胸元に視線を戻すと、彼女は私に抱きついたまま、完全に白目を剥いていました。興奮が過ぎたのか、ちょっとだけ鼻血が垂れてしまっています。
「美人が台無しですよー……はぁ。仕方ないですね」
彼女の体を引きずるようにして隣の和室――会議室兼休憩室に運び、そのまま畳に寝かせます。
「なんだかんだ言って、君も疲れていたのですかね。……きっと張り詰め過ぎてしまったのですね。可哀想に」
座布団を頭に添えて鼻血を拭いティッシュを詰め、毛布を上から掛けながら―――はて、これからどうしたものかと悩み始めます。
とにかくあの突然生えてきた巨木を警察に通報……する前に、あれが実際にどういったモノなのか気になってしまいます。やはり、この目で直接確かめてみたいです。もし危ないようなら、すぐここに戻って来れば良いと思うので。ええ。
私はいそいそと階段を降りて外に出ます。そのまま道路を渡って対面の霊園へと向かいました。
「まだ、私だけのようですね」
この霊園にも管理事務所は存在します。しかし、ここから離れた別の所にあり、専任の方が近くに常駐しているわけではありません。この異常事態に、私と小鳥遊くん以外に気付いた人はいないのか。はたまた気付いたけれど警戒して近づかないようにしているだけか。
私は巨木の側面に周ります。先程の鳥達の姿はありませんでしたが、その代わり、一つ興味深い物を見つけました。
「……ふむ」
巨木のウロと思っていた部分なのですが、側面から見ると、上下に真っ直ぐ伸びた漆黒の影になっています。映画館の緞帳を連想させるものです。
「ただの影ではない。手首の先が一切見えませんね」
影の中に差し入れた私の手首が、影によって切断されたように見えます。痛みは無く、グーパーを繰り返す指先の感覚もあります。影から手を抜き、入れる前と状態が変わっていない事を確認していると
「うわっス!」
「おっと、これは失敬…………木城くん?」
唐突に、影の中から、いつもの自転車を引いた木城くんが姿を現したのです。
「木城くん……ご無事でしたか。今まで一体どこに」
「社長? ……すみません、遅くなってしまったっス! ちょっと異世界に召喚されてたっスよ。本当に無茶苦茶だったっスけど、やっと帰ってこれたっス! やったーーーーっスッ!!」
《やったの、悠馬よ! おお、そちらは社長さんじゃの。いつも悠馬がお世話になっとるの!》
「フォンユウマ、ウンハバハアルシキヒス? ハルアントファードミンアレアユイラ」
ええと、どこから突っ込んだら良いのでしょう?
木城くん、異世界に召喚されていたとはどういう事でしょう? それに、この頭に直接語りかけて来る老人の声は何なのでしょう? いや、その前に
「木城くん。その方はどういった方でしょうか? その着ているものは……鎧、ですか?」
「?」
私の疑念に気付いたのか、その鎧の男性は首を傾げます。いわゆるコスプレというのでしょうか? しかし、その鎧や素肌に見つかる大小の傷跡は、コスプレなどといったものを遥かに超えた、本物の風格が感じられます。
「社長。この人はアゼルさんっス。異世界の騎士の方で、こっちの世界を知りたいってついて来たっスよ」
「なるほど。異世界の騎士? の、アゼルさんですか。……ミスターアゼル? アイム、ナリタ。ナイストゥミートユー」
「……?」
咄嗟に英語で挨拶してしまいましたが、その鎧の男性――アゼルさんは首を傾げます。異世界の騎士、だからでしょうか? 少なくとも私の言葉は、アゼルさんには通じていないようです。
「アゼルさん。この人は社長の成田さん。成田一郎って人で、自分の会社……仕事の上司っス」
「ファハムト。フォンナリタ、タスハラフトビムクァバラティック。アナ、アゼル。イナニアタタラエリレアマルマアエク」
木城くんの言葉であれば、アゼルさんは理解できるようです。彼は自己紹介のジェスチャーの後に、右手を差し出して来ました。
「社長、おりいってお願いがあるっス。アゼルさんを暫く泊める事はできないっスか?」
差し出された右手を私が握り返していると、木城くんがよく分からない事を聞いてきます。
「この方を、泊める……のですか?」
「はいっス。ウチはアパートでかーちゃんとねーちゃんがいるし、アゼルさんを泊める部屋が無いっス。どうしてもダメなら、自分の部屋に泊まって貰うっスけど」
「駅に行けばビジネスホテルがありますが、それではいけませんか?」
「アゼルさんはこの世界のお金は持ってないと思うんスよ。……アゼルさん。お金って持ってるっスか?」
「ハルフアルマイ? ラディ、カムタハタジ?」
アゼルさんは腰の革袋から小袋を取り出し、その中身を私達に見せてきます。中身は金銀銅の硬貨のようで、木城くんが許可を得て、最も枚数の多い銀のコインを取り出して貰いました。
「やっぱり全然違うっスね。強いて言うと五百円玉に近いっスけど、これじゃあ……」
木城くんはその場で頭を抱えます。しかし、差し当たってやらなければならない事は、他にあると思うのですが……。
「木城くん。ひとまず会社に戻りませんか? 落ち着ける場所で話をしたいのですが」
私は木城くんに提案しました。この混沌としてきた現状を、少しでも整理する必要があると考えたのです。
「分かったっス。アゼルさん、こっちっスよ」
「イイラアアユン、アントデハフブ?」
「あぁ、とりあえず自分の会社に行くっスよ。あそこっス」
「ハルハドハアラマブナ? イイナフミンマブナアジャデャビン」
《うむ、元々は古い酒屋であった所を借り受けて改修したという話じゃからの。儂もこの昔ながらの風情のある佇まいは気に入っているぞい》
「それは、ありがとうございます?」
再度老人の声が、直接頭に聞こえてきました。どういうわけか私や会社の事を知っているみたいですが……先に聞いてみるべきでしょうか?
「ええと、木城くん。その……アゼルさんとは別に、もう一方おられるのですか? 先ほどから声が」
「ああ、そういえば説明していなかったっスね。この声は―――」
会社に歩みを進めながら、木城くんに訊ねます。それに対して木城くんが口を開いた、その時でした。
「ピィーーーーーーーーッ!!!」
「ヒヒーーーーン!!!」
甲高い鳥の声と馬の嘶きが、背後から鳴り響いたのです。加えて
「アーーふ、ハドハふっ!」
木城くんが引く自転車のサドルに、鮮やかなピンク色が鎮座していたのです。先程私にウインクを放った子のようですね。その子が、背後に向かって嬉しそうに羽を振ります。さらに
「ユウマッ!!!」
背後を振り返った私の目に飛び込んできたもの。それは、巨大な馬を背後に従え、肩に水色の鳥――これもさっき見た子ですね。を乗せた、とんでもない美人さんでした。
豊かな胸部に腰から臀部にかけての曲線は、まさに圧巻の一言。ただ美しいだけでなく、個性的な服装の上からもしっかりとした筋肉のある様子が分かり、全体として健康的な雰囲気を放っています。
波打つプラチナブロンドが太陽に反射し、凛々しい眼差しに込められた瞳が、実に嬉しそうな輝きを放っています。その額に着いているのは、角……なのでしょうか?
「ネーヴェさん……と馬まで来ちゃったっスか。って、ちょ! うぷッ!」
彼女は満面の笑顔を浮かべ、獣じみた速度でこちらに突っ込んできました。気が付くと、横にいた木城が、真正面から羽交い締めにされていたのです。
「アライスティマエ、ユウマ。ワファクアルシャイタンリィルディハハビ」
彼女は熱っぽく木城くんに伝えます。彼女が何を言っているのか、私には理解する事ができません。
《……なるほど、魔王の奴がの。ちゅーかユニちゃん。お主、いつの間に儂に乗ってたんじゃ?》
「エヘ。アントリムツァヒズディハリく!」
老人の声に、ピンクの鳥の女の子が満面の笑顔を浮かべます。この子も言葉を喋れるようですが、やはり私には理解する事ができません。
「フォンネーヴェリア。リマディアラタフシルバユナフマ? ヤブディウアナユエアニ」
「エドハラナ。アスフ、ユウマ……」
「ぷはっ! はーッ、はーッ……」
アゼルさんが声をかけることで、女性が腕の力を緩めました。たわわな胸から解放された木城くんが大きく息をつきます。
「……木城くん、この方もお知合いですか?」
「ええ、はいっス。この人はネーヴェリアさんっていう方で、自分が世話になった人っス。……あー、ネーヴェさん。こちらは自分の仕事の上司で、成田一郎さんて言うっスよ」
「フォンナリタ。タシャラフトビムカバラチカ。シュカラアンリダエマクム。アナ、ネーヴェリア・パラ・ヒューム。アナアンカディトハヤチ、ユウマ」
そう言って、彼女――ネーヴェリアさんは、キリリとした表情で自らの胸に拳を当てます。
「ユウマ、ハナククィサト。ハルタスマエウニ」
「え、大事な話……っスか?」
真剣な眼差しを向けるネーヴェリアさんに、木城くんは怪訝な表情を浮かべます。私も聞きたいことは山ほどあるのですが、どうやら口を挟んで良い雰囲気ではなさそうです。
「タラカィトムヒマタンジャヂダタンミンアルマリクシャイタン。アルムヒマトヒダエムクフィムラファカトワイイルサルアルカワチ。リヒドハアルサバブジット。……イイナフヤジフ」
「なるほど……って、表向きの理由っスか?」
「ラカドアンカディトク。リドハサウエチクバクィアタンハヤティク。クントハクァアンサウグハディラアルジャイシ」
「そうっスか、軍を辞めてまで。……けど」
「ラカドラファディンアルシャイタン。ラ、ラヤフム。ハルジャイド? ウクルハマラタンワヒダタンファクト」
「どうだって良い、って―――ッ!?」
ネーヴェリアさんにいきなり肩を掴まれて、木城くんの体がビクリと震えます。
「アナマエジブブク! アリディク! ツズイジ、ユウマ!!!」
「へ? 結こ―――むぐッ!!?」
ぶちゅり、と音がしました。
ネーヴェリアさんが木城くんに、強烈な接吻を放ったのです。
「……ワぉ」
ピンクの子が照れたように羽で顔を隠す仕草をします。しかし、その目はしっかりと見開いていますね。因みに水色の子は、不思議そうに首を傾げています。
「なるほど。そういう事でしたか。木城くんも中々隅に置けませんね」
《うむ。悠馬はモテるからの。けどこれで、ようやく童貞も卒業じゃの!》
「フォンガイア。アライスムクフタリファナカリラ?」
老人の声に、アゼルさんが言葉を返します。相変わらず言葉は分かりませんが、言いたい事は理解できる気がします。
「………………」
それにしても長いですね。ネーヴェリアさんは目を瞑り、木城くんの肩と唇を捕えたまま微動だにしません。対する木城くんは目を白目させながらガタガタと震えています。あ、段々と顔色が青くなってきましたね。
「一旦止めませんか? 木城くん、苦しそうですよ?」
《嬢ちゃんストップじゃ! 悠馬が窒息してしまうぞいッ!!》
「「……プハッ!!」」
老人の声掛けで、二人の体が離れます。ネーヴェリアさんが息を荒げ、木城くんがその場に崩れ落ちます。
「大丈夫ですか? 木城くん」
「はーッ、はーッ……うぅ。もうお婿に行けな……って、何スかネーヴェさうぶッ!?」
「~~♡」
間髪を置かず第二回戦が始まりました。地面に背中を着ける木城くんはネーヴェリアさんにマウントを取られ、完全に身動きが取れない状態です。
「いやはや。実に慕われていますね、木城くんは」
「ハルエラリアアルタワクフ?」
鎧姿のアゼルさんが、問うような視線を私に向けてきます。
「……ええと?」
《あー、『止めなくて良いのか?』って聞いてるぞい》
「む゛ーー!」
困る私に、老人の声が解説してくれました。私はくぐもった呻き声を聞きながら、その場で肩を竦めます。
「なるほど、ありがとうございます。確かに社会人の立場としては止めるなのでしょうが、蹴られてもアレなので……ここは大人しく待った方が良いかもしれません」
《ん? 蹴られるのかの?》
「人の恋路を邪魔すると、馬に蹴られて死んでしまうそうですよ? ですので、まぁ良いんじゃないでしょうか。二人ともまだお若いですし、何より楽しそうですしね」
「む゛ーーーー!!?」
《そうじゃの。楽しそうじゃの》
「ビアリアーキッド。ヤブドウルムッターン」
「ムッターん」
「チー」
「……ハドハサヒフン。ヤブドウルムッターン」
「!!!」
いつの間に来たのか、見知らぬ男性が会話に加わっていました。ネーヴェリアさんが弾かれたように顔を上げ、ちゅポンと音が鳴ります。
流れるような銀髪に金色の瞳を持つ、絶世的な美男子。頭の左右に、山羊の巻き角のような飾りを確認できます。……飾りですよね? 先程のコバルトブルーの鳥の少年が、肩の上に乗っています。
《何じゃ。貴様も来とったんか》
「アナラストアリワヒデ。アンザー」
老人の声に男性が後ろに顎をしゃくると、そこには人々が集結していました。
一人は、真っ赤なローブに逞しい胸板を覗かせる、背の高い男性。馬乗りにされた木城くんの姿に苦笑いを浮かべます。
一人は、同じくローブ姿の、長く尖った耳先が特徴の美少女。木城くんとその上の女性に向けて、赤い瞳を細めています。
一人は、重厚な鎧姿の巨漢。頭痛を耐えるように角? の生えた額に手を当てて、気まずそうに視線を伏せています。
一人は、やはり角? のあるグラマラスな金髪美人。満足そうに頷く顔は、今も木城くんに跨るネーヴェリアさんによく似ています。お姉さんでしょうか?
「木城くん、この人達は……?」
「自分が向こうで世話になった人達っス。みんな、来ちゃったんスね……ハハハ。ってちょっと、コラッ」
「ブルルル」
若干震える声で問う私に、木城くんは乾いた感じの笑いを浮かべました。すると、巨大な馬にベロベロと顔を舐められて、彼はくすぐったそうに天を仰いだのです。
――――
―――
―
簡単に、その後の顛末を説明したいと思います。
警察官が来ました。巨木がいきなり生えた事で、私ではない別の誰かが通報したようです。
警察官は、まずその場に集う人達に驚き、巨大な馬と鳥の方達に引いていました。至極当然の反応かもしれません。
次に木城くんの提案で、彼が異世界と称したその場所へ、巨木の影を通じ、警察官を含めた全員で向かいました。本当に世界が広がっていたのには、私も驚いたものです。試しに自分の頬を抓ってみましたが、ただ痛いだけでした。
その後、元の世界に戻ったタイミングで警察官が応援を呼び、駆け付けた刑事さん達によって、巨木の影――木城くん達に【ワールドゲート】と称された周囲に規制線が張られました。ドラマなどでよく出てくる黄色いテープですね。
異世界の方々に関しては、その日は帰って貰い、また翌日に顔合わせする運びとなりました。ネーヴェリアさんは最後まで渋っていましたが、ベテランの刑事さんが木城くんを通じて法律違反であることを伝え、それでどうにか納得を頂けたようです。
規制線が張られる間、私は木城くんの母親――典子さんに彼が見つかった事を電話で伝え、インドのラーヒーさんにテレビ会議の延期願いをメールし、事情聴取を終えた後に会社一階の倉庫で最低限の入出荷作業を木城くんと協力して済ませてからシャッターを閉めました。木城くんのご家族を一刻でも早く安心さるべく彼には真っすぐ帰るよう伝え、私も帰宅しました。
その日は早々に床につき、朝までグッスリでした。私も疲れていたみたいです。
翌朝、私が出社して会社の階段を登ると、頬に畳の跡をつけた小鳥遊くんが部屋の隅っこで震えていました。木城くんが見つかった事や異世界の住民達が危害を加えないであろう事を伝え、ようやく安心してくれた様子になりました。
しかし彼女の事をすっかり忘れていたのは、完全に私の落ち度です。なので彼女には、いずれお詫びをしなければと考えております。ええ。




