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19:50~20:20 褒賞


「―――こうして空の上からジェームズ殿と挨拶を交していると、突然、ガイア殿が前方に巨大な鉄塊を生み出した。前方へ真っ直ぐに延びた、馬上槍ランスのように先の尖った物だ。ガイア殿に理由を問うと、なんと……崖の下に落ちたグランドドラゴンが、未だに生きているというのだッ!」


「ーーッ!」

「なんてしつこい……」



 グランドドラゴンの巨大な頭蓋骨が置かれる壇上において、ネーヴェリアが熱弁を揮っている。魔王、マリアベルに続く三度目の説明のためか、大分(こな)れた感がある。



「現に私がこう下を覗き込むと、だ。奴の身体全体が白く発光していてな。落下による怪我を回復魔法ヒールで治していたのだ!」


「ドラゴンが、回復魔法ヒールだとッ!?」

「そんなの無敵じゃない!」



 彼女から語られる当時の状況に、聴者である人々は一喜一憂する。語る当人が調子づくわけである。



「そこで私達はガイア殿の提案で、空からの奇襲を敢行した。具体的には全てのハーピー達が離脱することによって、グランドドラゴンが居座る崖下へ突撃したのだ!」


「崖下へ……って、空から?」

「単に落ちただけでは?」



 アネリアによる冷静な指摘に、ネーヴェリアは目を泳がせた。



「……かもしれんな。いずれにしてもガイア殿が生み出した巨大な鉄塊は、グランドドラゴンの頭に命中した。その一撃で、奴を絶命に至らしめる事が出来たという次第だ」


「お、おおーー!」

「凄えな。マジでスレスレじゃねぇか」

「全くですわ。……血は争えないですわね」



 語られた顛末に、父トーラスは手に汗を握り、母マリアベルは遠い目になった。



「以上だ。質問はあるか?」



 壇上からの問いかけに複数の手が上がった。それらの中には兵士達のみならず、エプロン姿の女性や給仕の男性、キレス砦の騎士のものも見受けられる。




「―――ガイア殿、ユウマ殿」




 ネーヴェリアとの質疑応答が行われる中、悠馬達に呼びかける声があった。ネーヴェリアの補佐を務める壮年の男――モルドである。



「改めて、お嬢様を救っていただいてありがとう御座います。本当に、何とお礼を言ったら良いかと……」



 彼はそう言って、深々と頭を下げる。



《モルドさんか。礼なら悠馬にの。悠馬が、あの娘を助けに行くと言うて聞かんかったんじゃからの》


「……そうでした。このモルド、もうユウマ殿には一生頭が上がらないかと」


「ちょ、ガイア! モルドさん!」



 悠馬はあたふたと慌てる。その様子を見て、キラリと目を光らせる存在があった。



「ハイ! ハイ! ハイ! ハイッ!」


「うぉっ! なんだシルビア? 質問か?」



 年若い軽装の女性兵士である。名を呼ばれ、彼女はニンマリと笑みを浮かべた。



「ハイ! ユウマきゅ……ユウマ君に質問ッ!」


「え。……自分に、っスか?」



 突然の指名に、悠馬は意表を突かれた表情になる。



「ユウマ君は、どうしてネーヴェ様を助けようと思ったの? あのグランドドラゴンだよ? 恐いと思わなかったの?」


「ええと、そうっスね。確かに恐いと思ったっス。……けど」



 そう言って、悠馬は頬を掻く。



「ネーヴェさんが村から一人で飛び出して行った時、ネーヴェさん、本当に辛そうだったっス。その顔を見て、自分はどうしても、いてもたってもいられなくなったっスよ……」


「ユウマ……」



 その声に悠馬が振り向くと、頬を染め、目を潤ませたネーヴェリアの顔が向かえた。



「ユウマ、ありがとう。ユウマの決断のおかげで私の命は救われた。……本当に、ありがとうな」


「いや、まぁ。……無事で良かったっス」



 ネーヴェリアに釣られるようにして、悠馬の頬も赤く染まる。そんな二人の醸し出す雰囲気に、人々の反応は、概ね以下の三つに分かれた。



「……お?」

「ネーヴェリア……様?」

「お嬢様……ひょっとして!」

「……!」

「おいおいおい! どういうこったッ!?」



 第一は、単純に驚きを示す者達。ネーヴェリアの悠馬に向けた好意に気づいていなかった兵士達やアネリアを除く騎士達、フレアを除く屋敷の使用人、兄エルディオス、父トーラスなどがこれに該当する。



「「「キャーーッ!!!」」」

「若いって良いなぁ。僕も十年若ければ……」

「いやいや若すぎるっしょ! 師団長! それはちょっと犯罪じゃないっすかあぁッ!?」

「ユウマ様はああ見えて十九歳。合法ですわ、合法! そのままブチュッて行っても問題ありませんわよ!」


 第二は、テンションを上げて大喜びする者達。先程のシルビアを含む女性兵士達や、所帯持ちの男性兵士達、母マリアベルなどが該当する。



「「「「「「「「ーーーーうぐッ!!!」」」」」」」」


 最後は、ほぞを噛んでうめき声を上げる男達。詳細については、彼らの名誉のために割愛したい。



「……『合法』……『問題ない』……確かに。ユウマ」



 ネーヴェリアは一部の反応を耳ざとく拾っていた。彼女は悠馬の頬に触れ目を瞑り、おもむろに自身の唇を近づけた。先の演説中にもカパカパと空けていたアルコールの力を借りたものでもある。



「んーー……」


「あ、あーー! 自分も質問っス!!」



 急接近して来る、熱く、酒臭い吐息に耐えかねた悠馬は、苦し紛れに質問を放った。



「む……何だユウマ?」



 ネーヴェリアは不機嫌そうに目を開く。



「ええと、その……そうっス! あのグランドドラゴンみたいな化物って、やっぱこの世界でも珍しいんスか? その前のオークキングもっスけど」


「それは、そうだな。確かにグランドドラゴンのような化物など、これまで見た事もなかった。オークキングも噂で聞く程度だったしな」



 ネーヴェリアは悠馬の頬を撫でながら、眉根を寄せて回答した。



「師団長、其方には黙っていたが、グランドドラゴンの他にも目撃例が出ている。こちらは雷を纏う、巨大な角を生やした魔獣だそうだ。かの伝説とされる『ベヒーモス』などと噂されている」



 魔王がため息とともに、不穏な情報をもたらした。その内容に、会場全体がざわめき立つ。



「……いや、けどよ。グランドドラゴンやその『ベヒーモス』って奴もだけどよ、それ以外だって十分ヤバイよな。数は年々増えてるし、明らかに強くなってるし、でよ?」



 トーラスの発言に、兵士達と騎士達が真顔で首肯する。



「父上、それは私も肌で感じています。そう言えばユウマも、最初、バケガラスの大群に追われていたな」



 ネーヴェリアは悠馬の背後にくるりと回り、その背にベッタリとのしかかった。



「ネーヴェさん。ちょ、重いっスって!」


「まーたそんな可愛くない事を言う。そんな事を言う口は……こうだッ!」


「ひょ! む゛ーーーー!」



 ネーヴェリアが片手で悠馬の両頬を挟み、それに悠馬が抗議の声を上げる。そんな傍目には楽しそうなやり取りに、一部の男達はついに血の涙を流し始めた。



「まぁ、例によってあの子が一方的に慕われているだけで、あの子に悪気は無いのでしょうけど。……さすがに可哀想になってきましたわね?」


「そうだな。あー、ネーヴェ。悪いこた言わねぇ。一言でも謝っとけ。な?」


「謝る? なぜですか」



 父トーラスが説得するも娘は不思議そうに首を傾げるばかり。まさに親の心子知らずを表したような一幕である。




「しかし仰る通り、魔物共の増加と強大化は問題になっています。我が国でもここ数年で被害が急増しました。他国も同様のようで、互いに休戦協定を結んででも対応せざるを得ない状況です」




 ジェームズがその場で立ち上がり、真面目な様子で語り出した。



「それは大変っスね。休戦協定は良い事だと思うっスけど……」



 悠馬は、ネーヴェリアに引きずられてゆらゆらと左右に揺れながら所感を述べる。



「けど、どうしてそんな事になってるっスかね。何か原因があるっスか? 環境破壊とか」


「一説には魔素の高まりが関係していると言われています。そうなった事で、我々の魔法の効果が上がったのは良いのですが、魔物共の増加や強大化に繋がっているのであれば困りものですな」



 ジェームズの説明に、悠馬は首を傾げた。



「ええと、『魔素の高まり』って何っスか?」


「―――まず『魔素』とは、空気中に漂う目には見えないもので、魔法の現象を引き起こすもの。例えば火や水、風、光や闇を生み出したり、土や石を飛ばしたり、怪我を治したり、一時的に身体を強化したりすると考えられているものです」



 悠馬の質問に、ジェームズが律儀に説明する。



《なるほどの。魔素がどんなもんかは何となく分かったわい。儂らがこの世界に喚ばれた時、大量に(・・・)儂の中に入ってきた(・・・・・・・・・)アレじゃな》


「ん? どういう事っスか」


《こっちの事じゃ。……あぁ悠馬よ。この世界は儂らの世界と空気が違うのじゃ。目には見えん、不思議な力の源となる何かが、そこら中に混じっとる感じじゃの。ジェームズさんや、その魔素が『高まってる』っちゅう事なのかの?》



 ジェームズは腕を組んで頷いた。



「その通りです。そうですな……あちらに灯りが見えますが、あれに組み込まれている『魔核』には光魔法ライトの式が刻まれています。その『魔核』に空気中の『魔素』が反応する事によって、光を生んでいると考えられるのです」



 彼は壁の燭台を示しながら説明を続ける。



「魔物から取れる『魔核』はどうしても劣化するものなので、光は年々弱くなっていくのが普通です。しかし近年では、逆に、光が強くなっているのです。少なくとも我々の国では、ですが……」


「この街全体でも同じ現象が起きておりますわ。もちろん、当家でも」



 マリアベルが思案げに応じる。



「なるほど。それで『魔素』が濃くなったと考えられているっスね。良く分かったっス」



 悠馬の感想に、その場の全員が頷いた。





「ところで魔王様。『魔核』と言えばですが……グランドドラゴンから凄いのが取れたかと」



 悠馬の間近で話を聞いていたモルドが、思い出したように口を開いた。



「うむ、今は余が預かっている。まだ皆には見せていなかったな」



 魔王はそう言うと、その場に異空間を形成し、その中に自らの両手を入れた。そこから彼が取り出したのは、プラスチックのような透明感がある、ゴツゴツした一抱えもの塊であった。



「魔王さん、それは?」


「グランドドラゴンの体内、肺の付近にあった『魔核』だ。これだけの大きさの物は、余も初めて見る」



 魔王の発言に、周囲は再度ざわめき立つ。



「あれが……『魔核』だと!?」

「あんな大きいの、一体いくらするのよッ!?」


「額の算定は容易にできぬであろう。絶大な価値があるのには違いない」



 魔王が語ると、悠馬に視線を向けた。



「ユウマ。この『魔核』の所有権だが、グランドドラゴンを撃破した最大の功労者である其方……と、そこの乗り物にあると余は考える」


《……ほう?》


「頂ける、って事っスか?」



 悠馬の質問に、しかし魔王は首を横に振った。



「いや。『魔核』を含めた素材の大半は確かに其方達の取り分になるが、それらは全て、余に譲って欲しい。しかるべき対価を約束しよう」



 魔王は悠馬とガイアの所有権を認めた上で、さらに取り引きを持ちかけたのである。



「つまり、売ってくれって事っスか?」


「……平たく言うとそうだな」



 悠馬の確認に、魔王はどことなく思わせぶりな様子で頷いた。



《こ奴にしては気の利いた話じゃが、物凄く怪しい気がするのう? けど儂のものは悠馬のものじゃから、悠馬が好きに決めれば良いと思うぞい》


「え゛……そうなんスか? まぁ自分もグランドドラゴンの素材なんていらないから良いっスけど、『物凄く怪しい』だなんて言われると……うーん」



 悩み出す悠馬に、魔王は焦れた様子で口を開く。



「何を迷う事がある。対価として其方達には十分な金銭と、魔王軍における(・・・・・・・)確かな地位(・・・・・)を与えるつもりだ。決して悪いようにはしない……」






「…………ジェームズ、まずい」




 ジェームズに椅子を横付けして座っていたアネリアが、真剣な表情で呟いた。



「アネリア? 何が―――」

「引き抜かれる」



 その一言に、ジェームズは椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる。



「ユウマ殿! ガイア殿ッ!」


「ちょ、どうしたっスかジェームズさん!? そんな慌てて」


「ユウマ殿。……あなた達の活躍で、こちらも多くの者が救われました。ですので我々としても可能な限りの報酬と、確かな地位(・・・・・)を約束したいッ!」



 ジェームズの宣言に、魔王ははっきりと舌打ちを鳴らした。



「―――フフッ。皆、お前の価値が分かっているのだな。凄いな。ユウマは!」



 にわかに険悪な空気が漂い始めた中、悠馬にのしかかるネーヴェリアがよしよしと悠馬の頭を撫でる。



「ネーヴェさん、ちょっと」

《そのようじゃの。悠馬よ、この際じゃ。何でも願いを言ってみたらどうじゃ?》


「おお、それは良いな! よし、この私が何でも叶えてやるぞッ!」



 ネーヴェリアは悠馬の頭に頬ずりし、鼻息を荒くする。完全に酔っ払いの所業である。



「なるほど、『願い』っスか……」



 ネーヴェの行為は既にセクハラのそれだが、悠馬は彼女への文句を口にする事なく表情を真剣なものに変えた。



「ジェームズさん」


「ユウマ殿!」



 悠馬に声をかけられ、ジェームズは嬉しそうな笑顔を浮かべる。







「自分、そろそろ家に帰りたいんスけど。……いいかげん元の世界に戻してもらっても良いっスかね?」







 悠馬の口から語られた『願い』に、ジェームズの笑顔が凍りつく。



「……なんだ? ユウマは帰ってしまうのか? ウチで一晩泊まっていけば良いではないか? な?」



 ネーヴェリアが悠馬の前に回り込み、童女のような眼差しで訴える。



「ネーヴェさん。自分、ただでさえ今日は会社を、仕事を無断で休んでしまってるっス。だから明日は行かないと! これ以上社長や小鳥遊たかなしさん、お客さんに迷惑をかけるわけにはいかないっス。それに、かーちゃ……母にも」


《そうじゃったの。悠馬の言う通りじゃ。皆が待ってるの!》



「そっか。それなら仕方がないな」



 悠馬とガイアの主張により、ネーヴェリアは意外にもあっさりと引き下がる。この世界から悠馬達が『帰る』という事の意味を、彼女は今ひとつ分かっていないようである。



「―――ユウマ」



 悠馬の前に近づく存在があった。席を立ったアネリアである。



「一つ、あなたに言わなければならない事がある。ガイアにも」


「アネさん? どうしたっスか改まって」



 アネリアは悠馬達から視線を下げ、次のように述べた。




「悪いけど、あなた達を元の世界に還す方法は存在しない。あなた達を元の世界に還すことは出来ない」




「アネリアッ!!」




 アネリアによる自白・・に、ジェームズが悲鳴に近い大声を上げる。



「ジェームズ。この事こそ、いつまでも隠し通せる事じゃない。せめてはっきりと伝えるべき。……ユウマ、ガイア。先に発見された『勇者召喚の式』には、文字通り、勇者を召喚する方法しか(・・)書かれていなかった。それを行使したあの時、あなた達の都合や気持ちを考える余裕が私達になかった……」



 そこまで述べて、彼女は悠馬とガイアの目の前で膝をつく。



「それでも私達の勝手な都合であなた達を喚び出して還る方法もないのは、どう考えても私達が悪い。……本当にごめんなさい。どうか、愚かな私達を許して欲しい」



 そのまま床に、自らの頭をつける。紛う事なき土下座である。



「そんな……」



 呆然とする悠馬の前にもう一人、ジェームズが近づく。彼もまたアネリアの隣に土下座する。



「ユウマ殿、ガイア殿。貴方達を召喚したのは、私一人の判断で、私自身が実行した事です。なので全ての罪は私に……ッ! もし気が済むのであれば、わ、私は、どうなっても構いません! ですがアネリアや騎士達は、どうかッ! 何卒ッ!!」


「ジェームズさん」


「「「ジェームズ様……ッ!」」」



 ジェームズの取った行動に全ての騎士達が立ち上がり、ジェームズの前に回り込むと、悠馬に向かって土下座する。



「ここでジェームズ様を喪うわけにはいきません。ユウマ殿、ガイア殿。この場は私ので許して頂けませんか?」


「アゼルッ! なら!!」



 アゼルに次いで我も我もと首を差し出そうとする騎士達に、悠馬は大きく狼狽えた。



「ち、ちょっと。待つっス。待って欲しいっスッ! 自分そんな首なんて要らないっスよ。誰にも死んで欲しくなんかないっス! 怒ってもないっスから、どうかみんな頭を上げて欲しいっス」



 悠馬の言葉に、ジェームズ、アネリアを含む騎士達は揃って頭を上げた。



「……ユウマ。彼らを許すのか?」



 悠馬の背後から頭を覗かせたネーヴェリアが、悠馬に声をかける。



「まぁ、ジェームズさん達が悪いわけじゃないじゃないっスか。あのオークの大群に困って、仕方なく自分達を呼んだのは分かってるっスよ。……ガイアも、良いっスよね?」


《もちろんじゃ。って言うか、儂には感謝しかないわい。この世界に喚ばれたおかげで色んな事が出来るようになったし、こうして会話だって出来るようになったしの。悠馬には悪いがの》


「ユウマ殿、ガイア殿……ッ!」



 ジェームズは、感激したように涙を浮かべた。



「……一つ、良いだろうか?」



 そんなジェームズの後方で、魔王が手を挙げる。



「その、ユウマ達を喚んだという『勇者召喚の式』か。具体的にはどのような物だ?」


「そうですね。魔王様であれば、口で説明するよりも現物を見て頂く方が早いかもしれません。今、お出ししますので」



 ジェームズはそう言うと懐に手を入れ、そこから厚みのある矩形の箱を取り出した。魔王はそれを受け取ると、空いたテーブル上で箱を開け、中身――古びた紙束を一枚ずつ確認していく。そんなやり取りを横目に、悠馬はため息をついた。



「ユウマ、元気を出せ! 仕事がなくても私が養ってやるから心配するな!」


「……自分、ヒモは嫌っス」


「なら俺の仕事を手伝ってみるか? 簡単な奴からちょっとずつ慣れていけば良いからよ」


「トーラスさん。気持ちは有り難いっスけど、社長に黙って勝手に職を変えるのは気が引けるっス」


もっともですわね。……ジェームズ様、せめてユウマ様達の世界の方々と連絡を取り合う方法はないのですか? どこかにこっそりと書かれていたりしないでしょうか?」


「マリアベル殿。『勇者召喚の式』は穴が開くほど読み込みましたが、そのような示唆はなかったと思います。けど、式を改編する事で……あるいは……」



 ジェームズは否定を返したが、思い付いた事があるらしく独り言を呟く。



「……式は複数の式の複合で、『世界を繋ぐ式』と、『条件を満たす魂を探索する式』と、『魂の主を呼び寄せる式』と、『この世界に適合させる式』だったはず。これらの式を別のものに差し替える事で……もしかすると」


「そのようだな。ざっと見た所、【ワールド・コネクト】、【サーチ・ソウル】、【サモン・ターゲット】、【フィックス・ブレイブ】の記述がある。最初の【ワールド・コネクト】に他の式を組み込む事も、理論上は可能であろう」



 魔王が書面を眺めながら、ジェームズの意見に同意した。続いて彼は、ふと思い付いた着想を口にする。



「仮にだが、【ワールド・コネクト】の後に余の【ゲート】を組み込んだらどうなるであろう。しかし、余の【ゲート】は―――」



「それっス!!!」



 悠馬が突然叫び声を上げた。



「そうっスよ! 魔王さんの魔法でこの世界と自分の世界とを繋いじゃえば良いっス! ガイア、帰れるっスよ!」


《うむ、そう……かの?》


「ジェームズさん、魔王さん。お願いするっス! 自分が元の世界に帰るのに協力して欲しいっス! この通りっスよ!!」



 悠馬はジェームズと魔王に頭を下げる。



「ユウマ殿。……もちろん私はユウマ殿達の帰還のために全力を尽くします! 魔王様も、宜しいでしょうか?」


「ジェームズさん!」



 悠馬はジェームズに笑顔を送ると、次いで魔王に視線を向ける。



「そうだな……繰り返しになるが、ユウマはグランドドラゴンの撃破を果たした恩人だ。余も魔王として、其方達の帰還に協力すべきなのであろう」


「魔王さん……!」



 悠馬は輝くような笑顔を浮かべた。そこに










「―――だが断る!!!」









 魔王の口は、はっきりと拒絶を述べたのである。





「え。…………魔王さん?」



 突如として手のひらを返した魔王に向けて、悠馬は理解が追いつかない、呆然とした表情を浮かべるのである……。


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